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転生龍も楽じゃない!  作者: PeaXe
第四章 勇者と私と先生と
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61 ラベンダーの花冠を君に

 珍しくナインちゃんははっちゃけない話。


 黒の月から、黒い魔物が溢れ出る。


 氾濫期と呼ばれるそれに、恐怖を抱く者は多い。

 黒い月から溢れ出る魔物達は、姿形は様々に、色が黒で統一されている。そして一様に凶暴であり、凶悪な強さを誇るのだ。

 黒の月に近い月であればあるほど、人々は恐怖を抱く。


 しかし、黒の月から遠く離れた月。他から見れば純白に輝くその星で生まれる勇者は、氾濫期を沈静化させる力を持つ。

 その力をもって、人々の平穏を守るのが勇者の務めなのである――







「―― 以上が、私の知っている伝記ですわ」

「「ほぇ~……」」


 ふんわりとしたラルメアの声に、2つの返事が届く。ふんわりソファの上で四肢を弛緩させ、だらしなく五体を投げだす少女、ナイン。そして、ルルであった。


「ふふっ、ひどくお疲れですね、ナイン様」

「あー、うん……。今日はちょっと、久々に張り切りすぎちゃって」


 つい数時間前のコンサートを思い浮かべ、ナインはにんまりとした笑みを浮かべる。

 なし崩し的に次の公演の予定まで組まれてしまったが、歌える場所と歌を聴いてくれる観客があれば嬉しさに顔がほころぶ。

 ナインはうにうにと緩んだ表情のまま、柔らかなシーツに顔を埋めた。


「拝見しましたわ。初めてお会いしたとは思えぬ、熟成されたぶどう酒のように素晴らしいハーモニーでしたもの。あれだけの音楽で魅せられるとは……感服いたします」

「要するに、ナインの歌が凄かったのよ! 私もちゃんと聞いたわ。正直歌姫って二つ名は信じていなかったけれど、見直したわ!」

「えっへっへー」


 時はナインとエーヴェがはっちゃけた、その日の夜。

 城の一角に宿泊する事となったナインは、ここ10年ですっかり交流の多くなったラルメアとルルと同じ部屋にしてもらい、数日の寝食を共にする事にしていた。


「それにしても、2人って似ていないよね」


 ふと思った事をそのまま口に出すナインは、ラルメアとルルを交互に見る。


「血は繋がってるんでしょ?」

「はい。ルルは、私の実の妹です」

「ふふん♪ ラルメアちゃんは私と同じ顔なのよ! かわいいに決まっているじゃない!」

「そっかぁ」


 見た目からしておっとり系のラルメアと、ややつり目のルルでは、同じ顔立ちとは言えない。しかしそれをドストレートに伝えれば、泣かれる事必至だ。

 ナインは喉まで出かかった台詞を、ぐっと飲み込む。


「それで? 明日は何をするの?」

「観光!」

「へー、観光ねー。え、1番近い月の首都なのに、一度も観光に来た事無かったわけ?!」

「うん! だからこそ、明日は存分に楽しませてもらうのです!」

「ふぅん。がんばりなさいよ。応援したげる~」

「……ルルは?」


 それまではしゃいでいた空気を一変させ、ナインは横で寝ているルルの様子を窺う。

 それはルルの身の上話をすれば、大多数の者が浮かべてきた表情だ。

 しかしナインの場合、その他大瀬が浮かべてきた『同情』とは違う感情も混じっている事をルルは知っている。


 ルルは妖艶な笑みを浮かべた。


「知ってんでしょ。この足、動かないのよ。人通りが比較的少ない平日ならともかく、お祭り中じゃあの雲は邪魔になるじゃない」

「馬車を使えばご迷惑になりますから。注目も浴びますし、通行の妨げにもなりますし、何より以前ナイン様が教えてくださったお祭りの醍醐味がほとんど味わえないではありませんか」


 お祭りの醍醐味……。

 自分の手でお金を渡し、自分の手でお祭り特有の遊戯を堪能する。それはナインが、月の外どころか屋外にすらほとんど出た事の無いルルに教えた事だ。


 ルルの生まれた桃の月には、闇属性を持つ物質や魔力に触れるとたちどころに枯れてしまう植物がある。月のほとんどに生える植物がそれである。その影響か、桃の月に住むエルフ達は、闇の属性を持たない。

