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転生龍も楽じゃない!  作者: PeaXe
第三章 ダンジョンコア
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40 世界会議・会場入り

 ナインちゃんがおめかししている話。 


 足が痺れている気がしないでもない今日この頃。


 城の中に用意された転移魔法陣に、必要な物資を運び込み、それを会議参加者ごと転送する。

 出発、とはいうものの、到着まで一秒もかからない旅程だった。


「馬車がいらないのは幸いですね」

「馬車は作れても、馬がいないからな」


 ホッとしているシュン、ユウトの呟きを聞く者はいない。


 荷運びを主な仕事とするスタッフ達が忙しなく動き、それ以外でも荷に不備が無いかの確認作業にてんやわんや。

 ナインはイスに大人しく座り、荷運びが終了するのを待っていた。


 向こうに着いてからは荷解き作業があるため、同じように待つこととなっている。

 それを考えると憂鬱だが、仕方無い。


 本来、荷造り過程は手伝う手はずだったののだ。だが、珍しくもありがたくないユウトの怒りを買ってしまったため、罰と称して動くの禁止にされたのだ。


 ちなみに、ナインと同じくつい昨日暴れたリリィ達は、ナインと同じく、というかナインの隣で同じようにイスに座って大人しくしていた。

 リリィは私服だという、紅メインのボーイッシュな服を。


 ジャックも紅を基調としたセーラー服を着ており、1人だけ硬いイスの上で正座していた。

 ちなみに、正座を解くと、後ろにいるシリルにハリセンで叩かれます。


 結構、かなり、痛いです。


 むしろ既に、3段重ねのアイスクリームのようなものが出来ています。


「ねぇ、僕だけ酷くない? 足痺れたし、頭痛いし」

「ジャック。私も人の事言えない立場だけど、言わせて。―― 自業自得」

「うわーん!」


 ナインが真顔で告げれば、ジャックは滝のような涙を流し、大声で叫んだ。


「はいはい王様、お静かにー」


 軽くぺしっ、と叩かれれば、ジャックは嘘泣きだったのかと思うほどアッサリと涙を引っ込めた。

 その様子に、リリィ、ユウト、シリルは溜め息をつかざるを得ない。


 一応リリィに次いで高齢である事を弁えてほしかった。

 何故ジャックが未だオシオキ続行中かと聞かれれば、4人の中で唯一反省しなかったからである。


 リリィはすぐに謝り、事態の大きくした侘びをすぐに持ってきた。ちなみにトマトが大量に運ばれ、無償で譲られてしまった。

 シリルは4人の中ではかなり早い段階から反省しており、やはりジャックを売って、罰を軽くした。

 ナインはストレスが爆発した間の事をよく覚えていなかったが、周囲の魔力を感じ取り、自身がしでかした事を理解して、誠心誠意謝罪した。今イスで大人しくしているのも、誠意を見せ、心から反省している事を示したいからである。


 さて、この中で唯一、ジャックだけが未だ事態を軽く見ていた。

 クロウが結界を張り、何も無い上空にのみ被害が及ぶように工作しなければどうなっていたか。


 彼が放った【ダイアモンドダスト】は、要するに冷たい水を霧状に放つ魔法である。これにマグマですら生み出す獄炎や、太陽光の熱を凝縮した魔法が当たったら。

 いわゆる、水蒸気爆発が起こる。いや、実際に起こった。

 そこに電気の火花による閃光が混ざり、大規模すぎる爆発が起こったのである。


 熱を一切通さない真空による結界を張った、クロウの判断は正しかったと言えよう。


「僕も座った方が良いのですー……?」

「クロウは良い。むしろ、昨日は大活躍だったからな。ジャック分のプリンをあげよう」

「そ、そんな」

「えっ、酷いよ、ユウト! あたっ!」

「だからお殿様ぁ、お静かにぃー」

「せめて呼び方統一してよ! あと痛い!」


 漫才にも見える行為を繰り返すジャックを見て、ユウトの隣にいたクロウはポカン、と口を開けた。


「遠慮なく受け取りなさい」

「……はいなのです」


 クロウはおもむろに、しかし躊躇う事は無く頷いた。


 それと同時に、其処彼処から荷運びが終わったという報告が上がる。やがて会議参加メンバーだけが魔法陣の上に残り、それ以外は壁にピッタリとくっ付き始めた。

 魔法陣は直径で10メートルもあるものだが、部屋自体は直径だけでもその2倍はある。


 別段壁に寄る必要は無いのだが、雰囲気って大事だよね、の精神が働いた。


 ……雰囲気もしくはノリって、大事だよね。


「さて、行きましょうか。ナイン様、クロウ様、リリィ様、シリル殿。参りましょう」

「ちょっと待って!? 僕の事忘れないで?! って、足痛い!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるジャックをよそに、床に描かれた魔法陣に魔力を流し始める。

