31 ヘイズルーンの酒
遅くなりました。
後で書き直しするかもです。
あらすじ:新作パンケーキを堪能したリーシャ達
「いやー美味かったぜ!」
お腹をパンパンに膨らませたラタトスクが満足気にソファに寝転んだ。
「お前、世界樹しか食べられないんじゃなかったにゃ?」
思ったよりもパンケーキを食べたラタトスクに対してペロは抗議するように睨みつけた。
「ひぇっ」
睨まれたラタトスクは全身の毛を逆立てリーシャの背後に隠れようとするが膨らんだお腹が邪魔をして動けず手足をバタバタ動かした。
「そういえば、そうだな。大丈夫なのか?」
リーシャも失念していたらしい。
まあ、ラタトスクを見れば食べ過ぎて動けないが調子が悪くなる様子はなかった。
「別に世界樹だけしか食べられない訳じゃない。俺様程の幻獣なら魔力が宿ったモンなら問題ないからな!それにこのちょこれいと?ってヤツはヘイズルーンの酒に似て甘くて美味かったし!」
「ヘイズルーンの酒...?」
世界樹には様々な幻獣が住み着いている。
ラタトスクをはじめ、一番高い枝にとまる大鷲フレズベルク、根を齧る地竜ニーズヘッグ、若芽や新芽を食べる4頭の鹿達。
その中でヘイズルーンという山羊がいる。
ヘイズルーンは世界樹の近くでしか生息しないレーラズという樹木の芽を食べる山羊の幻獣である。
この幻獣の乳から作る酒は香り高く美味いらしい。
何よりチョコレートに似ているという事にリーシャは興味を抱いた。
「エルフの王が偶に俺様にもくれるのさ!ああ〜また飲みてぇ〜なぁ〜」
「そ、そんなに美味いのか?」
「一度飲んだら忘れらんねぇくらいだぜ〜」
「そうか、ならヘイズルーンの酒を飲みに行こうか」
「へ?」
「にゃ?」
リーシャはニヤリと笑った。
「お主は世界樹に帰りたいのだろう?だったらわたしが連れて行こう」
その頃【疾風迅雷】は冒険者ギルドを出て宿屋に向かって人目の多い商店街を歩いていた。
イエレナも【小熊の蜂蜜亭】を引き払い他のメンバーと同じ宿に引っ越していた。
リーシャを探す王国騎士団と神殿に目をつけられているためだ。
この日も案の定後を付けられていた。
「はぁ、アイツらしつこいなぁ」
その気配に気付いた少し幼い顔のザックがげんなりとしてボヤいた。
「まあ、仕方ないだろう。聖剣なんて抜いちまったら王家が放って置くはず無いからな」
「そしてあの美貌だ。忘れる方が無理だろう」
【疾風迅雷】のリーダー、大剣使いの大男アレンと槍使いのレオニールが苦笑いを浮かべた。
「もう!私とオルソンは特にお世話になったけどあんた達も助けて貰ったんだからさ!ぶつくさ言うんじゃないよ!」
イエレナも毎日着けられてストレスが溜まっているのだろう。
八つ当たりの的になっては堪らんと男達は口を閉じた。
オルソンは一歩後ろを歩きながら嘆息した。
今のこの状況は【疾風迅雷】にとってもあまりよろしくない。
ストレスの捌け口に魔物討伐の依頼をこなしているが、ストーカーの如くメンバーの後をつけてくる王国騎士と神殿関係者たちを攻撃する事も出来ない。
それにリーシャの噂は拡がるばかりで終息する様子もない。
かと言って恩あるリーシャを売るつもりは微塵もない。
オルソンを除いて元々脳筋気味の【疾風迅雷】は精神的に疲弊していた。
【疾風迅雷】を見張る王国騎士は隠れようともせず堂々と後を着けていた。
コソコソとしているのは神殿に仕える神官たちだ。
ーーー【疾風迅雷】が冒険者ギルドに連れて来たエルフの美少女。
ーーー聖剣を抜いたエルフの美少女。
ーーー神殿に舞い降りた女神の遣いの美少女。