 それゆえに、極々稀に生まれる闇属性の子は、周囲に植物の無い辺境の地にある屋敷に閉じ込められる。


 ルルもその1人。

 そして彼女は―― ラルメアの、妹である。


 ラルメアが王族である事からわかるように、ルルは王族の生まれだ。

 王族から闇属性の子が生まれた事は、国家機密とされた。

 そのため、大々的にルルの世話係を集められず、たとえ彼女の足が不自由でも人員を増やす事が叶わなかった。


 しかし。


 元来エルフは、身内には途轍もなく甘い。砂糖を蜂蜜とメープルシロップとチョコレートで煮込んで固めたくらいに。


 だからこそ。

 これまで公に甘やかす事ができなかった分、ラルメアのルルに対する甘やかしっぷりは尋常ではない。

 ラルメア自身は桃の月の代表であり、王族の一員である。そのため普段は忙しいのだが、それでも毎日、決まった時間に別の月へ引っ越したルルの元へ遊びに行くのだ。


 そして纏まった休みを取ると、別の月の観光地へ訪れるようになった。

 特に、ナインの住む白銀の月へ。

 そうして、今まで触れられなかった分、それはもう楽しそうに過ごすのである。


「うん、見ているこっちが微笑ましい」

「え、何の話?」


 残念そうに笑う彼女達に、脈絡のない言葉を告げる。

 当然、ルルもラルメアもこてん、と首を傾げた。


「何でもない。こっちの話だよ、ルル。でもそっか。変身魔法で肩にのっけて一緒に回るのもいいと思ったんだけど……」

「「!!!」」

「あ、私外の空気吸ってくるね~」


 片目を瞑り、悪戯っぽく笑って小さく手を振ると、ネグリジェを翻しながら扉を開けて部屋を出る。

 そして、パタン、と扉が閉められた。


「んふふ~。ロキ、ラルメアさんとルル、とっても仲良くなったよね~」

『はい。良かったですね』

「うん! えへへ~、ふんふふ~ん♪」


 この上なくご機嫌なナインは、廊下に出た途端に広がるラベンダーの香りに頬をほころばせる。

 多くの月の光に照らされ、廊下は明るい。窓は無いが、中庭に直接通じるアーチ状の柱が連なっている。風通しが良く、程好く冷たい風がナインの頬を撫でた。


 今頃ラルメアは、ルルと共に明日お祭りへ繰り出す予定でも練り上げているのだろう。

 ルルと、一緒に。


「明日は楽しみだな~。一緒に行けるかどうかは分からないけど、楽しめたら良いよね、うん! ロキも、明日からはみんなに見られていいよ。妖精は目立つし、関係者だけね」

『はい』


 今現在、ロキはナイン以外には見えない設定にしてある。

 ロキは月明かりに照らされて、いつも以上にキラキラと輝いていた。


「でもまさか、先生達が妖精になったなんてね~」

『妖精は、魔力溜まりに一定量以上の精霊が一点に集まることで発生します。あのように双子として生まれる可能性は、本来ありません』

「所謂転生特典かぁ。何にせよ、また会えて良かったなぁ~」


 ナインは中庭に沿って、ゆっくり歩き始める。


『散歩ですか?』

「うん♪ ロキも一緒に行く?」

『ご一緒します』


 ふわふわと浮かぶロキは、無表情のままナインのすぐ横について飛び始める。

 ナインはにこにこ微笑みながら、そっと歩き出す。


 無表情でも、彼から零れ落ちる光が、柔らかく、優しくなった気がしたから。







 廊下を進み、中庭に咲く色とりどりの花を眺めた。

 この世界の花は、ナインが元々住んでいた世界によく似た物がある。ラベンダー然り、向日葵然り。

 そして元の世界とは違う時期が開花時期となっている植物も多い。

 ラベンダーは冬でも咲くし、向日葵は夏と冬が開花時期だ。

 温度関係なく、その時期に咲くのだから不思議である。


「うん、良い香り」


 咲いているラベンダーに手を伸ばす。

 と同時に、まだまだ続く廊下の先に視線を向けた。


『……ナイン』

「ん?」

『見られています』

「あー、うん。敵意は無いから、何もしないでね」

『はい』


 ラベンダーを何本か拝借する。

 景観に師匠が出ないほどに摘み、それらを編みこんでいく。リング状に編み上げ、最初に編みこんだ1本と繋げれば……。


 ラベンダーの花冠が、完成した。


「……懐かしいなぁ」


 ふふっ、と笑う。

 笑いながら、廊下を更に進んでいく。


「そう思わない?」


 その問いかけは、ロキに向けられたものではない。

 微笑んだナインの、黄金色の瞳に映るのは――





「ね、コノエ」





 ふわり、優しい香りが広がる。

 それを手渡された少年は、潤んだ瞳にナインを映す。


 ナインの、笑顔を。



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