29 栗鼠の来訪
誤字脱字報告感謝です
あらすじ:引き篭ってちょっぴり太ったリーシャ
「うーむ。少し重いな」
ベッドの縁に座り、自身の胸を持ち上げるリーシャ。
そう、太った。というよりも何故か胸だけがまた少し立派になった。
腰を回したり腕を伸ばしたりして動きに支障が無いか確認してみる。
「まあ、まだまだわたしも成長期だからな」
と言い訳じみた独り言を零す500歳のハイエルフ。
彼女が本当に成長期なのか、ハイエルフの成長期がいつまでなのかは一切不明である。
ふと窓から不穏な気配を感じた。
リーシャが窓を見ると翠の瞳の栗鼠がこちらを覗いていた。
ペロが素早く窓に向かって走り出した。
栗鼠は慌てて姿を消した。
「覗き魔にゃーっ!」
ペロは器用に窓を開けてからシャキンと爪を立て栗鼠を追いかけ窓から飛び出した。
「ぎゃぁーーーーっ!」
「うにゃぁーーーっ!」
数分後ドヤ顔で栗鼠を咥えたペロが窓から戻って来た。
「主、覗き魔の鼠捕まえたにゃ」
ペロは栗鼠を床に下ろして前足で押さえ付けた。
栗鼠は気絶しているだけのようだ。
「ありがとうペロ。でも何かされた訳でもないし、離しても大丈夫だろう。それにただの栗鼠では無さそうだな」
撫でられて上機嫌になったペロが前足をどかすとリーシャは気絶した栗鼠を両手でそっと掬いあげて顔を近づけた。
「...」
パチリ
「...」
ソォーっと片目を開けた栗鼠の翠の瞳とリーシャの紺碧の瞳が合った。
固まったままダラダラと汗を流す栗鼠。
気絶したフリをしていたのだろう。
リーシャと思い切り目が合ったのだがまた目を瞑って寝たフリをする栗鼠。
「お主、ただの栗鼠では無いな。もしや世界樹のラタトスクか」
リーシャの言葉にビクッと全身の毛を逆立てて手足をピンッと真っ直ぐに伸ばした栗鼠。
そしてまた目を開けるとリーシャの紺碧の瞳に全てを見透かされていると感じて嘆息して起き上がった。
「ちぇっ!俺様を知ってるとはやるじゃねーか!」
とリーシャの掌の上でふてぶてしく短い足を伸ばして座ったまま腕を組んだ(しかし短くてちゃんと組めてはいない)。
「態度でかいにゃ。主、食べていいにゃ?」
「ぴぇっ!」
リーシャに対してふてぶてしい態度にペロは近付いて二本足で立ち上がってシャーッと威嚇する。
ラタトスクは変な声を上げて素早くリーシャの腕を駆け登り肩の上でブルブルと震えていた。
態度は大きいが臆病な性質らしい。
「ふふふ、ペロ。わたしのために怒ってくれたんだね、ありがとう。でもこのラタトスクはすばしっこいけれど、わたしを傷付けるような力は無いおしゃべりが得意なだけの幻獣だから安心していいよ」
リーシャはペロの頭を撫でて落ち着かせる。
ペロは気持ち良さそうに目を細めてラタトスクを一瞥してリーシャの膝に乗って丸くなった。
ペロが落ち着いたところでリーシャは肩の上で怯えるラタトスクを再び掌に乗せて話をする事にした。
「さて、エルフの国の世界樹しか食べられないお主が何故アストリア王国王都に居る?」
ラタトスクはバツが悪そうに言い淀む。
「お前、やっぱりエルフの王族か?俺の事知っているなんて」
「わたしはエルフの王族ではないよ。ただのハイエルフだ」
「ハイエルフ!?」
ラタトスクは目を白黒させてリーシャを凝視した。
「それで何でお主はこんなところに居る?」
ラタトスクは世界樹の森のエルフ国の中心にある世界樹の表皮を食べ続けて幻獣へと進化した栗鼠だ。
幻獣とは神獣や聖獣に比べて神性は無いが知性を持ち精霊界と現世を自由に往き来し、力の強い幻獣になると自身が快適かつ優位性の高い空間を創り出しそこに住まう者も居る。
かつてリーシャが魂を送った古代竜も幻獣であり、その子供でありリーシャを母と慕うフィーレスナが旅立った竜の山脈とは古代竜達が創り出した現世と精霊界の狭間の幻獣界と言える場所である。
リーシャと偶然にも出会った古代竜は死出の旅の途中だったので別として、幻獣は基本的には自分の定めたテリトリーから出ることは滅多に無い。
特にこのラタトスクは力も無い幻獣である。
自身で空間などは作れず世界樹の樹上をテリトリーとしており、世界樹にとってとある重要な役割を持っている。
それが世界樹から遠く離れたアストリア王国の王都、しかも態々リーシャの目の前に現れたのは偶然ではないだろう。
ラタトスクはその翠の瞳でリーシャを訝しげに見つめてから鼻を鳴らす。
「お前がハイエルフかどうかは分からねーけど、俺様の役目も知ってるんだろう?」
「世界樹の大鷲と地底竜の事なら知っている」
「そうそう、あいつら俺様が居ないと仕事サボりまくるからよ!昨日も喧嘩しやがって巻き込まれてさ、気付いたらこの近くに飛ばされちまったのよ」
「随分な距離を飛ばされたものだな」
「そーなんだよ!」
ラタトスクは興奮してきたのか短い手足と大きな尻尾をブンブンと動かしていた。
その話に興味が無くリーシャの膝の上で撫でられ寛ぐペロが「ふにゃ〜」と気の抜けた欠伸をするとラタトスクはビクッとして小さくなってしまう。
ラタトスクはかなり臆病なのだろう。
ペロが大人しくしているのを確認するとラタトスクはまた話し始めた。
「そ、それでだな。帰ろうと思って精霊界の入口を探してたらめちゃくちゃおっかねぇ精霊が見張っててだな...お、俺様ならすぐあんな奴ボコボコにしてやるんだが平和主義者だから見逃してやったのさ」
「精霊界の入口...」
リーシャはこの近くで精霊界の入口となりそうな場所に思い当たる。
【防人の丘】ーーー精霊スプリガンが古代遺跡を護る、不凋花が咲き乱れるあの丘である。
確かに彼処は精霊界と繋がっている。
おっかねぇ精霊とはあの頑固なスプリガンの事だろう。
彼奴なら精霊の往来は許しても幻獣は許さなそうだな、とリーシャは思った。
「仕方ねぇから俺様の事を知ってそうなエルフを探そうとちっこい精霊どもの噂話に耳を傾けていたら随分と強えエルフが居るって言うからよ。探してみたらお前さんが居たっつーわけよ!」
と偉そうに胸を張るラタトスク。
「なるほど、しかしよく人に捕まらずに此処まで来れたな」
「ふん!俺様があんなノロマどもに捕まるかよ!『走り回る出っ歯』のふたつ名は伊達じゃねぇぜ!」
「ダサいふたつ名にゃ...僕にすぐ捕まった癖に...」
「うぐっ」
ジト目のペロに突っ込まれて返す言葉を失うラタトスク。
どうやら猫と栗鼠の相性はあまりよろしくないようだった。
お読み頂きありがとうございます(〃・д・) -д-))ペコリン
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