34 鬼ごっこ
あらすじ:ケリュネイアの領域に入り込んだリーシャ達。
生い茂る木々から伸びた枝葉の密度が高く日射しが少ない薄暗い森を颯爽と走るケリュネイアを追い掛けるリーシャ。
精霊の力を制限するケリュネイアの幻獣界に入ってしまった為に高位精霊シルフィの風の力を使わず己の肉体のみで全力疾走だ。
元々身軽なので低い枝木に前を塞がれれば大地を蹴り上げ枝から枝へ猿のような身のこなしで深森を走り抜ける。
ペロとラタトスクはそれぞれリーシャの左右の樹上を枝から枝へと跳びながら駆け抜けた。
「ピュェェェエエエェェェェェ」
鳥のような甲高い鳴き声を上げる幻獣ケリュネイアが時折振り返る余裕を見せながら走っている。
頭に生やす枝分かれした4本の角は左右にも広がっているのに狭い木々の間もぶつかること無く最適のルートを選んでいるようだ。
追いつけそうで追いつけないスピードに調整しながら。
唐突にスピードを上げケリュネイアとの距離を縮めたリーシャが手を伸ばし短い尾に触れる寸前ケリュネイアの体が消え、走るスピードはそのまま身体一つ分右手に現れた。
幻獣ケリュネイアの作り出した幻獣界という領域限定でケリュネイアだけが使える瞬間移動である。
リーシャの手は虚空を彷徨い体勢を崩した。
無様に転ぶ事は無かったが、数歩歩いてから立ち止まり息切れした呼吸を整えるために近くの木に手を置いて重心を預けた。
「はあ、はあ、中々に手強いな」
額の汗をぐいっと腕で拭った。
「主、大丈夫にゃ?」
木の上からケリュネイアを追い掛けていたペロがリーシャの元へ下りてきた。
反対の木からラタトスクが木の幹に張り付いたままリーシャの目線の高さまで下りてきた。
「あの野郎、わざとギリギリ捕まらないくらいのスピードで走って最後の最後に瞬間移動で逃げやがる。しかもこっちが休むとああやって近からず遠からずの距離で待機してやがる。なんて性格悪ぃんだ」
ラタトスクが悪態をつく理由は言葉の通り。
ケリュネイアは圧倒的な速さで走る事が出来る癖に此方の速さに合わせた速さで逃げているのだ。
そして此方が休んでいる間は姿が見える位置で余裕綽々で近くの葉をもしゃもしゃと食べている。
勿論視線は此方に向けたままである。
人をムカつかせる天賦の才を持っていた。
イライラする様に誘導しているとしか思えない。
流石は「逃げるのが趣味」という訳の分からない習性の幻獣である。
こうして何度も追い掛けてはギリギリで逃げられ、両手では数え切れない程繰り返した。
しかしリーシャも考え無しに追い回った訳では無い。
何度も追い掛ける事で、ケリュネイアの性格や癖を見ていたのだ。
「ふうー」
リーシャは深く息を吐いて呼吸を整え、ペロとラタトスクに向けてニヤリと笑った。
「さて、彼奴を捕まえて此処から出るための作戦を伝えよう」
数時間後、湖で休憩を挟んでから再びリーシャ達はケリュネイアを愚直に追い掛けはじめた。
効果が不十分であった為に温存していた魔力を存分に使い、シルフィの風でスピードを上げ、土の高位精霊ノーミードの力で落とし穴や障害となる土壁を作る。
更には当てるつもりは無いが火の高位精霊サラマンドラの力でケリュネイアの前方に小さな爆発を起こしケリュネイアの邪魔をする。
流石のケリュネイアも余裕は無くなり、必死に走り抜けた。
そうした障害を瞬間移動で何とか避けるケリュネイアへ木に昇ったペロとラタトスクがタイミングを見て襲い掛かる。
身を捩りながらもケリュネイアは大きくジャンプして逃げた。
ペロが襲い掛かる頻度も増え、お互いに疲労していく。
それを休み無く繰り返し、何度目かの湖まで追い込んだ。
肩で息をするリーシャ。
その横ではペロが両手両足を広げ腹這いになっていた。
ラタトスクは木の幹にしがみついたまま休んでいる。
