7話、ジャイアントスコーピオン(2)
「ヤッホー、リリよ! 今回の一口メモ!」
「今回の名言は中国の料理人、陳健一」
”全員が美味しいという料理はこの世に存在しない”
「そりゃそうよ!」
「好みに趣向に前食べたものとか体調とかいろいろあるものね!」
「それでもそんな料理が作りたいって思って作るのよねー」
「自分の好きな味が美味しい料理よ!」
「ここから本編でーす!」
「そんなことを言ってもさぁ、カルラ・オアシスはまだまだ先なんだよ?」
「もう直ぐ着く、って言ってたじゃん!」
リリはペチペチとほっぺたを叩き抗議するが、ラーナはサラッと答える。
「直ぐは直ぐだけど、一日以上は歩くよ?」
「一日以上!?」
(全然、すぐじゃなーい!!)
「ボクはともかく、リリは耐えられる?」
「……行けなくはない、けど……イヤッ! ぜーったいにイヤッ!」
「でしょーー」
ラーナはケタケタと笑い、からかうように言った。
(本当に明るい子、あんな過去があったとは思えないわ)
「しょうがないわねぇ、ちなみになにを狩るの?」
「聞きたいー?」
ニヤニヤとリリに聞くラーナ。
「もったいぶっていないで、教えて!」
「それはねぇー」
ラーナは両手で指をチョキチョキとしながら答えた。
「ジャイアントスコーピオン!!」
ラーナの答えに、リリは顔の前で勢いよく手を振り否定した。
「いやいやいやいや」
(ジャイアントよジャイアント、いくらラーナがハイ・オークとは言え、ラーナは一般的なハイ・オークの半分ぐらいのサイズらしいし、わたしに至ってはピクシーよ?)
「そんなに変かな?」
「わたしサソリには少しだけトラウマが……」
「あーそっか、リリったら小さなサソリにすらビビってたもんね」
ケラケラと可愛らしく笑うラーナの横で、リリは恐怖が頭をよぎり、ブルブルッと身震いした。
「ほかの選択肢はないの?」
「ほかかー、可能性がありそうなのは……」
ラーナは首を傾げて、幾つかモンスターを上げる。
「ジャイアントコブラに、ビックポイズンマタンゴ!」
「ジャイアントとか、ビックとか、デカいのばっかじゃない!」
「えー、ならサボテンダーとサウエムドリアードかなぁ?」
「何それ?」
「植物系のモンスター、っあ! 運が良ければ、ロックバイソンとかも見つかるかもよ?」
「それは美味しそう!」
(バイソンって牛よね? お肉食べたーい)
「ボクもほとんどは見たことないし、なにに会うのかは分かんないけどねー」
「じゃあ運次第って事ね! わたしの出番!!」
「サウエム荒野は広いから、選り好みは出来ないしね!」
「それもそうね!」
「食べ物どころか水すら珍しいぐらいだからね」
「やっぱりここは、生き抜くのが大変な場所なのね」
(まぁ見るからにそんな感じがするけど、砂漠だし……)
「死の荒原って言うぐらいだしね」
「っえ! そうなの?」
「まぁ、とりあえずこの砂漠の先に岩石地帯があるから、そこに行こ!」
「なんか理由があるの?」
「あそこなら半日もかからないし、水も溜まってるかもしれないしね」
「へぇ、なんだかラーナ詳しいわね」
ラーナの言い回しにリリは少し疑問を覚えた。
なので直接的な言い回しをせずに疑問を投げかける、しかしリリの心配をよそに、ラーナはすんなりと明るく答えた。
「ちょっとの間だけ、寝泊まりしてたの」
「野宿!?」
「ボクは街には入れないからねっ、モンスターは出やすいけど、代わりにドラコニアンも他の種族も簡単には近づかないからさ」
「ドラコニアンって蛮族よね?」
「そう、竜の民を自称してる先住民」
「いないから安心ってこと?」
「ボクからしたら、見つからない方がいいって意味では、他の人族も大して変わらないけどねっ!」
「それは……」
「まぁ好戦的で数も少ないから、ボクにはドラコニアンは楽な相手だよ」
ラーナは頭の後ろで両手を組んだまま、あっけらかんと答えた。
「ラーナには人族より、モンスターや蛮族の方が楽なのね」
(戦闘的にだけじゃなく、精神的にも……)
元とはいえ、人間だったリリからすると、少しだけ複雑な気持ちが湧き上がる。
「今はわたしがいるから安心してね」
リリはそう言ってほっぺたに抱きついた。
(あまりにも悲しすぎるわ……いい子なのに)
リリの態度に少しビックリしたラーナだったが、照れながらもリリの抱きつく逆側の頬を指で掻くと、ヘヘッと笑う。
「わたしが、食べ物を取ってこれなくてごめんね」
リリの口から思わず出た、本音。
ラーナには優しい人に囲まれて、ゆっくりと休む時間があると良いのではないかと感じていたが、この過酷な砂漠はそれを許してはくれない。
リリの独り言のような呟きに気づいたラーナは「気にしてないよ?」とキョトンとした表情で答えた。
(どんなに辛くても、泣きたくなるほど悲しくても、狩りをしないといけないのよね、生き抜くためにはご飯を食べなきゃいけないんだから)
「わたし、水だけでも頑張って出すわ!」
「うん、ありがと!」
少しでも美味しいものを食べさせてあげたいとリリは心の中で決意した。
柔らかいラーナのほっぺから名残惜しくも離れると、自分に言い聞かせるように大きく明るく掛け声を上げる。
「さぁ荒野へ向かおう、今日の晩御飯のためにー!」
「おいしい晩御飯のためにー!」
先導するかのように、手を上げ勢いよく飛び出したリリ。
後ろから駆け足で追いかけるラーナの足取りは、とても軽そうに見えた。
「ヤッホー、ラーナだよー!」
「ヤッホー、リリよ!」
「ラーナのほっぺたムニムニしてて気持ちいいわ!」
「リリ、喋りずらい」
「んーもうちょっとー」
「もー」
「ほっぺた膨らませると感触が変わって、これもいい!!」
「いい加減にしてよー」
「やー。もうちょっとー!」
「「次回『ジャイアントスコーピオン』その3」」
「異世界って理不尽だわー」
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前後する可能性があるのでご了承ください。




