19 精霊の王
あらすじ︰リーシャvsスプリガン×100
「シルフィおいで」
リーシャが呼び掛けるとつむじ風と共に緑の肌と髪の少女の姿をした風の上位精霊シルフィードが現れ背後から首に巻き付くように抱き着いた。
『はいはーい!』
「中々頑丈な上に数が多い。手伝っておくれ」
『任せてー!』
するとシルフィがリーシャの中へ溶けるように入っていく。
リーシャの輝く白金の髪がシルフィの薄い緑に変化する。
「えっ!?精霊を取り込んだ...!?」
驚きの声を上げるイエレナ。
精霊は稀に人に取り憑く事がある。
気の向くまま本能に従う精霊の意識に乗っ取られると本人の意志に反して悪戯や思わぬ事件や事故を起こしてしまう事もある。
特に自我が強く精霊としての力も強い上位精霊に取り憑かれたりしたら、本人の自我は崩壊し廃人になってしまうだろう。
「イエレナ、見ていろ」
リーシャはイエレナの心配を知ってか知らずか振り返り男前な笑顔を見せた。
「行くぞっ」
リーシャはトンと助走もなく跳んだ。
ふわりと天高く舞い上がり空中に漂うリーシャ。
「「「「「グルあぁぁぁぁぁぁあ!!!」」」」」
スプリガン達は一斉に魔力を込めた咆哮を空中のリーシャに放った。
広範囲に拡がる魔力砲を空中で軽やかに回避していく。
まるで川を流れる落葉が水流に身を任せ障害物をするりと避けるようにリーシャは危なげなく回避し続ける。
スプリガンの放つ一撃は掠りでもすれば致命傷となる程の威力を込められている。
しかしリーシャは恐れもせず隙を見つけると急速に降下してスプリガンの懐へ入った。
リーシャがスプリガンの顎をそっと触れる。
ボゴンッ
鈍い破壊音が響きスプリガンの巨体が顎を中心に一回転する。
その勢いで顎は砕け散っていた。
気が付くとリーシャは別の一体の背後から現れ、軽く背中を押せばスプリガンは回転しながら弾け飛んだ。
神出鬼没のリーシャはスプリガンを一撃の元次々と蹂躙していく。
棍棒の一撃をぬるりと滑らかに避ける。
その姿は一瞬で別の場所に現れる。
全く力まずに軽く触れた場所にほんの一瞬だけ、嵐や竜巻の如きエネルギーを解放して大ダメージを与えていく。
正にリーシャは風の上位精霊の力そのものとかしていた。
風の上位精霊を体内に宿しそのエネルギーを自身の魔力と融合させ肉体を持ちながら強制的に半精霊化する精霊魔術の超高等魔術。
上位精霊の強い自我と膨大な魔力を抑えながら、完全にコントロール出来なければ例え契約している上位精霊であっても直ぐに体を乗っ取られてしまうだろう。
意識を保てたとしても精霊の持つ魔力は人の持つ魔力とは桁が違う。
魔力の多いハイエルフであっても自然そのものと云うべき上位精霊の持つ魔力は身に余る。
そんな魔力を突然身に宿せばコントロール出来ずに自滅するだろう。
ハイエルフが特別なのかリーシャが特別なのか。
イエレナが一体で苦戦したスプリガンを蹂躙するリーシャはまるで歩く災害そのものの様だった。
最後の一体の頭を吹き飛ばし、フゥと息を吐いたリーシャの体からシルフィがポンッと出て来る。
『無茶したわねー』
「中々疲れた、ありがとうシルフィ」
流石に汗をかいて疲労の色をみせたリーシャ。
結界の中で唖然とするイエレナとプラウドもそれを見て駆け寄ってきた。
「リーシャ様!」
「すげぇな、あんた...!」
労いの言葉をかけようとするとリーシャの背後でスプリガンが再生しようとしていた。
気付いたリーシャが面倒臭そうな表情で振り返るとスプリガンの横にもう一人別の精霊がいた。
シルフィがその精霊に気付くと膝をついて頭を下げる。
続いてスプリガンも跪いた。
精霊が誰かに跪く姿など見た事も聞いた事も無い。
『久し振りに会ったな、神の器の娘よ』
漆黒の様な長い少し長い髪と幾つも枝分かれした巨大な雄鹿に似た角を生やした金の瞳を持つ男の姿をした精霊。
