24 聖剣
あらすじ:教会の鐘楼から飛んで消えたリーシャ
教会に『女神の遣い』が現れたと神官や信徒達に小さな騒動が起こっていた頃、リーシャはシルフィーの風に乗って屋根の上を軽やかに飛び跳ねる様にして王城へ向かっていた。
街を囲む城壁程では無いものの貴族街を囲む高い城壁の門は有事以外は常に開かれている。
一般人でも許可無く入る事が出来るのだが、高い塀と大きな屋敷が建ち並ぶ貴族街には店なども無く貴族に雇われた門兵に睨まれては立派な屋敷をジロジロと眺める事もはばかられる。
普通の神経ならばそんな居心地も良いとは言えない貴族街を訪れる一般人は王城で公開されている聖剣を一目見ようとする観光客やもしかしたら聖剣が抜けるかも等と半分本気で半分冗談で試しに来る若者だけだろう。
そんな閑静な貴族街の屋敷の屋根を殆ど音も立てずに蹴って跳ねて行く。
王城へ近付くとが強力な古の結界に護られている事に気付く。
『リーシャちゃん、空からは無理ね』
「そうだな、降りて入口から行くか」
シルフィーの助言に素直に従ったリーシャは王城の門を護る騎士から離れた場所へ静かに降り立った。
空からふわりと舞い降りてきたリーシャを偶然見てしまった大貴族の屋敷の警備兵はビクッとして腰の得物に手を掛けた。
リーシャは警備兵を振り返る。
警戒して殺気を纏う警備兵に対してリーシャは全く怯む様子も無い。
それどころかニコリと微笑むとそのまま王城の門へとスタスタと歩き去って行った。
かつて凄腕の冒険者だった中年の警備兵はその微笑みに胸を押さえて頬をほんの少し染めながらも空から突然現れた得体の知れない美少女に対していつの間にか手に汗をかいていた事に気付いた。
「何なんだありゃあ...」
王城の門へと続く道を歩きながらリーシャは強くなる短剣の気配を感じながら懐かしいような魔力の残症を感じ取った。
それは王城の門の先にあるのだろう。
やがて門まで辿り着くと確信に変わる。
「アーサー...」
屈強な騎士達に護られた開かれた王城の門。
その先の広場の中央の台座に刺さる剣。
まるで大地に封印されたかの様にその剣に秘められた強大な力は閉じ込められていた。
「お嬢さん、聖剣は初めて見たのかい?」
門の前で聖剣を見て動かなくなったリーシャに聖剣を守護する騎士の一人が話しかけて来た。
「...聖剣?」
スタイルの良い女性だな、と軽い下心と親切心でリーシャに話しかけた騎士はその顔を見て息を飲んだ。
美人そうだとは思ったが想像以上の美貌を持った美少女だった。
さらさらと風で流れる白に近い金糸の様な髪、透き通る湖の様な碧い瞳、形の良い小さめの鼻、ふっくらとした桜色の唇、そして特徴的な尖った耳から美形揃いのエルフ族だと分かる。
思わず見惚れてしまった騎士は、ハッとして頭を振って職務へ戻った。
「あ、ああ。100年前【英雄王】アーサー様が魔王を討ち滅ぼす為に女神より賜わりし聖なる剣がこれさ」
「魔王?アーサーが...?」
怪訝な顔のリーシャに騎士は誰でも知っている【英雄王】の魔王討伐の話を得意気に教えてくれた。
100年前の魔王の登場と戦争。
湖の女神からこの聖剣を賜わり【英雄王】が魔王を倒した。
魔王の死後、【英雄王】はこの場所に聖剣を突き刺して、種族身分関係無く抜いた者こそが次代の聖剣の持ち主だと世界に宣言した。
「だから、みんなこの街へ来たら一度は聖剣チャレンジするのさ」
そう言って聖剣の刺さった台座を指差すと、そこには聖剣を抜こうと柄を握ろうとする若者からお年寄りが数十人が並び、聖剣に選ばれず弾かれて笑う人々が居た。
「お嬢さんも折角来たんだからチャレンジしたら良い」
爽やかな笑顔で騎士は持ち場へと戻って行った。
リーシャは少し考えてからその列へ並んだ。
それは聖剣を抜いてみたいのでは無く、微量ながらもアーサーの魔力を聖剣から感じたからだった。
聖剣に触れてはビリビリとした痛みに弾かれて「やっぱりダメかー」「これこれ!痛いけど気持ち良いー」「これホントに抜ける奴居るのかよ!」などと騒ぐ聖剣チャレンジャー達。
やがてリーシャの順番となった。
それまで野次を飛ばしていた見物客がその容姿に言葉を失う。
しかしリーシャは基本的に外野をガン無視する。
何故ならば500年近くも兄のシュナと二人きりであったために1体1、もしくは少数であれば目を見て話が出来るが大人数だと対応の仕方が分からないのだ。
多くの視線や興味を向けられてもどうすればいいのか分からないが、逃げたり隠れたりする必要も無いのでガン無視する。
ある意味堂々とする人見知りのようなものだった。
リーシャは台座の上に立つと躊躇なく聖剣の柄を握る。
その佇まいに固唾を飲むギャラリー達。
ビリビリとリーシャを拒否する様に聖剣から神気といえる魔力が迸る。
リーシャはその中にアーサーの魔力の残滓を感じ取った。
何故この聖剣が抜けないのか。
魔力操作に長けるリーシャは痛みを堪えながら聖剣に込められた力の流れに意識を集中する。
「お、おい...」
「まさか」
「嘘だろ」
ざわざわとする見物客達。
その様子に気付いた騎士達も注目し始めた。
普通なら拒絶される痛みに堪えられず皆直ぐに聖剣から手放すのだが、リーシャは柄を握ったまま離さないのだ。
稀に痛みに強い者が力任せに抜こうとするが、聖剣は大地と一体化しているかのように微動だにせず誰も抜く事は叶わないのだ。
だから騎士達もリーシャが異常に我慢強いのだろうと生温かい眼差しで見守る。
そんな周りの様子をガン無視したリーシャは聖剣に集中している。
女神の創った神器。
なるほど、聖なる力が満ち溢れている。
そして湖の精霊の力。
そしてアーサーの魔力。
聖剣の中の力を一つ一つ確認する様にリーシャは魔力を流し込む。
(これは封印だな)
何故抜けないのか。
その答えを見出したリーシャは1人納得した。
この封印はアーサーでなくては解くことが出来ない。
女神の加護と精霊の加護を持ち、アーサーと同じ質の魔力を持つ者しか抜く事が出来ない様になっていた。
そしてアーサーと同じ魂の輝きを持つ者しか女神に祝福されたその力を解放する事は出来ないのだ。
正に女神に祝福されたアーサーしか扱うことの出来ないアーサーの為だけの剣だった。
試しにリーシャは聖剣に残るアーサーの魔力をゆっくりと自分に取り込む。
そしてその魔力を変質すること無く聖剣へ流す。
ハイエルフは生まれつき女神と精霊の加護を持つ。
先日、精霊王から【神の器】と呼ばれたのはかつてハイエルフという種族が神々が大地へ顕現する際の依代とされていたからだった。
今では神々も地上へ直接干渉する事も無くなったが、ハイエルフはその依代としての力を今も秘めている種族なのだ。
そして精霊を愛し共に生きるハイエルフは生まれつき精霊から加護されている。
聖剣を抜くための条件を二つクリアしていたリーシャは最後の条件であろうアーサーの魔力を聖剣から抜き取り流したのだった。
「あ」
リーシャはするりと台座から聖剣を引き抜いた。
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