32 旅立ち
相変わらず更新遅くて申し訳ございません。
あらすじ:疾風迅雷の前に引き篭っていたリーシャが空から降ってきた
空から突然舞い降りたエルフの美少女に道行く人々がざわめく。
【疾風迅雷】達は即座にリーシャへ駆け寄った。
好奇の視線に対して威嚇するように睨むザックを窘めながらアレンがその大きな体でリーシャを隠す様にすると、後をつけてきた騎士や神殿関係者に警戒しながらレオニールとオルソン、イエレナが隙間を埋めるように集まり壁となった。
「ちょ、リーシャ様っ!なんで!?」
「お主らにお礼と別れの挨拶をしようと思ってな。プシュケーの気配を辿って来たのだ」
「お礼と...別れ...?」
悪びれもなく笑顔で応えるリーシャの言葉に【疾風迅雷】達は理解が追いつかない。
無自覚で聖剣を抜いてしまい王国騎士団から行方を探されており、王城の場所を確認するため神殿の鐘楼に登り飛び去る際に目撃され女神の遣いではないかと噂され神殿も動き出しており、リーシャは今非常に面倒なことになっている。
その捜査の手は冒険者ギルドや【疾風迅雷】の元まで及んでいる。
揉み消しは難しく【疾風迅雷】が巷の噂に対し間違った情報を流そうとしたが、目撃者が多く王国騎士団も神殿にもリーシャの存在は既に把握されてしまっていた。
だから【疾風迅雷】達はリーシャとはそこまで親しくない言い張り、リーシャに恩がある【小熊の蜂蜜亭】のマスター、プラウドと協力してリーシャの居場所を隠す事しか出来なかった。
手掛かりの少ないリーシャの情報を得ようと騎士団と神殿から毎日後を着けられながらも誤魔化すように比較的簡単なギルドの依頼を幾つか片付けながら今後どうするか考えていた所に突然現れたリーシャの言葉。
決して願ってはいなかったが、リーシャに言わせてしまった事が不甲斐なく感じ認めたくない、聴きたくないものだった。
「ああ、この国を出ようと思ってな。この栗鼠を世界樹に送らねばならなくなった」
「りす...?」
リーシャが腰にしがみついて白目を剥いたラタトスクをつまみ上げた。
「これは本来世界樹に住む栗鼠だが、迷い込んでしまったらしいんだ」
だらしなくヨダレを垂らしてぶらぶらと吊るされたラタトスクを訝しむ【疾風迅雷】の面々。
「世界樹って...エルフ国だろ?」
「此処から半年以上かかる距離だろ」
「イエレナは行ったことあるか?」
「いえ、私は森エルフだけどこの国の小さな集落出身だから...」
「リーシャさん、1人で行くつもりですか?」
リーシャはにっこりと微笑む。
「そのつもりだよ。お主らにも迷惑もかけたし暫くこの国を離れればごちゃごちゃと言われんだろう?」
アレンはキョトンとしてから苦笑いをしてメンバーに視線を向ける。
すると皆同じ様に笑って頷いた。
「だったら俺達も一緒に行くよ。リーシャさんに護衛なんて必要ないかもしれないけどさ、お共させてくれよ」
「そ、そうです!私も1度くらいエルフの故郷には行ってみたかったし!」
「足手纏いにはならないからさ〜」
「夜の番も必要だろうしな」
「旅の食事ならまかせてください!」
詰め寄る【疾風迅雷】に今度はリーシャが目を丸くした。
そして少し困った風に笑ってアレンの手を両手で包み込む様に握った。
「ありがとう。でも今回は馬車でゆっくりは出来ないから気持ちだけ受け取っておこう」
「え?」
「じゃあ、どうやって...」
全員の手を順に握り、最後にイエレナの手を握ってリーシャは微笑んだ。
突然空から舞い降りたエルフの美少女。
聖剣を抜いたというエルフ、リーシャを追って手掛かりを知っているであろう【疾風迅雷】を執拗に追っていた3人の王国騎士は登場の仕方に驚いたが直ぐに冷静になった。
彼女が聖剣を抜いた後、空へ消えたという報告を偶然にも目撃した騎士団総長本人から聞いていたからだ。
どの様な手段か分からないが、聖剣に選ばれた程の人物であれば空を飛ぶ伝説の魔法が使える可能性もあるだろうと思っていたからだ。
