41 世界会議・探検
めりーくりすまーす!
ちょっとお真面目方向に傾きつつあります。
「ひゃわぁあ~!」
濃い紅、薄い桃、空の色や紫。
甘い香りを漂わせる、色鮮やかな花達がそこにいた。
世界会議用に用意された塔は、月の数だけ建っている。屋根が色分けされており、銀の月代表であるナイン達は、青に銀細工の施された塔から出てきた。
塔はあらかじめ何棟か用意されており、月が出てくる度に屋根を後から作っている。
そのため、外装も内装もほんの少し古びているが、ナイン達の塔……通称宮は、新品同然と言っていいほど整っていた。
大急ぎで造り、内装にあまりこだわらなかった、アステラーザの城とは違う。
年季を感じさせる場所だ。
そんな宮同士は、四棟が一区画に設置されている。
正方形に作られた壁の隅に宮があり、その対角線上となる中心には自然溢れる庭園が。庭園を十字に分けるような道は、それぞれが別の区画へと通じている。
リリィ達紅の月に用意された宮は、銀の月の宮から3つも離れた区画にあった。
ちなみに、世界会議の本会場となるのは、全ての区画の中心地。
どの宮よりも大きな、宮殿となっている。
さて。
ここは銀の月代表に用意された宮のある区画の、庭園。
銀と、黄緑の屋根だけが、その区画にあった。
「これ綺麗! 白い! 綺麗!」
「語彙力が乏しくなっているのです」
「異論無い」
「クロウもユウトも酷いよ! でも、綺麗でしょ?」
綺麗な白い花弁の花を、幾つか摘んだナイン。勝手に花を摘んでもよいのかは、予めシリルに確認済みである。えらい。
というわけで、ブーケのように何本もの白い花を抱えたナインが、振り返る。
柔らかな笑みに、柔らかな日差しが当たり、ふわりと髪が舞う。
花に負けないほど白い少女は、とても美しい。
「……」
「どちらかと言うと、かわいらしい、だってさ」
「……シリル?」
「わ、わ、ごめん。でも、そう言いたいって顔に書いてあるけど?」
ナインに気付かれないよう、シリルにのみ殺気を放つユウトの目は、ギラリと光っていた。
それにたじろぎつつ、からかうような口調をやめないシリルは大概である。
宮の中を粗方案内し終えたが故に、彼等は外へと出てきていた。
世界会議の前段階として、茶会などが開かれる可能性がある。会場となる宮殿までの道を教えるために、シリル達はひとまず庭園で休憩を挟もうという事になったのだった。
見た目は3階建ての建物でも、魔法による建築で、中身は途轍もなく広い。おかげで窓の位置が面白い事になっている。
塔は円柱なのだが、中はそうじゃない。宮の地図を描くと、きっちり長方形になるのだ。
とある芸術に精通しているクロウとしては、とても興味をそそられる場所だった。
三者三様、十人十色の反応を各々がしていると、1人、静かに近寄ってくる。
ユウトはシリルからそちらへと、すぐさま視線を移した。
……少女は、開いた扇子で口元を隠しながら、話し始めた。
「あらあら。今回の世界会議には、随分と遠くからお越しの方がいるようですね。わたくし、そのように、楽しそうにするのは難しいのです。羨ましいですわね。わたくしには出来ませんから」
見た所、ヒュミアのような少女である。
桃色の髪に赤いメッシュが入ったふわふわの髪は、腰辺りまで伸びている。黄緑のスカート部分に、赤い上着を合わせたドレスが、彼女が何者なのかを表していた。
この区画にいる、もう1つの月。
黄緑の月、その代表である。
金細工で作られた5枚花弁の髪飾りや、ドレスにあしらわれた刺繍から見て、貴族位条の身分である事は明白。代表者達の中でも、リーダー格である事を表していた。
髪と同じく桃色の瞳は、猫のように吊り上がっている。
その目が、庭園で遊んでいたナインを見下ろしていた。
「この花はとてもよい香りですよ。よろしければ、花を幾つかお摘みいたしましょうか。きっと場が華やかになりますわ」
「とてもありがたいのですけれど、今回は遠慮させていただきますわね。何せ、先程とてもよい香りの紅茶をいただいたばかりですの。まだ余韻に浸っていたいのです」
「紅茶ですか。今回はお茶菓子を用意しております。茶会の際には、是非ご賞味くださいませ」
「……楽しみにしていますわ」
ナインも、少女も、ニコニコと笑顔を絶やさない。
だが、その間には、確かに火花が散っていた。
「熾烈な戦いだな……不毛とも言う」
「何の事なのですー?」
「あー……要するに、口喧嘩だな」
「仲良さそうなのです?」
クロウがこてん、と首を傾げるが、ユウトは「あー……」と目を逸らすばかり。
クロウも、ナインに負けず劣らず天才だ。芸術面における、絵画に関する事ならば。
だがナインに比べて万能性に劣り、その分性格も子供っぽい。はしゃぐナインと比べれば雲泥の差となってしまうが、純粋さで言えばクロウはナインに勝る。
淑女の罵りあいを聞かせたくない……!