 魔法陣は浅い溝で彫られている。そこに魔力を流せば、水路を流れる水の如く行き渡った。


 おめかししたナインと、その弟クロウ。更に同種族であるヤクモが、ついでのようにおめかしされた。

 ナインを霞ませない程度に着飾ったユウト、シュン、リミ。その他にも3人ほどが同じようなデザインの制服を身に纏っている。彼等は世話役として付いて来る。


 簡易的な鎧を身に纏ったルミ、ロダン。その他シュンの部下でも精鋭が集まっての護衛役が、世話役とほぼ同数が選ばれ、静かに並んでいた。


 防衛的にアステラーザの全勢力を注ぐわけには行かなくとも、ナインだけで過剰戦力である。更に言えば世話役にしろ護衛役にしろ、核爆弾並みの脅威を持つ種族だ。先日の放火騒ぎが起きる方がおかしいほどの力が、そこに集結していた。


 獣人、龍人、そして龍。

 この世で最も古く、強いとされるリリィも、集った者達の強さを肌で感じる。


 一所につわものが集まれば、気や魔力の濃度が跳ね上がるのだ。

 間違い無く、そこにいる全員が「強者」である。


 総毛立つ腕が冷たく感じられ、さすると、ナインがその様子に気付いた。


「寒い? ホットミルクでも用意しようか」

「心配には及ばぬ。ずっと座っていたからな、一時の不調だろう。それに会場は暖かいのでな」

「んー、そっか。分かったよ」


 リリィは目を細めた。

 誰も彼もが強者である。それは、雰囲気で分かる。


 しかしその中であっても、ナインは何かが違っていた。


 何が違うのか、それはリリィでもよく分かっていない。転生者という事ならば弟であるクロウや、友人だというユウト、シュンだって当てはまる。

 なのに、ナインだけが、他から浮いて見えるのだ。


 歌わずとも漏れ出る、王の風格にも似たオーラ。


 この月と同じ、もしくはそれ以上に美しい、銀色のオーラだ。

 長く生きる内に手に入れたスキル:オーラ可視化。リリィが人の心を見透かすために使う、暇に飽かして手に入れたスキルだ。


 リリィの感性に任せて色は移り変わり、人はいつだって、色通りの性格をしていた。


 長く生きれば、それだけ人と出会う。

 その中でも、ナインは見た事も無いほどに輝いていた。


 新たに現れた王がどのような人物か知りたくて、ナインの元を訪れた。


 誰かから人伝に人柄を聞くよりも、自分で見た方が早く、確実だ。

 そして、見て。


 ―― 見惚れてしまった。


「……リリィ?」

「む? ああいや、ずっと座っていても、足は痺れるのだな。正座以外では初めてだ」

「ふふ、そうだね。あっ、時々ちょっと動くだけでも、回避出来るらしいよ」

「ほぉ、そうなのか。今後の参考にしよう」

「そろそろ準備が整います、心の準備だけ、お願いいたします!」


 シュンの声が響き、魔法陣が青白く輝きを放つ。

 魔法陣の魔法は、魔力を流すだけで発動する。呪文を唱える手間が省けるのに加え、呪文や人間の頭脳では構築できない複雑な魔法でさえ使う事が出来る。


 デメリットとしては、戦闘において、構築している暇が無いという事。

 日常で使う事など、ほとんど無いだろう。


 だからこそ、ナインは魔法陣の光に魅入っていた。

 キラキラと輝くそれは、かつてアニメや漫画で見た、いかにも魔法らしい魔法。龍が人の姿をしているために勘違いしそうになるが、ここは魔法のあるファンタジーな世界なのだ。


