13 小熊の蜂蜜亭
リーシャが魔法を解くと気を失ったままのガイウス達はその場で拘束された。
そして連絡を受けてやって来た騎士団へ犯罪者として魔法を封じる首輪を嵌められ引き取られていった。
恐らくこの後厳しい尋問を受け犯罪奴隷に落とされるだろうと複雑な表情のヴァイスがリーシャに話し始めた。
かつてガイウスとアレンは冒険者になった頃は同じパーティーを組み、ヴァイスから剣の師事を受けた兄弟弟子だったらしい。
年長のガイウスの背を必死に追い掛けたアレン。
いつしか兄弟子より実力を付けた弟弟子を疎むようになり、二人は仲違いし別々のパーティーを組んだ。
その頃からガイウスに、裏組織との繋がりや違法奴隷の売買の関与など、きな臭い噂が聞こえるようになった。
しかし特に証拠も出る事もなく、基本的に脳筋で短絡的な性格のガイウスならば直ぐに足が出るだろうと誰しもが思った。
ある時、ソロでありながら精霊魔法の使い手でエルフの美女イエレナに目を付けたガイウス。
自分と組もう、としつこく口説いていた。
何度も断るイエレナに業を煮やしたガイウスはヴァイスが出張で居ないのを良い事にギルド内でイエレナを拉致しようとした。
それを救ったのはアレン達だった。
イエレナは感謝し、アレンのパーティーへの加入を求めると二つ返事でアレンは了承する。
優秀な冒険者であったイエレナからの申し出を断る理由などなかった。
ガイウスは出張から戻ったヴァイスに厳重に注意と指導を受けランクを下げられた。
その後ガイウスは大人しくなったかに見えたが、最近になって怪しげな二人とパーティーを組んで迷宮探索依頼を率先して受ける姿に警戒していた。
それで今日の事件が起こってしまった。
ガイウス達がギルドに戻ると、エルフの美少女の話題を耳にしたらしい。
しかも連れていたのはアレン達だという話を聞いて、嫉妬に駆られて凶行に至ったのだろう、と。
しかしリーシャはその話にあまり興味が無かったため、途中から精霊達と戯れていたのだった。
ほぼ独り言となったヴァイスは遠い目で哀愁を漂わせるしか無かった。
そして当初の約束であるアークキマイラの魔石を売った代金を受け取りリーシャはアレン達と共に冒険者ギルドを後にした。
アレン達からお詫びとお礼を兼ねて食事の誘いを受けたが、眠気を感じたリーシャは断りを入れた。
ならば、とせめて良い宿を紹介すると言われ案内されたのは『小熊の蜂蜜亭』という変な名前の宿屋だった。
鮮やかな黄色の壁に赤い屋根で看板にはフォークとナイフを持った可愛らしい小熊の絵が描かれていた。
この宿は女性冒険者に人気があるらしく、イエレナも部屋を取っているらしい。
特に食事はお勧めだとイエレナが自慢気にささやかな胸を張った。
宿屋に泊まるのは初めてのリーシャは他と比べようも無く、イエレナも居るのでここに決めた。
男性陣は別の宿らしく、ここで別れる事となった。
冒険者ギルドで解放された生命の精霊プシュケーはずっとリーシャの近くを飛んでいたのだが、リーシャと何やら会話をするとオルソンの頭の上に乗ってきた。
「わたしの魔力が少し混じったお主の魔力が心地好いらしい。契約はまだ無理だろうが、お主の魔力の巡りを整える手伝いをしてくれるらしいぞ」
リーシャが良かったな、と笑顔を向けるとオルソンは驚嘆し申し訳なさそうにお礼を言った。
「わたしに礼を言う必要などない。プシュケーがお主を選んだ。それだけだ」
「いや、でもリーシャさんには色々助けて貰ってばかりで...さっきも...」
「気にすることでもないよ。まー、ただどうしても
お礼がしたいと言うなら、その...あれだ、また...ちょこれいと...を」
リーシャは少し気恥しそうにチョコを所望した。
「それは勿論です!約束しましたし!それとは別で何かお礼をさせて下さい」
