22 真名と契約
あらすじ:ストーカーみたいなマララガンがイエレナに着いて来た。
雷の上位精霊マララガンはキョトンとした目でイエレナを見た。
「ふふふ...どんな恐ろしい精霊かと、思ったら...ふふふ」
口元を抑えながら笑うイエレナ。
一晩中恐ろしかった精霊の正体が知れて安心したのだ。
そしてその正体が上位精霊とはいえ見た目も性格も思春期の少年の様で一晩中震えていた自分が馬鹿らしくなってしまった。
『...俺が恐ろしくないのか?』
不安気なマララガンの瞳が揺れていた。
「見えない時は恐ろしかったけど今は全然よ。むしろ今はかわいいわね」
イエレナは目じりに溜まった涙を指で拭いながら笑みを向けた。
それを見たリーシャはマララガンにニヤリと口角を上げた。
「此奴は雷の化身。太古より怒りと破壊の権化として恐れ崇められてきた精霊だよ。人好きで好奇心が強いが、なまじ力が強いせいで契約出来る者も少ない。畏れられるのが嫌でその姿を見られぬ様に隠れて人里に降りては人々を観察していたのだ。そんなことをしていたからか異様なくらい気配の隠蔽と姿隠しが上手い精霊なのだよ。マララガンの存在を知っているのはわたしの様なハイエルフくらいかもしれないな。」
「確かに、私も知らない精霊でした」
『お、おい!余計な事は言うなよ!』
全身が黄色に輝く雷の色をしたマララガンがチカチカと顔を赤く点滅させながらリーシャに迫る。
それを微笑ましげに見るイエレナ。
「ほれ、わたしよりもイエレナの傍に居なくて良いのか?その為に精霊界からこそこそと着けてきたのだろう」
『言い方っ!』
リーシャも敢えて辛辣な言い方をしてマララガンの反応を楽しんでいた。
畏れられることを恐れる強い力を持つ精霊の本質が人懐こい優しい精霊なのだ、と暗に伝えるため無意識でそうしていたのだ。
リーシャが促す様に視線をイエレナに向けた。
釣られてマララガンも振り返る。
目を丸くしたイエレナだが、その表情に畏れる様子は無かった。
『おい、エルフの娘』
「あ、え?私?はい」
『お前の名前を教えろ』
マララガンがイエレナの目の前までふわふわとやって来た。
その顔は威厳を保つ為かキリリと眉を顰め腕を組み胸を張っているが、背伸びをした可愛らしい少年にしか見えなかった。
しかしそれでも上位精霊、しかもイエレナが正体を見破れない程の力を持つ存在である為イエレナは自然と姿勢を正した。
「私は森エルフ、ティエレン・ウルソリアとナサリナ・ウルソリアが娘、イエレナ・ウルソリア」
エルフが両親の名から名乗るのは精霊との契約の時のみである。
嘘を嫌う性質を持つ精霊に対して自らの両親の名と自らの名において嘘偽りなく最大限の礼儀を示す意味がある。
『イエレナ、良い名だ。我が眷族達がお前に名付けられた事を俺も嬉しく思う』
精霊は元々不安定な存在である。
世界に在る現象、存在、感情から生まれる。
生まれ持った力によって世界に在る。
いつの間にか生まれいつの間にか消える。
下位精霊とはそういうものなのだ。
精霊達が世界に在り続ける為には自身の存在がはっきりとしていなければならない。
その存在の証明として他者から名前を与えられる事が必要となる。
知恵と肉体のある生物から名前と共に魔力を貰い受ける事で精霊はその存在が認められるのだ。
精霊魔術師達は魔力の相性が良い名前を持たない精霊に名前を与え存在を認める事で契約とし、その力を借り受ける者達である。
『俺はお前が気に入った。俺を受け入れる事が出来るなら俺の【真名】を刻み俺はお前の盾となり鉾となる』
イエレナは期待はしていた。
が、まさか本当に上位精霊が自分と契約を望むなど有り得ないと思っていた。
上位精霊は下位精霊とは違い名前を持っている。
それはシルフィードやマララガンという種族名とは違う発音の出来ない【真名】。
上位精霊として存在する為の命と同じ【真実の名前】である。
【真名】を教える事は【魂】を捧げる事と同意なのだ
上位精霊との契約は彼らが持つ【真名】を知る事で魂に刻み、その力を受け入れる事で成立する。
それ故に上位精霊と契約する事は難しい。
上位精霊と相性も良く認められ受け入れるだけの魔力と力が無ければ契約は叶わない。
『恐らくはお前の魔力ならギリギリ俺を受け入れる事が出来るだろう』
マララガンからの言葉は先日リーシャから言われた事と同じ。
イエレナは覚悟を決めてマララガンと向き合った。
「マララガン、私は貴方を受け入れるわ。私と契約して」
マララガンは嬉しそうに笑うと小さな手でイエレナの頬に触れ、額にキスを落として【真名】を告げた。
声にならないその【真名】がイエレナの魂に刻まれる。
続いてイエレナの魔力が勢いよくマララガンへと流れていく。
眼を見開いたままイエレナはマララガンから眼を逸らさぬ様に食いしばる。
イエレナの魔力がマララガンの雷の力と混ざり合うようにバチバチと何度も眩しい光を放つ。
いつの間にか目を覚ましていたケット・シーは目の前の光景に驚き頭から布団を被った。
イエレナは魔力が底を尽きそうになり、ガクガクと膝が震えた。
椅子に座ったままなのに倒れそうだった。
「耐えろ!イエレナ!」
リーシャが発破をかける。
彼女ならば大丈夫だと心から信じているのだ。
イエレナはその声を遠くで聴いている様な感覚だった。
いつまで魔力を吸われるのか。
魔力が足りないのではないか。
そんな不安も頭を過ぎる。
たった数秒の事がとてつもなく長い時間に感じた。
自ら魔力を放つのでは無く強制的に沢山の魔力を失うという感覚は経験の無い事だった。
元々魔力の多いエルフの中でもイエレナは更に魔力が多かったので下位精霊との契約ではここまで苦しく感じる事は無かった。
魔力が尽きる。
そう感じた瞬間身体が軽くなった。
目の前ではマララガンが満足気に笑っている。
力が入らずグラリと身体が傾きそうになると肩を支えられた。
顔を向ければ女神の微笑みを浮かべたリーシャが支えてくれていた。
「やったな、イエレナ」
「すみ、ませんリーシャ...さま」
「今日はこのまま寝てるが良い」
魔力が枯渇したイエレナは何とか笑みを返してそのまま意識を手放した。
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