 その事実に、ナインは目を輝かせた。


「というか、魔力って液体みたいだよね」

「水が空気や氷になるようなものです。固めれば魔力の結晶になりますし、通常は空気に溶け込んでいますよ。一定の濃度になると、液体化するのです」

「温度で変化しないんだ……凄いね!」


 科学の世界で最も小さいとされていたのは、原子を更生する電子だった。

 一方、ルナ・ノアで最も小さな物質は『精霊』である。


 意思も無くふわふわとそこら中を漂っていて、魔法を使う時、一時的に物質化したり、魔力に変化したりするのである。

 もっとも、それが一体どういった存在なのか、という哲学的な質問には答えられないが。


 精霊は小さいが、原子というものを理解した者にとっては、手の平サイズほどに『大きい』のである。


 それが最も小さな存在だという事も、理解しがたいくらいだ。

 それが大量に宙を漂っているというのだから、それこそ理解しがたい。


 空気と一緒に吸っているかもしれないと思うと、身体の芯がぞわりと寒気を覚える程度には。


「―― 発動します!」


 シュンの大声と共に、魔法陣がひときわ眩しく輝いた。

 あまりの眩しさに、ナイン達は目を瞑る。


 光は一瞬で、瞼の裏に光が通っていたのはごくごく僅かな時間だった。

 そろそろと目を開けると、そこは先程までいた部屋とは、全く異なる場所だった。


「……ここが、会場?」

「うむ」


 横でリリィが頷き、ジャックもそろえて頷いた。

 豪奢なシャンデリアは、高い天井に設置されている。オレンジ色を帯びた光が降り注ぎ、花のような甘い香りが周囲に満ちている。


「ほう、今回は桃の月が会場だったか。では、茶会が初めかもしれないな。……ここの植物園は見ものだ、それなりに楽しめるぞ、ナイン」

「桃……ピンク色の月かぁ」

「ここから離れているからな。小さく見えていたが、目には入らなかったか?」

「うーん、そうだね。あまり印象には残っていないみたい」


 ひどく残念そうに肩を落とすナインだが、床に蹲るような事はしない。

 ドレスが少しでも汚れないよう、配慮しているのである。


 ドレスは銀を基調にしているが、金属的な銀ではなく、雪景色を思わせる白銀である。ナインが見た、青白い光を帯びる真っ白な木。それが強くイメージに残っていたので。そんな綺麗な生地は限り無く白いのである。とどのつまり、汚れがかなり目立つのだ。


 白銀のドレスはプリンセスラインのふんわりとしたシルエット。脹脛の半分辺りまである丈のドレスは、ナインがくるりと回ると、ふんわりした動きで付いて来る。

 時々青や金などの色が扱われたそれは、振袖並みに大きな袖が付いていた。これもまた、ナインがくるりと回って見せると、ふんわり舞ってみせる。


 かわいらしさがいっそう際立つデザインであった。

 首もとの控えめなリボンとフリルが、子供らしさをやや強めに主張している。


 ボタンではなく紐で留める服だ。元の案はチャイナ服のような、これもまたかわいらしい物だった。刺繍を入れてもシンプルすぎると却下されたが、私服としてはありだ。

 リリィとの会談用に、持って来てある。


「我は我に用意された宮に行こう。ジャック、行くぞ」

「ほーい。あ、シリルは残ってあげてね。初めてでわからない事とか、教えてあげてね!」

「わかりました」


 薄ら笑いを浮かべつつ会釈すると、シリルはナインに向き直る。


「……勝手に決められたけど、俺が案内しても良い?」

「もちろん! 知っている人の方が、断然いいよ!」

「じゃあ遠慮なく。早速だけど、この場所は誰がいるかわからないから、この部屋を出たら外向き用の顔を作った方が良いよ」

「了解!」


 再び荷運びが始まる。

 初めは待機しようかと思っていたナインだが、どうしても好奇心が疼いて仕方がない。


 見かねたユウトが、クロウに耳打ちした。


「ナインと一緒に、探検してきてくれ」

「お姉ちゃんがそわそわしていると、落ち着いて作業できなそうなのです。僕、がんばるのです!」

「あ、じゃあ俺も一緒に行くー」


 ヤクモも加わり、わいわいと明るい騒がしさが起き始める。

 だが、どこに荷物を運べばいいのかを伝えようと思っていたシリルは困ってしまった。分身でも出せれば1人2役こなせるのだろうが……。

 あいにく、彼は分身の魔法やスキルを、持ってはいなかった。


「……最低限の案内をするから、シュンかユウトも来てよ」


 妥協案としてそう提案すると、ユウトがてくてくと歩み寄ってきた。その動きはどこかぎこちなく、視線がある人物のみに集中している。


「あー、じゃー、いこーかー」

「何か投げやりだね。どったのシリル?」

「べーつにぃー」


 シリルの意味ありげな視線が、ユウトを突き刺す。

 ナインはその理由が全くわからず、2人へ交互に視線を移すが、2人はそれ以降黙ってしまって、結局、理由はわからずじまいだった。


 彼女が、ユウトの視線がナインのみに集中していると気付くには、どれだけの時間がかかるのか。



「応援してる」

「余計なお世話だ」


 視線で交わされた会話の内容は、実のところコレだけだった。


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