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「秋の主役は?」

九月も半ば。朝夕は少しずつ涼しくなってきたとはいえ、昼間はまだ汗ばむ陽気が続く。


午前十時すぎ、小崎はバックヤードの簡易テーブルに広げられた帳簿と売上表を前に、眉間に皺を寄せていた。


「うーん……どれも決め手に欠けるなぁ……」


「なー小崎。お前、なんか『秋っぽいもん』でパッとしそうなやつ、思いつかねぇか?」


オーナーの柳田が、アイスコーヒーを飲みながらぼやく。年に何度かある「季節の変わり目の仕入れ会議」。いつもなんとなく流していたが、秋は難しい。夏の冷たいものは売れなくなり、かといって本格的な冬モードにするにはまだ早い。


「スイーツ系ですかね?芋とか栗とか……」


「栗ねぇ……去年のモンブランロールはけっこう返品きたんだよな」


「じゃあ焼き菓子……でも冷蔵の棚が空いちゃうな」


そんなとき、休憩を終えた遠州灘子えんしゅう なだこが事務所から出てきた。


「おふたりさん、何をそんなに真剣な顔して」


「秋の仕入れ、何にするかでさ。何かオススメない?」


「ふーん……」と灘子は帳簿をのぞき込み、候補のチラシに目を通したあと、即座に指を差した。


「これ。スイートポテト、売れるよ」


「おっ、即決?」


「昨日スーパーで山積みにしてたけど、あっという間に減ってたわよ。しかも、このメーカーのって、うちの近所のママ友にも好評。パッケージも秋っぽくて映えるし、冷蔵棚にもぴったりよ」


「ほおぉ……説得力あるな」


柳田が感心して頷き、小崎も「じゃあ試してみますか」と発注に乗り気になった。


「うちの息子、最近反抗期でアイスも冷凍焼き芋も『いらね』って言うけど、これだけは黙って食べてたのよ。あれは本物の証拠」


「それは……確かに強い……」


その日のうちに柳田は発注をかけ、冷蔵ケースには「秋の味覚フェア!スイートポテト特集」と書かれたPOPを灘子が作成。小崎は商品の陳列に悩みつつも丁寧に並べた。


そして迎えた翌週。


昼どき、女子高生が数人来店し、POPを指差して言った。


「ねぇこれ、SNSで見たやつじゃん!めっちゃ美味しいって!」


続いて、午後には主婦たちが買い、夕方には会社帰りのOLが棚をのぞき、次々とスイートポテトが消えていった。


「すご……マジで当たった……」


売上はみるみるうちに伸び、週末には追加発注するほどの人気商品に。


「灘子さん、さすがです」


小崎が頭を下げると、灘子は手をひらひら振って笑った。


「ま、伊達に主婦歴二十年やってないのよ。流行も家計も、見抜く目には自信あるから!」


その横で柳田がぼそり。


「やっぱ、この店の実質リーダーは灘子さんだな……」


秋の入り口にふさわしい、ちょっと甘くて、ちょっと頼もしい一週間だった。


――頑張れ、小崎くん。 ベテランの知恵には、敵わない日もあるさ。

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