「そっそうか!ならば、抱き締めて良いか!?」
「「「「「えっ!?」」」」」
頬を染めて爆弾発言を投下する絶世の美女、いや美少女エルフ。
彼女は今、己の欲望を剥き出しにした。
「えぇ?いや、それは...」
助けを求める様に目線を泳がせるオルソンを助けようとする者など此処にはいなかった。
肩を叩いて「良かったな」と爽やか笑顔のアレン。
青筋を立てて「後でゆっくり話を聞こうか」と貼り付けた様な笑顔のレオニール。
「ねー!俺はー?」とリーシャにアピールするザック。
口に手を当てて目を見開いて何故か一番ドキドキしているイエレナ。
偶然、爆弾発言を聞いてしまった道行く人々もリーシャとオルソンを見比べて殆どが毒を吐いている。
「リア充か!」「美少女と野獣?いや野ブタ?」「俺と代われ!」「ブタだけ爆発しろ」「あの細い脚で踏まれたい」
俺はぽっちゃりだ、と心の中で呟いてちょっぴり傷付くオルソンにリーシャは追い打ちをかけるように一歩近付いた。
「いやなら、いいんだ。悪かったな」
少し背の低いリーシャは自然と上目遣いになり、その瞳は少し潤んで揺れていた。
「いやじゃないっ!...です」
はっとしてオルソンはらしくない大声を出した。
リーシャに対して少々好意を、いやかなり好意を、むしろもう大好きになりかけているオルソンが断れる筈が無かった。
傷付いた様な悲しいそんな顔をさせる訳にはいかなかった。
たとえドキドキし過ぎて己の心臓が破れようとも!
「そうか!では...」
パァーっと花のような笑顔を見せたリーシャに、オルソンの童貞純ハートは完全に射貫かれた。
ぽっちゃりオルソンのそんな心の機微など知らないリーシャは直立不動の彼の身体に細い腕をまわしてぎゅうっと抱き締める。
知らない人が見れば、恋人のソレである。
アレンは照れて顔を逸らし、レオニールは充血した目で押し付けられた胸の柔らかそうな感触を想像しながら血が出るほど唇を噛んで、ザックは「なんだよ、オルソンばっかり」と愚痴を零す。
「きゃーーーっ」と心で叫びながら顔を手で覆いながら指の間からしっかりとガン見するイエレナ。
道徃く人々からもチラチラ見られてオルソンは恥ずかしさと嬉しさとリーシャの柔らかな感触と甘い香りに心臓が破裂しそうだった。
ふと視線にはいってきたプシュケーがニヤリと笑う。
(大丈夫!心臓が破裂してもわたしが治してやるわ)
まだ精霊の声は聞く事が出来ないオルソンだったが、プシュケーはそう言ってくれた様な気がした。
周りがそんな状況であったが、リーシャはただオルソンのぶにぷにとした肉の感触を楽しんでいた。
そして、ひとつの確認と答えを得ようとしていた。
リーシャはハイエルフの里にいた頃、兄を抱き締めるのも、兄に抱き締められるのも好きだった。
抱き締めるという行為は心が暖かくなり幸せを感じるものだと認識していた。
実はリーシャが兄以外で抱き締めたのはオルソンしかいない。
オルソンを最初に抱き締めた時、そのふくよかなぷにぷにとした肉感に兄とは違う暖かな何かに心も体も満たされた。
明らかに抱き心地によるものである。
性的なものでは無い(?)。
しかし、先程ギルドでダークエルフに背後から抱きつかれた時には嫌悪感しか無かったのだ。
では、他のアレンやレオニール、ザックならどうだろうと想像する。
(......)
別にしたいと思わなかった。
でもイエレナなら嫌な気はしない。
今はどうだろう。
ぽっちゃりオルソンの柔らかなお肉のぷにぷに感にリーシャの心は満たされた。
ケット・シーや森の動物達を心ゆくまでモフりまくった時と同じ位満たされた。
兄とはやはり違うが、心地好い。
この瞬間にリーシャの中で、オルソンはケット・シーと並んだ。
この残念な思考である意味残酷な答えが導き出されていた事を知るのはまだ少し先の話であった。




