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異世界キャンプ ~チートはなくても美味しいものがあれば充分です~  作者: 綾川 鈴鹿
《カプト地方、砂漠編》二章、カルラ・オアシス
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14話、討伐隊(4)

 キュイ、キュイと鳴くロック鳥に紛れてリリの耳には会話が聞こえる。


「キキュイ、オカアサン」

「キュイ、エサヲモッテキタ、キキュイ」


 鞄の中で身を震わせ丸まるリリのもとに、聞き慣れない声が聞こえてくる。


(聞き取りづらいけど、もしかして誰かが助けに来てくれたの? こんなとこまで?)


「エモノ、オオキイ、タイヘン?」

「バシャ、オーク、マモッテタ」

「オーク?」

「タタカウヒト、オーククルカモ、トンデモ、ムカッテキタ」


 リリの耳には、朧気ながらも確かに会話が聞こえてくる。


「もしかして、あの鳥が喋っているの?」


(そんなバカな!)


 聞こえないように小声で独り言を話すリリ。

 その頭の中では、理解不能な情報を整理するために、フル回転していた。


(モンスターの声なんて、今まで聞こえたことがないのに、急にどうして? 知能の差? 特殊能力? 幻聴? わからないわね……)


「いやっそれよりも、聞き捨てならないことを言っていたような……」


 鳥の言葉の中に『オーク』という言葉が混ざっていた、そのオークは確実にラーナの事なのだろうとリリは確信した。


(この地方にラーナ以外のオークがいるなんて思えないし)


「アナタゴハンタベル、ワタシカリニデル、アメフル、タクサンサンドワームカル」


(やばい、やばい、やばい、幻聴か、気の所為なのかはよく分かんないけど、こっちに来るの? あんなのに見つかったら…………死ぬ)


 無意識にガタガタと震える身体に気づいたリリは、少しでも見つかりにくくなる様にとラーナの鞄の中でも、ひときわ柔らかそうな布に包まろうとする。

 しかし、まるで地震でも起きているのかと勘違いしそうなほど震える手は、布を上手く掴めない、それが更にリリの鼓動を早めるのだった。


(早く逃げなきゃ、死にたくない、こんな……耐えられない、なんでわたしがこんな目にあわなきゃいけないの!? 怖い、怖い、死にたくないよ……本当に、怖い)


 頭の中を駆け巡る最悪の想像、交錯する絶望的な光景。

 死を身近に感じるほどに、身体は言うことを聞かずにガタガタと震え、心臓は破裂しそうなほどに脈を打つ。


(わたしの身体、静かにしてよ! 見つかっちゃう!)


 混乱と恐怖に支配される中、ふと先程の幻聴がリリの頭をよぎった。


(で、でも、ラーナがここに向かっているとしたら……ここに辿り着くよりも、早く出ないと……でも見つかったら……)


 リリの意志とは別に、口から言葉が零れ落ちる。


「確実に死ぬ」


 言葉にすると、より生生しい死が迫ってくる。

 丸呑みで胃液に溶かされてしまうのか、それとも嘴や鉤爪で八つ裂きにされてしまうのか、死の実感とも言える光景が更にぐるぐると目まぐるしくリリの脳内を支配した。

 戦える力のないリリには、どうにかするなんて、どうにも無理だと感じた。


(無理よ、絶対に無理! もし戦えたとしても、あんな大きなものに立ち向かえる程の勇気なんてわたしにはない!)


 何せ相手は人から見ても怪鳥の様な大きな鳥、リリの唯一の長所とも言えるのは、空が飛べることだけだ、それでさえ今回は意味のない事なのだ。


(……助けて……ラーナ)


 ガタガタと震えながらも、リリは少しでも恐怖から逃れるために楽しい思い出を、転生してからの日々を思い返す。


 訳も分からず一面の砂漠に降り立ったあの時を


(ワクワクしたわ、妖精になれるんだって、あの時のラーナは死にかけていたのに、悲壮感もなく受け入れていたわよね、死を実感してラーナは本当に、精神的にも強い子だったって分かるわ)


そして革鎧を食べながらラーナの過去を聞いた夜を


(あの子の過去は壮絶だったわ、前世のわたしには縁のない、いやっわたしが知らなかっただけか……とても苛烈な過去だった、あの時に決めたのよね、ラーナと旅をしていくんだって)


 初めて入った街でのドタバタを


(カルラ・オアシスは賑やかで異世界って感じがしてすごく楽しかったぁ、イヴァもソフィアもアンも、ついでにクラウディア達も含めてあげるわ、面白い人たちにたくさん会えたし、イケメンはいなかったけど異世界を満喫できたわ)


 そしてデザートフィッシュやジャイアントスコーピオン、サンドワームを一緒に食べた日々を


(モンスターも美味しかったわね、これからもずっとこうやって美味しいものを食べて、きれいな景色を見て旅をする、そう思っていたわ、戦いのラーナは凄まじかったわね、特にデザートフィッシュの時のラーナは……)


 一番凄惨で暴力的な戦い、ラーナの死をも恐れない戦い方を思い返したリリは、ふとあることに気づいた。


「……ダメ……このままじゃ……」


(確実にラーナは迎えに来る、わたしと違って一人で逃げるなんてことは絶対にしない、短い付き合いだけど、ラーナがそんな優しくて勇敢な子なのは、わたしが一番知っているもの)


「でも、そんなことになったら……」


 リリはさっきの鳥とラーナが戦う姿を思い描く。

 そして、絶望する。


(勝てるわけがない、いくらラーナが強いって言ってもあんな大きな鳥、あんな化け物に勝てるわけがない! それにラーナは絶対に最後まで戦うに決まってる、笑いながら……最後まで……)


「万が一、ラーナが勝てたとしても、無傷で終えるなんて無理……」


 知らず知らずの内に、リリの目からは涙がボロボロとこぼれていた。

 恐怖で泣いていたのか、それとも別の感情からなのか、グチャグチャになった心では分からないが、リリは真っ赤に泣き腫らした目を擦り、顔を上げた。


「逃げなきゃ、わたしが逃げなきゃラーナが死んじゃう!」


 もう、ガタガタと震えていたリリの身体はしっかりと動く。


(逃げるのよリリ、なんとしても、怯えている場合じゃない! いい加減に冷静になるんだ、思い出せ! さっきなんて聞こえた? また狩りに出るって言っていたわよね?)


「なら、一番危険な親鳥が外に出た時がチャンスだわ、雛だけならマシに思える……」


 リリは冷静になった頭で、少しでも生き残る可能性を考える。

 逃げる算段を何度も何度も脳内でシュミレーションし、息を殺し、恐怖を抑え、タイミングを図り続けた。


バサバサッ、バサッ、バサッバサァ、バサァ


 物凄い風が吹き、また馬車がガタガタと大きく揺れる。


「いっ、行ったわね?」


 リリは親鳥が飛び立つのを確認して、なおも暫くは動かずに待つ。

 そして引き返してこないことを確信してから、ゆっくりと音を立てないように準備を始めた。


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