作り物の様に整った顔は余裕ある笑みを浮かべてリーシャに近付いてきた。
「精霊王オベロン...」
リーシャが呟いたその名は精霊を統べる伝説の存在。
【世界樹の森のエルフ国】の世界樹に宿る【精霊女王ティターニア】の夫である。
とんでもない大物の登場にイエレナの顔から血の気が引いていく。
『いやぁ、まさか懐かしい気配がすると思って出て来たらシルフィードを使ってスプリガンを虐めてるからさぁ』
『面目もありませぬ』
オベロンはへらへらと笑いながら跪いたスプリガンの頭をポンと軽く手を置いてシルフィを一瞥した。
動揺するシルフィを守る様に前に出るリーシャ。
「わたしはその頑固じじぃと話をしようとしただけだ」
『頑固じじぃ...ぷぷっ』
頑固じじぃ呼ばわりされたスプリガンを見て揶揄う様に吹き出すオベロン。
どうやら良い性格をしているようだ。
生真面目なスプリガンは頭を下げだけまま動かない。
『まあ子供の喧嘩に手を出す様な真似はしないから安心しなよ。それに僕が此処に顔を出したのは別の目的があったからさ。知ってるよ、精霊達が騒いでいたから君たちの目的も全部、ね』
片目を閉じて胡散臭いウィンクをするオベロン。
プラウドはオベロンがとんでもない大物だとは分かるが軽いへらへらとした態度のせいで反応に困っていた。
『ああ、アマラントスの蜂蜜は本来余り外界に出すべきじゃないけど、特別に許可してあげよう。スプリガン、分かったね』
『御意に』
「話が分かるなさすが王」
リーシャが誉めるとオベロンの顔が目の前に現れた。
オベロンは妖艶な笑みでリーシャの顎を指で上げてその唇を撫でる。
美しく弧を描いた唇がリーシャの唇まで数センチに迫る。
『対価はお前でいい』
「断る」
その唇が触れる寸前にリーシャは間髪入れずに断った。
キョトンと目を丸くするオベロン。
『ふふふ...あはははっ』
無表情のリーシャに断られたオベロンが堪えきれずに笑い出す。
その様子にイエレナはもう気が気では無い。
伝説の精霊王に求められたリーシャも、断られて笑い転げる妖精王の姿も、自分の想像出来る範疇を超えていて吐き気を催しそうだった。
『そうかそうか、しかし神の器の最後の一人がそのまま滅びるにはしのびないのでな。番もなく滅びるくらいなら精霊界で永久に過ごせば良いとお節介を焼いたまでだ』
「余計なお世話だ精霊王」
少しムッとするリーシャ。
『冗談だ。アマラントスの蜂蜜の対価はもう貰っている』
「愛し子か」
『そうだ』
その言葉に反応したプラウドが二人の会話に入ってきた。
「どういう事だ?アリスが...アリスティアが対価?」
動揺を隠せないプラウドを一瞥したオベロンが胡散臭い笑顔を向けた。
『そうだ。愛し子の番の獣人よ。愛し子が精霊界の住人となる事が対価であり彼女の望みだ』
「そんな...馬鹿な!嘘だ!あいつが、アリスが望んだだとっ!?」
『精霊は嘘はつかない』
感情を剥き出しにしてオベロンに近付こうとするプラウドをリーシャが手で制した。
「精霊は嘘はつかない。精霊王の言葉は本当だろう」
リーシャの突き放すような言葉にプラウドはショックを隠せなかった。
オベロンは相変わらず胡散臭い笑顔を向けている。
「但し、都合の悪い事は言わないだけだ」
「それ、はどういう...?」
リーシャの言葉の意味を測りかねないプラウド怪訝な顔を隠せなかった。
『ふむ。ならば本人に訊けばよいだろう』
オベロンがあっけらかんに言ってパチンと指を鳴らした。
次の瞬間、オベロンの横に透き通って中の見える大きな卵が現れた。
その中には美しい女性が赤子のように丸まって眠っていた。
「...アリス!」
お読みいただきありがとうございます♪
話の進みも遅いのに筆も遅い筆者も評価やブックマークが増えると嬉しくなって頑張ってしまいます(単純)
次回で恐らくこの蜂蜜のお話は決着出来そうです。




