38 何か違う、という話
《WARNING!!!》
└今回は多分に「夜のハイテンション」が含まれた話となっております。悪ふざけ、異常なハイテンションが見られます。ご了承ください。
ナイン「要するにいつもの、だよね」
作者「いつもの、だったら、こんな《WARNING!!!》なんて出さないよー?」
ユウト(確かに)
朝。
明日の早朝には、世界会議の会場へ向かう事となっている。
その段階になって、ナインは初めて、緊張に目を覚ました。
一応、いつも起きている時間なので、問題は無い。
の、だが。
会議に対する緊張だったなら、本当の意味で、何も問題は無かっただろう。
しかし。
ナインは夢から覚めた途端、呟いた。
「何か、違う」
と。
ナイン。
前世において、世界的に受け入れられ、愛された歌姫。
彼女の名は、記憶力に乏しい赤ん坊や、テレビもラジオも聞かない人、ボケの症状が進んで物を覚えていられなくなったような人が知らないくらいで。
世界の誰もが彼女を知っていたし。
世界の誰もが彼女を大切に扱った。
日差しに苦しまないように配慮され、くらげに刺されないよう海から遠ざけられ、風邪で喉をやられないよう外出は最低限だった。
インフルエンザなどが流行った日には、一種の監禁とも思えるような部屋に隔離された。もっとも、それはもうひとりの弟と一緒に、だったが。
愛されていた自覚はある。だから、それを苦に思った事は一度も無い。
とはいえ。
とはいえ、である。
やはり、一度でいいから、自由に外を出歩きたかった。
そんな思いを抱えたまま死んだナイン。
……当然、思いは消えず、むしろ大きく膨らんでいた。
何しろ、ここ一ヶ月以上、城とその周辺くらいしか出歩いていないのだから。
そう、気付いてしまったのだ。
今の準引きこもりの生活は、前世の生活とさして変わらないことに。
そして、思い出してしまったのだ。
自身が何を望んで、この世界に転生したのかを。
「―― ダンジョン行きたい」
「「はい?」」
そんな心情など知る由も無いユウトとシュンは、朝一番に告げられて、困惑した。
物思いに耽り、いつもよりやや大人しいな、とは思われていた。だが、髪を整えて、朝食が運ばれ、それを完食して食後の一杯を半分ほど飲み終えた―― その瞬間に、それは放たれたのだった。
ユウトも聞いていたが、手で目を覆いながら溜め息を吐いている。
どうやら事情が聞けそうだと、シュンがユウトに近付いた。
が、シュンが口を開くよりも前に、ユウトはゆらゆらとナインに歩み寄った。
そして。
「10日の我慢だ」
「やだ」
「世界会議が大事だというのは、分かるだろ」
「わかんない」
「分からないわけがない。ずっと、みんなで、一生懸命準備してきたじゃないか」
「やだー!」
がたん、と、大きな音を立てて立ち上がると、翼も出さずに飛び上がるナイン。翼が無くとも一応飛べるので、開け放たれた窓から逃げ出そうとした。
もちろんシュンもリミも、ギョッとして止めようと動いた。
だがユウトは、いつの間にか窓に回り、塞いでしまう。
「ユウトどいて!」
「ダメだ。今、お前を外に出すのは、色々な……本当に色々な意味で危険だ!」
色々、には、本当色々な事情が盛り込まれている。
種族的な身体能力の差のせいで、2人についていけないリミとシュン。彼等も「色々」には思い当たる節が多く、何とか話には付いていけていた。
もっとも、唐突過ぎる展開に、そもそも頭が付いてきていないのだが。
「もーやだ! もうずっと外に出てないじゃん! 冒険も探検ももうずっとやってないじゃん! ドキドキワクワクが足りないの! ダンジョン行くぅー!」
「だ、め、だ! 世界会議でよそへ行くから、それで我慢しろ!」
「やだぁー! 私に自由をプリーズ! 私が望むのは、そう! 完全なる自由! フリーダァム! そこをどいてユウト……今の私は、何をするか分からないよ……!」
つい先程までの静寂を打ち破り、おかしなまでのハイテンションを弾けさせるナイン。少女の薄い金色の目が、怪しげな光を反射する。
我慢の限界。欲求不満。つまりはそういうことだ。
退屈さに気付いてしまえば、精神年齢は加速度的に逆行する……!
「にゃははははー! そこをどけぇーい! 【ウィンディ】!」
おかしなハイテンションをそのままに、ナインがユウトに向かって手をかざす。
すると、部屋の中に暴風が吹き荒れた。
家具は一切傷付けず、しかしユウト1人を押しのけるには十分な風量。
範囲を絞り、ユウトにのみ作用するようコントロールされた、完璧なまでの制御力。
弾くように窓から退いたユウトの横を、ナインはするりと抜けていった。
「しまった!」
自由自在に空を飛べるナインが逃げ果せるのは、分かりきっていた。
だからこそ、部屋から出ないよう唯一とも言える脱出口を塞いだのだ。
それを突破されて、ユウトは一気に焦りを露にする。
窓に足をかけ、見上げた先に広がっていた光景は、最悪のものだった―― !