王国騎士とは別に【女神の遣い】ではないかと噂のエルフの美少女を追っていた2人組の神殿に仕える神殿騎士達も、空から舞い降りたリーシャが噂の人物だと確信した。
神々しさを纏った登場は正しく聖書に記された【女神の遣い】に見えた。
何より手掛かりを持っている【疾風迅雷】の前に現れたのがより確信させた。
2組は同じ人物を追っていたものの協力関係は無く距離を置いていたが、この瞬間はどうやって先に接触するかタイミングを測っていた。
【疾風迅雷】が彼女を周囲から見えない様に壁となり様子が窺えず焦りを覚えたがこの遷宮一隅のチャンスを逃すつもりは無い。
2組は牽制し合いながらじわりじわりと距離を詰めた。
「また会おう」
少しまだ離れていた王国騎士にも神殿騎士にも聴こえたのだろう。
その鈴の音の様な声はリーシャの声だと確信した2組は同時に【疾風迅雷】に駆け寄る。
それよりも早くリーシャがふわりと飛び上がり近くの屋根の上に立った。
「「お待ちくださいっ!」」
王国騎士と神殿騎士が同時に声を上げた。
屋根の上から見下ろすリーシャ。
【疾風迅雷】も振り返ると何度も接触して来た3人の王国騎士と2人の神殿騎士がいた。
「チッ!しっつこいな!」
ザックが舌打ちすると【疾風迅雷】はこれ以上リーシャに近づけない様に立ち塞がった。
「わたしを追っているのはお主等か」
「申し訳ございません、聖剣について話を伺いたいのです。どうか1度城まで同行願います!」
「見た事も無いその魔法!正しく貴方様は【女神の遣い】!どうか神殿までお越し願います!」
姿勢を正し主張を願い出る2組は牽制する様に互いに睨み合う。
リーシャはその2組を一瞥して嘆息する。
「どちらもお断りしよう」
聖剣に選ばれた栄誉は誰もが望むモノと信じる騎士達は、断られる事を想定していなかった。
【女神の遣い】として女神を主神とする神殿からの要請を断られる事を神殿騎士達は全く想定していなかった。
どちらも【疾風迅雷】が勝手にリーシャを隠していたと思っていたのだ。
「なっ!聖剣に選ばれし者の栄誉をなんだと...っ!」
「女神を奉る神殿の声を無視すると云うのですか!」
屋根の上でリーシャは腕を組んで少し首を傾げてから王国騎士を見遣る。
「ふむ。確かにわたしは聖剣を抜いたが扱う事は出来ん。但し城にはわたしも用があるからいつの日か赴くだろう」
「おおっありがとうございます!」
王国騎士達が歓喜の表情を浮かべた。
「まあ、それがいつになるかは約束は出来ない。アーサーの子孫が途絶える前には必ず、とだけ言っておこう」
「それは、どういう...」
リーシャの言葉の意味が分からず王国騎士達は動揺する。
ただ、リーシャの一言一句を王へ伝えるべくしっかりと記憶だけはしていた。
「それとわたしのことを【女神の遣い】と言っていたが...」
王国騎士ばかりがリーシャに話し掛けられ悔しそうに歯軋りしていた神殿騎士達が姿勢を正した。
きっと神殿に来てくれる、もしくは神殿のために神の声を伝えてくれるのでは、と期待する表情でリーシャに顔を向けた。
「それは違う。お主等の勘違いだ。迷惑だからやめて欲しい」
「え?」
神殿騎士達は期待した言葉と正反対の事を言われ固まってしまった。
「それに【疾風迅雷】はわたしの大切な友人達だ。わたしのことで迷惑を掛けるようなことはするなよ」
【疾風迅雷】達は屋根の上のリーシャに振り返った。
リーシャは友人達に優しく微笑みを返した。
「さっきも言ったが、また会おう友よ」
そう言ってリーシャは跳ねる様に軽く屋根を蹴ると空高く舞い上がった。
リーシャはその一歩で遥か十軒以上先の家の屋根まで跳んで、何度か飛び跳ねる姿が見えたがあっという間に見えなくなってしまった。
残された人々はリーシャが跳んで行った方向を見つめたまま唖然としていた。
【疾風迅雷】達は互いに顔を合わせ苦笑して宿へと歩き出した。
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