42 世界会議・招待
ナイン「あけおめだよー!」
ユウト「だー! チキン持ったままジャンプするなぁあ! 油が……!」
クロウ「えっと、えっと……あけましておめでとうございます、なのですー」
お正月にはお餅を食べない派の作者でした(笑)
世界会議の会場となる、会場の中心に位置する宮殿。
その中へと入り、感嘆の声を漏らす一同がいた。
「大きいですね」
「世界会議が行われる場所、だからね。他の建物、たとえば王城より大きい場所だってある」
「あら、まぁ」
心の内で興奮しまくるナインは、表にそれを出さない。
代わりに、落ち着いた声色でこの場に相応しい言葉を選んで、並べる。
「……万博や、五輪の会場のような場所なのですね。理解しました」
「あ、なるほど」
本当にこの場に相応しい言葉かどうかは、別として。
とりあえずユウトやクロウには伝わったので、よしとする。
ナインは既に感想を考えるよりも、宮殿内そのものに興味が移ってしまっていた。
「それで、肝心な事なのですが。会場とは、どこなのですか?」
「開催するモノによって違うけど、今回の場合は世界会議そのものの会場、という事でいいかな」
「ええ」
「だったらこちらですよ~っと」
シリルは非常に緩い雰囲気のまま、見るからに長い廊下をずんずん進んでいく。
完全外面モードのナインと違い、彼はいつも以上にリラックスしているように見えた。
理由は分かっている。
ナインは新参者であり、第一印象をよく見せなければならない。だがシリルは、世界会議で裏ボス枠であるリリィと同じ月から来た者なのだ。
彼の扱いは従者であるが、会場の空気に大変慣れているのは疑いようもない事実。
加えて、シリルのこの態度は、ナインへ信頼を寄せている証でもある。
ナイン達が彼を咎める事が無い理由は、そこにあった。
「ここですよ」
飄々とした態度を貫くシリルに連れられ、辿り着いた場所。
それは花の舞う空間だった。
……比喩でも何でも無い。
桃色の花が、つぼみや花弁だけで宙に浮いているのだ。
花からは白い光の粒が零れ、空中に溶けていく。
透き通った水の張られた円状の水場を中心として、真っ白な石造りの円卓が取り囲む。
白い壁には蔦が絡みつき、美しいグラデーションを生み出している。
天井は中央部分にはめ込まれた宝石から、太陽にも似た温かみのある白い光が降り注ぐ。
そして、とてつもなく広い。
円卓が無ければ、そのままダンスパーティが出来るのではないかと感じるほどに。
「広いでしょ」
「ええ。とても」
「わ、内心驚いているとは思えないほど、完璧な淑女の微笑み! 何、どこでそんなの身に付けたの」
「さあ。それより、貴方こそどうやって見破ったのです?」
うふふ、とナインは微笑む。
子供らしくない妖艶な笑みは、見た目年齢を大幅に裏切っていた。
あまりにも容姿離れした笑顔に、シリルは目を細める。
「単純に、君達より長く生きているから分かっただけだよ。嫌でも顔色窺いをしないといけない奴の下にいると、自然と身に付くスキルってだけ」
「スキルですか。そのようなスキルがあるのですか? ロキ」
『存在します。一例を挙げますと、顔色伺い、エアリーディング等。しかしシリルの持つスキルは、単純な身体技能による「アーツ」に相当します』
「アーツ……」
『世界の恩恵を受けるスキルと違い、個体に発生する技能を指す能力です』
「分かり難いのです……」
クロウがうなだれた。
それを見たナインは、視線だけを動かし、自分たち以外は見えないロキへと、妖艶な笑みを向けた。
シリルに向けたものより、より妖艶に、より幼さを感じさせない笑み。
そんな大人の色気をたっぷり含んだ笑顔で、言葉を紡ぐ。
「もう少し、分かりやすく」
クロウのために。
『――……スキルとは別の、努力の結晶です』
見る者によっては威圧感さえも覚えるそれを、感情を知らぬロキは容易く受け流す。
そうしてサラリと出された言葉は、ナイン――どちらかというとクロウだが――が求めていた答えだったようで、ナインはいつもの無邪気な笑顔を浮かべた。
内心面白くない顔をしたのは、本人とユウトのみが知る事実だ。
「スキルを得るための条件を満たしてはいなくとも、それなりの経験を得ている事でスキルのようにも見える超常現象を引き起こせる、と」
「簡単に言えば、スキルじゃなくても出来ること、だな」
「スキル未満の能力とも言うよー」
