夢と現とその前の
珍しく夢を見た。
そこは静かな場所だ。石と木だけで組まれたその家には、俺と彼女以外だれも足を踏み入れない。もしかすると、その世界には二人以外に誰もいなかったのかもしれない。
だけれど、その生活は寂しいものではなかった。
二人で本を読んで、散歩をして、月を見て、花畑を作って、手を繋いで眠って――。
そうやって過ごす二人の時間は、ずっとずっと長く続いた。恐らくそれは、俺が想像できないほどのとてつもない時間だったけれど、俺がその中で退屈を感じたことは一度たりともなかった。
多分それは、夕方の校舎の記憶よりずっと前のことだと思う。もしかしたら、俺がこの世に生まれる前の記憶かもしれない。
彼女が誰なのかは知らなかった。ただ、彼女の小さな手のひらは温かくて、何の根拠もない安心を与えてくれたのは覚えている。
家の屋根裏に上って、天窓から星を見た。彼女は物知りで、俺にいろいろな星の名前を教えてくれた。
シリウス、カペラ、アルタイル、スピカ、レグルス、エルナト――それらにまつわる話も、彼女は細部まで記憶しており俺に聞かせた。
様々な物語を彼女は俺に教え、俺は彼女へ様々な遊びを教えた。花の名前も、少しは伝えられたような気がする。その一つ一つを、彼女はいつも微笑みながら聞いてくれたものだ。
だけど、それはただの夢。うつつとはかけ離れた対極の時間。だからそこに居た俺は、きっと俺ではない。




