33 ケリュネイア
あらすじ:王都から旅立ったリーシャとペロとラタトスク
「ふぁ〜」
上司に見つからぬ様さりげなく顔を背けながら欠伸をする兵士。
彼はアストリア王国の王都の西門の警備をする門兵のひとり。
本日も大した問題も無く王都を出入りする人々を監視していた。
決して彼はやる気が無いのではなく、王都の平和を護る力のひとつとなっている事に誇りを持っている。
ただ、出入りする人々は多いが特に変わった事も無くほんの少しだけ気が緩んでしまった。
しかし直ぐに気を引き締め王都へ向かう列を監視する。
その一瞬上空から影が射した。
見上げると黒い何かが上空を飛んでいた。
「鳥...か?」
それは人のように見えたが、空を飛ぶ人などいるはずも無いと頭を振ってから並ぶ人々の列に視線を戻した。
しかし違和感を覚えもう一度空を見上げるとそれは遥か遠く黒い点にしか見えなかった。
あの鳥は何処まで行くんだろうか。
あれが真っ直ぐ向かう遥か先にはエルフが住む国、【世界樹の森のエルフ国】があるという。
鳥は自由でいいなぁと思いを馳せてからもう一度気を引き締め仕事に意識を向けた。
世界樹に向けて空の旅を満喫するリーシャ達。
しかしそれはあくまで空を飛んでいるのではなくシルフィの力で風に乗っているだけである。
なので、王都を出た後も何度か大地を蹴っては舞い上がり風に乗りながら進むのを繰り返す。
また風も常に一定方向ではなく、ある程度は風の上位精霊であるシルフィがコントロール出来るがリーシャの魔力の消費が大きくなるので無理矢理に風を作るような事はしない。
リーシャとしてはお気楽で景色を楽しみながらの旅が好ましかったからだ。
だが、落ちたらタダでは済まないとリーシャに必死にしがみつくペロとラタトスクにはお気楽とは言えなかったのだが。
幾つかの街を遠目に過ぎて山を一つ越えた先の渓谷に小さめの湖が見えた。
リーシャは水分補給ついでに休憩する事にした。
湖の淵に舞い降りると、ペロとラタトスクはずるずるとリーシャの身体から滑り落ちてぐったりと仰向けに倒れた。
空は青々と澄んで小さな雲が浮かんでいた。
ペロとラタトスクはさっきまでその空の上に自分達が居た事に小さな感動でほんの少しだけ振り落とされない様に必死にしがみついた疲労が報われた気がした。
リーシャは仲良く空を見上げるペロ達を微笑ましく思い自然と笑みが零れた。
喉の乾きを潤すため湖の縁まで赴いて片膝を着いて両手で水を掬って一口で飲み干した。
キィーーーーーン
その直後僅かな波のような風がリーシャを突き抜け微かな耳鳴りがした
ふと湖の先に何かの気配を感じ見上げるとそこにはトナカイに似た大きく枝分かれをした4本の角を生やした緑の体毛の牝鹿が此方を観察する様にして立っていた。
「ケリュネイア...?」
湖を挟んだ先のリーシャの声が聴こえたのか、角の生えた緑の牝鹿は耳を上下に震わせた。
「ピュェェェエエエェェェェェッ!」
鳥のような甲高い鳴き声を上げ威嚇する様に前脚を高く上げて、回れ右をして薄暗い森の中へ走り出した。
しかも踏み出す度にその後ろ姿は消え、また現れると右や左の場所にずれながら消えていった。
まるでステップを刻むというよりも一歩ずつ左右に瞬間移動しながら走っていく様に見えた。
「なんにゃ!今の鳴き声は!」
「なななんだ!何がででで、出たんだ!?」
ケリュネイアの鳴き声に驚いたペロとラタトスクがリーシャの元へ来た。
リーシャはケリュネイアが消えた方向を見つめながら渋い顔をしている。
「不味いことになったな。どうやら此処はケリュネイアの領域だったみたいだ」
「ケリュネイアにゃ?」
「ああ。幻獣ケリュネイアだ」
「さっきのでけぇ鳴き声はそいつなのか?そんなにやべぇのか?幻獣って事は俺様と同じ危険な奴って事か」
的外れな事を言いながら真っ青になって震えるラタトスク。
ペロも不安そうにリーシャの顔色を伺う。
「アレは人を襲ったりはしないし、攻撃する様な力も持ってはいないよ」
「それにゃら別に怖くないにゃ」
「お、おう。それなら俺様が出る程ではねぇな」
はぁ〜と溜息を吐くリーシャ。
ペロとラタトスクを軽く交互に一撫でする。
「アレは逃げるのが趣味なのだ」
「逃げるのが趣味にゃ?」
「はぁ?」
リーシャはケリュネイアが消えた深森に目を向けた。
「そうだ。恐らくこの湖はケリュネイアの領域で、わたしたちは引き込まれてしまった。彼奴は自分の領域に引き入れた者から逃げるのが趣味なんだ。そして彼奴を捕まえるまで出られん」
「にゃ!?」
「なっ!?」
リーシャが立ち上がり深森を指差す。
「彼奴はあの先へ消えた。しかし短い距離を瞬間移動しながら逃げるから捕まえるのは相当厄介だ。しかも幻獣が自分に都合の良い領域の中、つまりケリュネイアに都合の良い幻獣界にいる以上精霊の力は半減する」
「にゃにゃ!じゃあ僕もにゃ!?」
リーシャとペロがラタトスクを見つめる。
ラタトスクはゴクリと唾を飲んだ。
「つまりはラタトスク。お前が頼りだ」
2人に見つめられ戸惑いを見せたラタトスクだったが、自分が頼りにされた事が嬉しかったのかニヤニヤしてから胸を張った。
「おう!おう!このラタトスク様に任せておけ!」
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