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最後のハイエルフは甘いものがお好き  作者: ほむら


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18 スプリガン

戦闘シーンは難しいですね。




あらすじ︰スプリガンに威嚇されたよ

雲ひとつ無い澄み渡る空の下、青々とした森に囲まれた小高い丘の中心に巨石が積み重ねられている。

近付いてよく見ればその巨石は古い魔法陣が刻まれた石の扉を護る様に丁寧に積まれている事が分かる。

扉を中心に5メートル程の高さの石柱が美しい二重の円環を描く様に等間隔で大地に立っている。

その下には決して枯れることの無い色鮮やかな精霊界の花アマラントスが咲き乱れ、淡い光を持った精霊達と花蜜蜂がその香りと甘い蜜に引き寄せられ神秘的な光景を彩っていた。


その微睡みのような世界を打ち砕き残酷な現実へ引き戻すかの如くスプリガンの棍棒がドンッと大地へ突き立てられた。


『頑愚な獣ならば我に挑み死を選ぶか!』


スプリガンの魔力を込めた声にも怯まず帰る気配のないリーシャ達。


すると子供ほどの身長だったスプリガンの体がメキメキと盛り上がり3メートルを超す巨人に変貌してゆく。

身を包んでいたマントの下から現れたのは石の様に硬そうな肌と大木の様に太い腕、カモシカに似た俊敏そうな足。

顔は長い髪で覆われたまま表情は見えないままだが、隙間から覗く魚のようなギョロっとした大きな二つの目だけが爛々としてリーシャ達の指の動き一つも見逃さない様に睨みつけていた。


有無を言わさぬ圧倒的強者の存在感。


プラウドは自分の見積もりの甘さに苦虫を噛み潰したような表情をしながら背中に流れる冷たい汗を感じていた。


初めてこの地へ訪れた時、スプリガンはこの様に戦闘態勢に変貌することも無くあっさりとアリスティアを受け入れた。

だから今回もエルフの精霊魔術師が二人も揃っていれば交渉の余地があると踏んでいたのだ。


一線から退いたとはいえ数々の凶悪な魔物と戦ってきた戦士としての自負はあった。

しかし変貌したスプリガンから発せられる強者のオーラは間違いなく己よりも上である事は間違いないだろう。


長年培ってきた戦士としての勘が警鐘を鳴らし撤退を決める。

あとはリーシャ達にその意志を伝え来た道を戻るだけで良かった。


強者を前にした元戦士は視線をスプリガンから逸らすこと無く後ろに立つリーシャとイエレナを意識する。

精霊魔術師としては【精霊の愛し子】であったアリスティアよりも強い二人ではあろうが肉体的にはか弱いエルフの女性二人。

プラウドは無意識で「男として大柄で頑強な熊の獣人の戦士である自分が守るべきものである」と考えていて、()()()()()に背負っていた両手斧に手を掛けてしまった。


スプリガンはその動きを瞬間的に「戦闘の意思有り」と判断し超高速で棍棒を上から振り下ろした。


ドゴォンッ!


