35 ハティ
更新が本当に遅くてすみません。
あらすじ:ケリュネイアを捕まえたリーシャ達
ガックリと項垂れたケリュネイア。
その角に掴まるラタトスクは死人に鞭打ちするかの如く飛んだり跳ねたりして喜んでいる。
地面に腰を下ろして休むリーシャの隣でうつ伏せのままのペロが視線を向けた。
「主、一つ訊きたいにゃ」
「ん?」
リーシャは息を整えながらペロを見やる。
「何で木の精霊とか使わなかったにゃ?」
「ああ...」
少し眉尻を下げて苦笑いするリーシャ。
「森の中なら木の精霊使った方がもっと楽に捕まえられたんにゃない?」
「ふふ...確かにそうだな。ただ、幻獣界では精霊の力が半減するというのは契約した精霊だけなんだよ。契約していない精霊に干渉しようとすると幻獣界を作った幻獣、つまりはケリュネイアの精霊への干渉が強くて奪われてしまうんだよ」
「つまり、主が木の精霊の力を使おうとするとケリュネイアに使われてしまうって事にゃ?」
リーシャはペロを撫でて微笑んだ。
「その通りだよペロ」
「うにゅぅ〜」
リーシャの撫でテクに気持ち良さそうに目を細めるペロを愛おしそうに微笑んでふと視線を落とした。
幻獣界の中では精霊はみな幻獣の支配下となってしまうのは知っていた。
しかしリーシャは四大精霊とペロしか契約していなかった。
何故ならハイエルフという種族そのものが精霊の愛し子であり契約せずとも進んで力を貸してくれるために余程の事が無ければ必要としていなかったのだ。
しかし結界に護られ緩やかで穏やかなハイエルフの里を出たリーシャには今回の様にいざという時に使える精霊との契約を増やさねばいけない。
自分の力を過信していた事を悔やんだ。
「ビュルルルルル」
ふと顔を見上げるとケリュネイアがラタトスクを乗せたまま近付いてきた。
ケリュネイアが前脚を畳んで屈む。
「なんだ、乗せてくれるのか?」
「ビュルル」
リーシャ達は顔を見合わせて笑った。
夕陽の紅に染まり始めた空を背景に跳ねるように駆け抜けるケリュネイア。
幻獣界の森を抜け、幾つもの丘を駆け登る。
日が完全に沈み星々が空に輝き出す頃、ケリュネイアの背に乗ったリーシャ達は草原を駆けていた。
ケリュネイアの本気のスピードは風に乗るリーシャよりも遥かに速かった。
角から風避けの魔法が発動しており風圧は殆ど感じない。
一歩一歩が大きいが揺れも軽減されておりリーシャは勿論ペロとラタトスクもその快適さに余裕でハイスピードで移ろう景色を楽しんだ。
リーシャでも数日かかる距離を恐るべき速度で進むケリュネイアだったが、突然速度を落とし、針葉樹の森を目の前にして立ち止まる。
どれ程の距離をどれ程の時間で駆けたのか、空には大きな丸い月が真上に上っていた。
「ビュルルルルル」
ケリュネイアは小さく鳴いてリーシャ達に降りるよう屈んだ。
「なんだよ、もうちょっといいじゃねぇか」
角に掴まっていたラタトスクが不満気に言うとリーシャが窘める。
「いや、追いかけっこしていた時間分以上に進めたよ。ありがとう」
「ありがとにゃ。疲れたけど楽しかったにゃ」
リーシャとペロがケリュネイアの背から降りて彼女の鼻先を撫でた。
ラタトスクがその鼻先を撫でる手を駆け登りリーシャの肩に移動した。
「また乗せてくれよな」
ラタトスクに返事をしたのかケリュネイアは大きく嘶く。
そして来た道に体を向けるとあっという間に走り去って行った。
「またなー!」
「僕はもういいけど、少し寂しいにゃ」
「ふふふ...縁があればまた会えるさ」
三人はケリュネイアが戻って行った先を暫く眺めてから進む方向へと歩き始めた。
しかし夜も遅く灯りも持っていないので通常ならば危険である。
降りた場所は広い草原で遮るものは近くに無いが、何処に危険な魔物が居るか分からない。
が、ハイエルフであるリーシャと猫の精霊ペロは夜目がきくので問題無かった。
「向こうに人の集落があるな」
リーシャの示す方向にいくつかの家屋らしきものが見えた。
「こんな辺鄙なとこにあるにゃんて。人住んでるかにゃ」
ペロの言う通り近くに街道もなく開発された様子もない。
もしかしたらかつてペロが居た村のように廃村かもしれない。
それでも一休み出来れば良いだろうとリーシャ達はそちらへ向かう事にした。
その集落は幾つかの荒屋が点々と建っていた。
少し歩くと2メートル程の高さまで石を積んだ上に巨大な獣の頭蓋骨が飾られていた。
鳥の羽や獣の毛皮などで飾り付けられたそれは頭蓋骨だけでも1メートルを超える大きさだった。
「な、なんにゃコレ...」
「...」
ペロとラタトスクがその異様にゴクリと息を飲んだ。
リーシャはその頭蓋骨の正面に回って見上げる。
「...神喰い」
リーシャの呟きが零れる。
「かみくい?」
ペロが反芻するとリーシャは聴こえていないのか、シルフィを呼び出しふわりと浮かび上がった。
「イシルディンか」
頭蓋骨の高さまで浮かんだリーシャが右手を伸ばしそっと触れる。
リーシャの触れた掌から魔力の波紋が頭蓋骨に拡がった。
微かな淡い光が波打つ。
頭蓋骨がその光を吸収して暗闇が戻るとリーシャが降りてきた。
「あ、主コレは何にゃ?」
「見ていろペロ、ほら」
リーシャが視線を促すと頭蓋骨に星や月の光に反応した文字が浮かび上がった。
「なんだこりゃ?エルフ語?いや違うか?」
ラタトスクがその文字を読み取ろうとしたが出来なかった。
「古代エルフ語だよ」
「こだいエルフ語...何でこんな所にあるにゃ?」
「門を開いたのは貴女か?」
背後から掛けられた凛とした女性の声に振り返ると、そこにはいつの間にか10数人の獣の耳を持った人々が集まっていた。
犬、いや狼の獣人だろうか。
彼等は手には剣や槍を持って歴戦の戦士の様な雰囲気を纏っていた。
中には老人や子供も居るが、恐らく全員が戦士であろう。
特に一歩前に立つ女性は白い毛皮を纏い強者特有のオーラを持っていた。
敵意は無いようだが、かなり警戒している様子だった。
リーシャはゆっくりと彼等に体を向けた。
「わたしはアルティリーシャナンララ。リーシャと呼んでくれ。お主達は神喰いの神獣フェンリルの眷族ハティか?」
獣人の女戦士がピクリと獣の耳を揺らす。
「古き名を知っているとは...確かに我等は神獣フェンリルが眷族ハティだ」
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