25 人見知り
あらすじ:聖剣抜いちゃったハイエルフさん
リーシャはするりと台座から聖剣を引き抜いた。
「は?」
「え?」
「っ!」
【英雄王】が魔王を切り裂いた伝説の聖剣。
100年近くもの間、どんな力自慢も、高名な剣豪も、優れた魔導士も、【英雄王】直径の子孫であっても全くビクともしなかった聖剣が引き抜かれた。
目の前で起きた衝撃の事実にその場に居合わせた見物客35名と聖剣と門を守護する騎士20名が目を丸くして口をあんぐりと開けて動けなかった。
聖剣を引き抜いた華奢なエルフ族の神々しい程の美少女。
両の細腕で握る聖剣は感動のあまり震えている。
我々は新たなる伝説の1ページを目撃したのだ!
と、そこにいた者達は言葉にならない感動と興奮に包まれ...
「重いっ」
サクッ!
ぷるぷると震える細腕では聖剣の重さに耐えられず、リーシャは勢いよく聖剣を台座に突き刺して元に戻してしまった。
いや、むしろ以前より深く突き刺さっている。
「ふぅ〜」
両手を脱力してぶらぶらと振って、額の汗をぐいっと拭って爽やかに笑ってリーシャは台座から降りた。
「「「「「え?」」」」」
騎士や見物客がリーシャと聖剣を交互に2度見3度見する。
まるで先程の奇跡が無かったかのようにリーシャはギャラリーをガン無視して王城に向かってスタスタと歩き始めた。
「え、ちょちょい!」
「き、君!」
「おおいっ!」
騎士達が数人リーシャに駆け寄って来た。
「?」
リーシャが立ち止まるとまるで取り囲むようにして騎士達が群がる。
「今、聖剣抜いたよね?」
「見間違いじゃなければ引き抜いたよね?」
「ちょっと話をさせて貰えないか」
傍から見れば大柄な騎士達に背が低めの美少女エルフが取り囲まれている様に見える。
「抜いてはダメだったのか?」
怪訝な顔を隠さないリーシャに、騎士達は焦ってしまい何とか機嫌を損ねない様に低姿勢になる。
本来なら一流のマナーや教養を身に付けた騎士達も余りの事に頭の中がプチパニック状態だった。
「いや、全然ダメじゃないです!」
「寧ろ抜いていい!」
「抜いて欲しかった!」
おかしな発言をし始める騎士達。
見物客達も少し距離を置きながらもリーシャを一目見ようと周りに群がり始めた。
「お嬢ちゃんが勇者様なのかい!?」
「もう一回抜いてよ!」
「凄いな!」
この時リーシャの人見知りが発動してしまった。
今まで必ずペロやイエレナ達が傍に居てくれたから気付かなかった。
大勢に囲まれて視線に晒される恐怖を感じてしまった。
相手が数人程度なら全く問題無かったが、大柄な騎士達と見物客達に囲まれて敵意は無くても逃げ場を失い無視出来ない状況がリーシャを追い詰める。
そうとは知らずに聖剣を抜いた選ばれた者である可能性が高いリーシャの事を王へ報告し対応の指示が下りるまでこの場に留まらせたい騎士達が進路も退路も悪気無く防いでしまった。
「だ、大丈夫かい?顔色が...」
正面に立つ騎士がリーシャの青ざめた顔色に気付いた。
「し、シルフィ」
涙目のリーシャに召喚された風の上位精霊が周りを睨みつける。
怒りが込められた視線に後ずさる騎士と見物客達。
「怖い...」
リーシャは呟くとリーシャを中心に強い風が吹き荒れる。
屈強な騎士達も耐え切れずに尻もちを着いてしまった。
騎士達は何が起きたのか分からず、それでもリーシャを保護しよう(完全な善意)と目で追うと彼女の姿は無かった。
そこに居た者達は狐に包まれた様な顔で呆然としていた。
シルフィの全力の風に乗って勢いよく宿の部屋まで帰って来たリーシャ。
ソファで寛いでいたペロは唐突にリーシャに抱き締められてわしゃわしゃともふられた。
涙目のリーシャは無言でただただペロの柔らかい毛並みを堪能しまくる。
ペロもベロで無抵抗でそれを受け入れモフられる気持ち良さに「にゃふん」と無駄にエロい(?)鳴き声を零していた。
そしてタイミングが良いのか悪いのか、部屋のドアがノックされる。
「あ、あのぅ、リーシャさん」
無視しようと思ったリーシャだったが、聴こえてきた声に直ぐにドアを開けた。
【疾風迅雷】のオルソンが居た。
チョコを奢る約束を果たす為にやって来たのだ。
リーシャは知らないが実はオルソン、あれから律儀に毎日訪ねて来ていた。
忙しく動き回るリーシャとタイミングが合わず中々会えずにいたのだ。
宿の従業員に伝言を残すとかやり方は色々あるのに、女性に対して余りに自信の無さ過ぎるオルソンは一方的に約束したり言伝する事を躊躇しまくり過ぎていた。
なので会えなくても約束を守るため毎日訪れながら、会えなくても来た事をリーシャには内緒にしてもらう様にしていた。
ミスターコンプレックスのオルソンは中々の拗らせ具合である。
「オールソーン!」
リーシャはガバッと躊躇無くオルソンに抱きついた。
「あ、あのリーシャさん?」
リーシャはオルソンの豊かな肉に顔を埋めて肉の弾力を堪能する。
顔を真っ赤にしたオルソンは毎度の事ながらやはり恥ずかしいし照れてしまう。
リーシャはその体制のままオルソンをソファーまで歩かせて座らせる。
「あの、一体何が?」
胸に顔を埋めたまま何も喋らないリーシャにオルソンは不満げなペロに顔だけ向けるもペロも肩を竦めて「主の気が済むまで揉まれるにゃ」と言い放って丸くなってしまった。
暫くして漸く顔を上げたリーシャ。
「チョコ食べますか?」
そう言ってオルソンは魔法の鞄からチョコが入った包みを出した。
「食べる」
鼻を赤くしたリーシャがコクリと頷いたのでオルソンが包みを渡そうとするが、リーシャはオルソンに回した手を離そうとしない。
「?リーシャさん?」
手に持ったチョコの包みを渡せないのでどうすれば良いのか分からなくなったオルソンがリーシャを見ると、リーシャは目を瞑って小さな口を大きく開けていた。
(食べさせろって事...?)
オルソンはあたふたしながら包みを開けてアーモンドの入った一口大のチョコを取り出す。
その間、リーシャは口を開けたまま動かず待っている。
焦るオルソンは自分の指がリーシャの柔そうな唇に触れないように、そっとチョコをリーシャの口の中へ入れた。
リーシャは目を瞑ったままチョコを食べ始める。
ゆっくりゆっくりその味を確かめる様に咀嚼するリーシャの顔をオルソンは見蕩れてしまった。
突然目を開けるリーシャと目が合ってしまい、食事する女性の顔を見詰めてしまった罪悪感で顔を逸らすオルソン。
「木の実入りか?美味しいなぁ」
蕩けるような笑顔を見せるリーシャ。
横抱きの様な体勢だったリーシャはオルソンの隣に座り直して、包みを受け取り一人でチョコをもぐもぐと食べ始めた。
オルソンは少し残念の様なほっとした様な複雑な気持ちになったが、笑顔を見せるリーシャの姿に胸が暖かくなった。
気が利く男オルソンは「飲み物貰ってきますね」と紅茶を取りに行ってくれた。
リーシャはペロをもう一度抱き上げて膝に乗せる。
荒んでいた心はいつの間にか凪いでいた。
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