大地が揺れるほどの衝撃に石礫が飛び散り土煙が舞い上がった。

土煙が晴れると棍棒で叩き潰した先には抉れた大地のみだった。


「随分と好戦的だな」


10メートル程後方にプラウドの襟を掴んで引っ張るリーシャがふわりと降り立った。

続いて冷や汗を浮かべたイエレナも同じ様にふわりと降り立つ。


二人は風の精霊を使った精霊魔術で後方へ回避したのだ。


リーシャがプラウドの襟から手を離す。

尻もちを着いたプラウドはゴホゴホと咳をしていた。


「ゴホッゴホッ!す、すまねえ!」

「わたしは護衛を頼まれたのだから問題無い。ここからはもう一つの依頼、スプリガンとの交渉だ」


青ざめるプラウドに涼しげに言ってのけるリーシャ。

プラウドは彼女達が「か弱いエルフで守る対象」などと烏滸がましい考えをしてしまった事を反省した。



「ではイエレナ。彼奴は数万年も愚直にこの地を護り続ける頑固じじぃだ。丁寧に交渉してみようか」

「が、頑固じじぃ...分かりました!」


イエレナは契約している精霊を全て顕現する。

その数40体以上。

全て下位精霊であるが圧倒的に数が多い。


これが【疾風迅雷】に加入する以前、ソロで活動していたイエレナが強敵相手に得意とした戦法であった。


イエレナが両手を前に突き出しスプリガンへ向ける。

精霊への指示を乗せた魔力を指先に流すと精霊達が動き出した。


対峙するスプリガンは身構えたまま動かない。

上位精霊と下位精霊が何体集まろうと力の差は歴然なのだ。


その上、上位精霊であるスプリガンは盟約によりその地から離れる事が出来ない代わりに侵入者に対してその力は更に強くなる。


イエレナが右手を軽く横に降り左の掌を広げると精霊達が同時に魔法を放つ。

火球と風の刃、雷と氷の槍がスプリガンの襲い掛かる。


スプリガンの目の下に一本の長い線が横に伸びる。

ガパッとそれが縦に大きく開いた。

それはスプリガンの口であった。


『グルあぁぁぁぁぁぁあっ!!!』


魔力の込められた咆哮は向かい来る魔法を打ち消した。

その直後スプリガンの目を闇の霧に覆われる。

振り払おうと魔力を放ちながら頭を振ると闇の霧が消え今度は眩い閃光に視力を奪われた。

それでも怯まずスプリガンは向かい来る敵意を魔力で視る。


全方位から襲い掛かる百近い敵意をサーチする。


スプリガンは全身から魔力を噴き出し魔法に対する球状の障壁を作り出した。

イエレナの精霊が放つ火の矢、石礫、衝撃弾、闇の鉤爪などの魔法は上位精霊(スプリガン)の魔法障壁に弾かれていく。

やがてスプリガンは視力を取り戻し反撃の対象であるイエレナの姿を確認する。


直後スプリガンの体が大きく傾いた。


左の足元が砂に変化して膝まで埋没してしまったのだ。

サラサラとした砂上では踏ん張りが効かず、残った右脚で大地を蹴ろうと力を込めた瞬間に大地は砂になり完全に体勢が崩れ魔法障壁がほんの少し揺らいだ。


そこへ間髪入れず顔面目掛け先程よりも大きな氷の槍が襲いかかった。


スプリガンは咄嗟に左の腕を振るい魔力弾を打ち出す。

氷の槍は粉々に砕け散った。


『小細工ばかりで我に...』


スプリガンの言葉を遮ったのは、真上から落とされたイエレナの魔力をたっぷりと乗せた特大の太い雷。


ドドォォォン!!!


揺らいだ魔法障壁を突き破り、魔法の雷がスプリガンの全身を駆け巡った。


脱力したスプリガンの体から黒い煙が立ち上る。


たった十数秒の攻防。

その中でイエレナは百を超える魔法を放った。


精霊魔術の真骨頂といえる。


精霊魔術と一般的な魔術の違いは魔法を使う精霊を操るか、自ら魔法を構築して発動するかだろう。


魔術は魔法を構築するための魔法陣を通して発動する。

魔力を制御し発動する魔法の形をより明確にするため詠唱も必要となるので十数秒で百近い魔法の発動は難しい。

熟練の魔術師ならば詠唱せずとも魔法を制御して発動出来る。

それでも二、三種類の魔法を同時に発動するのが人の脳での限界である。


精霊魔術はあくまでも魔法を使うのは精霊であり、精霊魔術師は精霊に魔力を与え命令すれば良いので理論上では同時に精霊の数だけ魔法を放つ事が出来る。


しかし精霊に与える魔力は有限であり下位とはいえ40もの精霊を同時に顕現し自在に操る程の魔力と戦闘センス、上位精霊の魔法障壁を破る攻撃魔法まで使ってみせたイエレナは精霊魔術師として超一流といえる。


「見事だイエレナ!」

「リーシャ様...でも...」


優しく背中に手を当てるリーシャの褒め言葉にも肩で息をするイエレナは不満顔だった。


「...残念ながら火力不足でした」



「我も褒めてやろう。おぬし程の精霊使いは数百年振りやもしれぬ」


ゆっくりとスプリガンは眼を見開いてイエレナを睨みつけた。

彼の左腕はボロボロと崩れ落ち満身創痍だ。


「ならば我々も全力で相手をしよう」


ドンッ


焦げ痕の残る右手で掴む棍棒を大地へと打ち鳴らす。


大地が揺れスプリガンの背後の土が何ヶ所も盛り上がり始めた。


「...あれ、は」


プラウドはこの地の伝承を思い出し絶望する。

リーシャに支えられながら魔力を使い果たしたイエレナは悔しそうに唇を噛んだ。


「イエレナ、何も恥じる事は無い。下位精霊のみで上位精霊を倒したのだ。後は全てわたしに任せれば良い」

「リーシャ様...」


男前なセリフを言い放つリーシャの自信に満ち溢れた笑顔を向けられたイエレナはスプリガンを倒し切れなかった悔しさも忘れ惚けてしまう。



そんな二人を他所にスプリガンの後方で盛り上がる土は徐々に人の形を成していく。


さして時間もかけずにその全てがスプリガンとなった。


伝承に謳われた100体を遥かに超える数のスプリガンで【防人の丘】は埋め尽くされた。


「イエレナ、プラウドと一緒に結界の中へ」


リーシャの指示に頷いたイエレナは絶望に染るプラウドの元へ走り残り少ない魔力で結界を作り上げる。

リーシャは更にその結界を二重にして強化した。


「では改めて頑固じじぃ達を優しく説得してみせよう」


リーシャは臨戦態勢のスプリガン達を見やり眼を細めて微笑んだ。




お読みいただきありがとうございます♪



次回は久しぶりにリーシャ活躍しまっす(`・ω・´)ムンッ!

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