ケリュネイアもフラフラになりながらリーシャ達から距離を置こうと湖の淵を歩き、絶対に追い付けない距離まで離れた。
リーシャ達の動きを最大限警戒したまま、逃げれる自信がある距離まで離れてからケリュネイアは渇いた喉を潤そうと湖の水を飲もうと顔を近づけた。
「その水を飲むのを待っていた」
リーシャが呟く。
ピクリと反応するケリュネイア。
「ディーネ」
「はーい♪」
湖から水の高位精霊ウンディーネが現れた。
ウンディーネと共に湖の水が津波のようにケリュネイアに襲い掛かる。
ケリュネイアは咄嗟に大地を蹴って身を翻す。
それと同時にラタトスクが木から木へと走り出した。
湖の大量の水はあっという間にケリュネイアの膝の付け根まで溢れ素早さを奪った。
瞬間移動してもケリュネイアは体一つ分しか横に移動出来ない。
そう、ケリュネイアは前後には瞬間移動出来ないのだ。
そして連続でも瞬間移動は出来ない。
リーシャは何度も追い詰め、その間隔をずっと測っていた。
バシャバシャと水に脚を奪われるケリュネイアが瞬間移動をした直後、木から木へ素早く移動したラタトスクが体を大きく広げて飛びついた。
ケリュネイアが身を攀じる。
しかしラタトスクの狙いはその大きく枝分かれして拡がる4本の角。
いくら頭を振ろうと大きく拡がりすぎた角はラタトスクにとって多少の風で煽られた木の枝と変わらなかった。
それは世界樹という世界で一番高い樹上で生きるラタトスクからすれば、同じく世界樹の一番高い枝に住む大鷲フレズベルクが飛び立つ際に巻き起こす暴風に比べればなんて事は無かったからだ。
小さな掌でケリュネイアの枝分かれした角の一本を掴んでラタトスクがしがみついた。
「とったどーーー!」
ラタトスクが小さな握り拳を振り上げ声高らかに叫ぶとケリュネイアがガックリとして項垂れた。
リーシャとペロはラタトスクへサムズアップして笑いあった。
リーシャが最初測っていたのはケリュネイアの幻獣界の広さだった。
幻獣界は端まで辿り着く事はない。
領域とされた空間内では方向感覚が狂い端に到達する前にまた中央へと向かう様になってしまう。
何度もケリュネイアを追い掛けて走り抜けると必ず湖に到着するのだ。
リーシャ達がケリュネイアに会ったあの湖である。
中心が湖であると確信した後、リーシャは追いながら瞬間移動の能力を分析した。
前後には移動出来ない事。
一度使うと10秒は使用出来ない事。
移動距離が体一つ分である事。
ノーミードやサラマンドラの力で妨害しながら確信する。
シルフィの風を使った全速力がケリュネイアの最速に追い付けない事も確認した。
次に交互に樹上から狙わせていたペロとラタトスクをペロの頻度を増やしラタトスクの体力を温存させているのを気付かせぬ様にした。
そうして何度目か湖に着いた時、リーシャは水を飲む振りをしてウンディーネを仕込んだ。
その時、疲労したケリュネイアが水を飲む時にリーシャから離れる距離を測った。
再びケリュネイアを追い始めた時、ラタトスクを一度残して、その距離まで最速で移動出来る時間を測らせた。
合流してラタトスクの体力を温存しながらケリュネイアが湖の水を飲むまでリーシャ達は妨害しつつ全力で追い掛ける。
そして、リーシャの狙い通り疲労したケリュネイアが安全な距離で水を飲み警戒が緩んだ時にウンディーネの魔法を発動し動きを阻害して、ラタトスクはケリュネイアが瞬間移動した直後を狙い襲い掛かる。
これが膨大な魔力を持つ脳筋リーシャの作戦である。
リーシャと契約した事でリーシャの魔力を受け取れるペロでも限界ギリギリの作戦だった。
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