「ちょうど退屈していたのだ! 我も混ぜろ! 久々に血が滾るではないかー!」
「あ、じゃあ、僕も混ぜてよ~! 僕も退屈はしていたしぃ~」
「あー……陛下達がやる気だから、混ざるわ」
「ぼ、僕もっ。僕もやるのですー!」
騒々しい気配には敏感、かつ好奇心旺盛な4人が、逃げ出そうとしていたナインの前に立ちはだかっていたのだ。
リリィはどこぞの戦闘民族のように闘志を滾らせる。
ジャックはずっと変わらずのんびりのほほんとしているが、その実体内の魔力が高まっている。
一見面倒そうなシリルも、獲物を狙う肉食獣のような瞳をぎらつかせている。
唯一クロウは、状況が上手く飲み込めていなかった。
クロウだけシリルに肩車された状態である。ジャックが動いた事で、シリルも動き、その時から既に肩車してもらっていたのである。
彼だけは、空気を呼んで適当に台詞を吐いただけであった。
「どいて」
「どこでそのような殺気を出せるようになったのか、真剣に問い詰めたいですね」
「シリルぅ、今はそんなのどうでもいいでしょ! やるよー!」
「ジャックと意見が合うのは気に食わぬが、今ばかりは仕方あるまい!」
はっはっは! と甲高い笑い声を上げると、リリィは詠唱も何も無く、宙に紅色の炎を生み出した。炎はやがて鳥や蝶の形を取るが、そのどれもがふれたらやけどでは済まないほどの高熱を帯びている。
ジャックも配下のかぼちゃのランタンを大量に召喚し、何故か大きな水球を生み出し始めた。ランタンなのに、周囲の水蒸気が凍りつくほどの冷気を持つ水球だ。
シリルは何をするかと思えば、ゴルフボールほどの光の珠を無数に浮かべている。その一つ一つが雷ほどの電気が蓄えられており、近くのボールと共鳴してバチバチと電気の柱が立った。
「えっ? え、えっ?」
そしてやはりクロウだけが、状況をよく分かっていなかった。
「うふ、うふふふ、うん、大丈夫、この程度、自由を求める者の障害とはならぬに等しいのであるよ!」
最早言動に支障をきたし始めているナインだが、魔法の制御力は衰えない。
まだ初級くらいしか覚えていない魔法に、ありったけの魔力を流しこむ。すると、光を集束させて作られた無数の槍が、ナインを中心に展開された。
太陽光を屈折、集束、凝固させたそれは膨大な熱を放ち、リリィ同様触れてはならない、むしろ近付いてもアウトな代物が出来上がってしまった。
「お、お姉ちゃん?! ナインお姉ちゃんの様子がおかしいのです?!」
ようやく少しは状況が理解できたらしく、クロウはもたもたとシリルから降り始めた。そこにいては危険だと理解したらしい――
「がんばるのです!」
理解した上で、なにやら魔法を構築し始めてしまった……。
「―― 【紅蓮バースト】ぉ!」
「―― 【ダイアモンドダスト】ォ~!」
「―― 【雷鳴球】!」
「―― 【アポロンの槍】ぃいー!」
「―― 【真空シールド】なのです!」
城のてっぺんよりも、少しだけ上空。
そこで、いつか見たアニメだったか、教材だったかを思い起こさせる爆発が、起きた。
町の人々は何事かと見上げ、あまりの眩しさに顔を顰めた。
明らかに町を飲み込んでもおかしくない規模の爆発であるが、町には爆発の余波も、爆風も無い。あるのは強烈な閃光の余韻と音だけだ。
耳の良い者であれば、この展開に何かしら察するものがあったろう。そうでない者なら、また新たな催しに向けた実験でも行われたかと勘違いしただろう。
爆発は収まり、周囲に熱がこもる。
街の上空には、変わらず5つの人影があった。
全員、服や髪の一部が焦げてはいるが、揃って本体は無事だった。
「ふ、やるではないか。手を抜いたとはいえ、我と同等の力を発するとはな」
「僕も驚いたよ~。あ、今度正式に試合とかしてみない? 面白そうだ!」
「受けた! 乗った! あー、スッキリした。目の前で爆発とか、貴重な体験だよね! あれ? 何で爆発したんだっけ?」
「あははー……楽しそうですねー……あー……この後が怖いなー……」
「はわあわゎ」
若干3名がスッキリした面持ちであるのに対し、若干1名は涙目。最後の1名が混乱状態。
中々にカオスな状況と言えるだろう。
とはいえ、ナインのテンションは落ち着き、リリィとジャックの退屈しのぎは成功した。
それはまぁ、良い結果と、言えなくもない。
だが、シリルが感じたとおり。
この『後』が、怖いのだ。
「―― 気は済んだ?」
いつに無く。
それでいて、普段ならば全く見せない、天使のような微笑を浮かべる、ユウト。
笑顔なのに、その口から奏でられた声は、場を一瞬で凍りつかせた。
普段より何段階か高い声は、ユウトが普段見せる知的でクールな雰囲気に、非常に似合わない。良く言って無邪気、悪く言って子供じみた、中性的なものだった。
声音はごくごく優しい。
だが、それに含まれるのは、殺意にも似た有無を言わせぬブリザード。
文字通り空を歩き、全員の視界に自身が収まった事を確認する。
そして、どこから取り出したのか。その手には、紛う事無き巨大ハリセンが握られていた。
「クロウ以外、正座」
「「「「ハイ」」」」
この時ばかりは、雰囲気に呑まれ、リリィも見た目相応の態度でいた。
この世界最古の王が逆らえないのは、後にも先にもユウトのみであるが――
それはまた、別のお話。
「……リミさん」
「何でしょうか、シュンさん」
「ユウト殿が執事長の方が良いと思うのは、気のせいでしょうか」
「気のせいではないと思います。暴走したナイン様を止められるのも、その予防を出来るのも、ユウトさんしかいませんし。本人がやりたがらないだけで」
「……それが、一番のネックですね」
「……そうですねぇ」
ユウト周辺の人間関係が、一度改められたとか、なかったとか。
それすらもまた、別のお話……。
かも、しれない。
総評
何かユウトの見方が変わった。