へらりと笑ってみせるシリルは、そのまま会場を後にした。そろそろ次へ行こうと言外に言っているのでる。置いていかれるとまずいので、ナイン達はその場を後にした。
もう少し会場を見ていたいと思ったナイン。だが考えてみれば、会議が開かれる間、何度も来る機会があるのだろう。
興味は失っていないが、ひとまずの欲求が満たされたのを感じた。
しばらく宮殿内を観光していたナイン一行だったが、しばらくして休憩する運びとなった。
かれこれ2時間歩き続けているのだ。ここらで1回休もうと言い出したのは誰だっただろう。種族的には体力がありまくるユウトはへっちゃらだが、最年少であるクロウは疲労が顔に出ていた。
「休憩所があって助かったのです」
「ここの水は冷たくて美味しいよ。無料だし」
「ユウト」
「ほら、コップ一杯分」
「ありがとう」
視線を送らず、名前を呼ぶだけでユウトは水を持ってきた。ちなみに、声が掛けられるよりも前から水を用意していた。
相変わらず気が利くなぁ、と呑気に考えつつ、優雅な午後のティータイムのような雰囲気を作り出すナイン。日差しの入ってこない場所のはずだが、彼女に柔らかな日の光が差している。……と、錯覚した数人が目をこすっていた。
「チチッ」
休憩開始から10分ほどが経った時、近くからかわいらしい鳴き声が聞こえてくる。
ナインは姿勢を崩さずに、視線だけで鳴き声の主を探した。
小鳥のさえずりと、鳥が羽ばたく音が、段々と近付いてくる……。
「チッ、チチッ」
見上げると、真っ白な羽の小鳥が、ナインの頭上を旋回していた。
やがて小鳥はユウトの肩に留まると、キョロキョロと忙しなく首を動かす。
時折、かわいらしくチチッ、と鳴いた。
「あ、来たね。恒例の招待状」
「恒例、ですか」
「まぁ、見ていなよ」
シリルは小鳥を肩に乗せたユウトに、鋭い視線を向ける。
途端、小鳥は大きく羽を広げた。
「チチッ……ピルル、ピィッ」
ぽむん、とかわいい音を立てて、小鳥は煙と化す。
小鳥の代わりに、ユウトの肩には巻いた羊皮紙を真っ赤なリボンでまとめた書状が乗っていた。
小鳥に見えたそれは、魔法で作られた物だったのだ!
「ユウト、読んで」
「はい」
『 本日午後3時のお茶会にご招待いたします
ドレスコード:クラシック
桃の月代表、シュリネッツ』
「あら、リリィ様の仰ったとおり、お茶会が初めに開かれるのですね」
「すぐにお茶菓子を用意いたしましょう」
「お願い」
にこり、と笑って見せるが、実際には、ナインの持つ収納鞄に既に完成品が保管されている。それを取り出す許可を得ただけだったりするのだ。
ナインは微笑を浮かべたまま、休憩所の出口へと目線をやった。
「一度戻りましょう。ドレスを変えなくてはね」
「承知いたしました」
「あ、外への近道はこっちだよー」
元来た道とは反対方向の廊下を指差しながら、シリルはニヤリと笑う。
飄々としているが、頼れる人。
どこと無く掴めない性格の彼に持たれる印象が、決定した瞬間だった。
こうして、一度銀の宮へ戻る事になった一行。
延々と続くかのような長い長い廊下に飽きたのか、ナインはユウトへと話しかけていた。
「うーん、最悪の場合、化けの皮くらい剥がれても良いけれど、一応は猫を被った方がいいよね?」
「それは宮に帰ってから聞いてくれ」
「今言ったじゃん。化けの皮は剥がれても良いって」
「最悪の場合とも言っただろ?!」
小声での会話が、静かな廊下に響く。障害物の無いこの場所ならば、かなり遠くにいても親しげに話している様子が聞こえることだろう。
まして、近くにいる者達ならなおの事よく聞こえる。
「ところで、お菓子、私の分もあるよね?」
「無いと拗ねるからな」
「拗ねないよ! 駄々をこねるんだよ!」
「なお悪い?!」
「でもあるからいいや。……それにしても、ドレスって動き難いなー。はぁ、そろそろ自分でやるのが面倒くさいや。ね、食べさせて」
「え」
「ユウトの事だから、手に油が付くとか、そういうお菓子は作っていないだろうけど。少しでも無駄なシワは増やしたくないの」
「……はぁ。分かった。今回だけだぞ」
「やった!」
この会話を聞いた全員が「1回で済まないだろうなぁ……」などと考えている事は露知らず。ナインも、そしてユウトも、妙にそわそわしていた。
ちなみに、ユウトが用意したお菓子は3種のチーズケーキである。
この後、戻った宮で繰り広げられる甘ったるい2人の行動に、一部の者が溜め息をついた。
曰く。
「「「砂糖吐きそう」」」
―― だ、そうである。
来週はお休みします!