それが、ユウトの嘘偽り無い心の声だった。
ちなみに、ナイン達の会話をわかりやすぅ~く訳すと、こうだ。
「あらあら。今回の世界会議には、田舎者が来ているのね。そんな泥まみれになって、醜いわ」
「この花は貴方よりよっぽど綺麗よ。良ければ摘んであげましょうか? きっと貴方の香水より、いい香りになると思うのだけれど」
「別にいいわ。貴方にはこの香水の価値が分からないようだから」
「あっそう。それはそうと、お菓子を持ってきたから後で食べない?」
「……楽しみにしていますわ」
と、こんな感じである。
どうやらお菓子好きらしいのか、強気な印象の少女は、声が僅かに上ずった。
「頼んだわ、ユウト」
「は」
お菓子の話題が出たのだ。当然、それを作るユウトに話が振られる事は予測済みだ。ユウトは姿勢を正してから、恭しく一礼する。
少女はなおも口元を扇子で隠しながら、ナインに背を向けて去っていった。
「じゃ、会場に行ってみますか」
「もうか?」
「まぁ、せっかくのドレスが汚れるのは、私も嫌だし。気を付けていても、白って汚れが目立つから。魔法でずぐ落とせるだろうけど、ね」
何気にあの少女の言葉が刺さっているようだった。
ナインは微笑みながらも、苦虫を噛み潰したような表情で目を細める。
シリルの警告より、自分の好奇心を優先させたためである。
ここはもう、ナインが子供っぽく振舞ってはならない場所なのだ。それを失念して花畑に飛び込んでしまったのだから、怒られても仕方が無い。
あの少女は、ナインに程好く喝を入れてくれた。
感謝をしなければならないだろう。
「……」
「ナイン、顔が怖い。クロウが怖がっているじゃないか」
「あら、いけない」
何とも形容しがたいナインの表情にクロウが怯えていると、ユウトがナインを注意する。
途端、彼女の表情はいつにも増して天使のようなかわらしい笑顔になった。
外向きのナイン、完全形態である。
「行きましょう。あ、このお花は後で香水にしましょうか。本当にいい香りだわ」
「承知いたしました」
ユウトはそれをサッと受け取り、傍でふよふよ浮いていたティーチへと手渡した。
そうすれば、異空間へ瞬時に収納される。
それも、ロキを通して、ナインの持つ例の鞄の中へ、だ。
王のような人の上に立つ人間は、あらゆる事を部下に押し付けなければならない。それが権力を示すやり方として、手っ取り早いからだ。
本来獣人は、頭の弱い種族として認知されている。
それを崩すような、知的で美しい容姿と所作のユウトを使う。これだけで、ナインが有能に見え、ユウトよりも上の能力を持っているのだと知らしめる事が出来るのである。
実際、ユウトはナインのファン……のようなものなので、上限関係がハッキリしていると見せるのに不都合は無い。
ごく一部は、それで許しそうに無いのだが。
「シリルさん。ちょっといいのです?」
「何でしょうか、クロウ殿」
「ユウトお兄ちゃんは、ナインお姉ちゃんの彼氏さんじゃないのですー……?」
「えっ、あー……」
まぁ、その辺りはどうとでもなりそうなので、一旦横に置いておきましょう。
いざ、世界会議用施設、敷地内中央の宮殿へ―― !