エルフというのは元々見目が整っている。
それでもこの噂のエルフの少女を見た者達は声を揃えて神々しいまでの”美少女”だったと語った。
【疾風迅雷】が連れて来たというエルフの美少女と聖剣を抜いたエルフの美少女は同一人物だろうと考えられた。
王弟殿下であり王国騎士団総団長が偶然にもエルフの美少女が聖剣を抜く瞬間を目にしており、彼女の見目が冒険者たちに訊いた特徴と一致していたのだ。
そして神殿で目撃された女神の遣いとされる美少女。
彼女が王城の方向へ飛び去った時間帯と聖剣を抜いたとされる時間帯が近い事で結び付けられた。
目撃されたエルフの少女は全て同一人物である、とーーー
聞き込みで【小熊の蜂蜜亭】という女性に人気の高い宿に居るであろう事は分かっていた。
しかし犯罪者という訳では無いので、店主に居ないと言われれば踏み込めず、王家の名を出しても店主は頑として首を縦には振らなかった。
また王家から強引な捜査は控える様沙汰があった。
それは聖剣を抜いたエルフが、英雄王に縁あるハイエルフの可能性があったからだ。
勿論それは国王と側近のみが知っているだけで、リーシャを追う騎士達は知ることは無かった。
一方、神殿側も女神の遣いかもしれない少女に対して強引な捜査などは慮われた。
もしも彼女が本当に女神の遣いであれば、神殿の最高司祭よりも格上の存在となり得る。
信仰の対象たる女神の遣いならば、姿を現さないのも神の御心ではないか、と危惧する下位の神官達も多かった。
しかし神殿の上部としては彼女が女神の遣いではないとほぼ結論が出ていた。
本当に女神の遣いなら神の御言葉や預言があるはずだと、上位の神官達が言い出したためだ。
では何故リーシャを追っているのか。
神殿としては体の良い偶像として民衆に崇めさせようと考えた。
女神の遣いという偶像があればより多くの御布施が集まるだろうという打算的な考えのもとリーシャを探していたのだった。
そんな上部の考えなど知らない下位の神官達の足取りは重い。
それぞれの思惑が絡み合った騎士達と神官達は【疾風迅雷】がリーシャと接触する可能性にかけて毎日のように彼等の後をつけていた。
「シルフィード?」
一瞬だけ強く吹いた風にイエレナが反応した。
オルソンも精霊の気配を察知した。
よく知るリーシャの契約した上位精霊の気配だった。
「ん?どうした」
アレンが立ち止まったイエレナとオルソンに気付いて振り返る。
ザックとレオニールも振り返る。
イエレナとオルソンは何も無い上空を見上げた。
釣られてアレン達も空を見上げる。
何も無い王都の上空に小さな黒い点が見えた。
その小さな黒い点は段々大きくなり人型になった。
いや、人が空から降ってきたのだ。
リーシャである。
「〜〜〜ああああああにゃにゃにゃぁぁぁぁっっ」
腰にしがみついたペロの叫び声が同時に空から降ってきた。
地面に激突する寸前でリーシャの身体がふわりと風に包み込まれる。
風の上位精霊シルフィの魔法で落下の勢いが失われ、リーシャは音も無く降り立った。
「やあ!イエレナ!オルソン!それにアレン達っ!」
「「「「「リーシャさん(様)!?」」」」」
突如空から現れたリーシャに【疾風迅雷】が目を丸くした。
そして此処は屋台が並び多くの買い物客が歩く商店街のど真ん中。
人々はみな突然空から降ってきた美少女にぽかんと口を開け足を止めていた。
リーシャにしがみついていたペロとラタトスクは半目で口からエクトプラズムらしきものが出かかっていた。
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