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転生したら暗君「劉禅」の教育係になったので、僕が天下を取らせます  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
一章

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第6話:李仁は「勉強の意味」を説く


 面白くて分かりやすくて心を開いてくれるような授業。

 なるほど、難題である。


 それが出来ないから世の教師は悩んでいるわけで。

 そもそも勉学とは須《すべか》らくつまらない。


 いやいや、面白くてためになるような講義をしてくれる解説系インフルエンサーも居る!

 これくらい生徒が興味を持てるように授業を行うのも教師の役割だ!


 なーんて話も飽きるほど目にした。


 しかしながら彼らは「数字が採れる」「面白い部分だけを抜き出して」「興味がある人に向けて」動画を作っている。


 そりゃあ面白いだろう。目が離せないだろう。

 僕らは興味があってわざわざその動画を見ようとするわけだから。


 どんなに高レベルな内容でも、勉学への意欲が無い人に、全く興味がない事柄についての話をしたところで聞いてはくれない。


 例えば、おっさんに「最先端韓国コスメ☆」の授業をするとしよう。

 さて、どれだけのおっさんが熱心にノートを取ってくれると思う?



「この李仁、古文や今文などよく分かりませんが、実学(算術・天文・医術・工学など)を専門として学んでまいりました。というわけで今回の講義では『どうすれば女の子にモテるのか』という話をしていこうと思います!」


「李仁殿、気でも触れられたか!?」



 うわぁ、びっくりした。急に大きな声を出さないでくれよ董允さん。

 ほら、太子様もポカンと口開けて目を丸くしてるじゃないか。


 いやぁ、でも良かったぁ。

 面白くて高レベルな「春秋左氏伝」や「易経」の講義をしろって言われなくて。


 来敏殿も董允の直談判に、もう投げやりで「勝手にしろ」って言ってくれた。

 なので言葉通りに「勝手にする」ことが出来る。


 好きにやって良いなら、いくらでもやりようはある。

 後で怒られるであろうことはひとまず置いておいて、だけど。


「いや、でも、講義を受け持たせてもらえるということで、僕の専門分野である実学を」


「教育上不適切である!左様な話を太子様にすべきではない!!」


「不適切?果たしてそうでしょうか?太子様もよくお考えくださいませ。人の営みというのは、男と女によって成り立っております。そしてそれは貴賤問わず同様の真理であり、王と妃の良好な関係があって国も安らかに治まるというもの」


 これは皇帝制度の根幹にある政治思想の話だ。

 世を平らかにするには身近な人との関係が良好でなければならない。


 家を大事にし、親族を大事にし、友を同僚を上司を大事にしていき、こうして世界は平和になるという儒学思想。


 董允はまだ気に喰わない様子で顔をしかめているが、お前だからね?

 面白い講義をしろって僕に無茶ぶりしてきたの。


 そして劉禅はというと、顔を伏せるではなくしっかりと僕の方に目を向けていた。

 ファーストインパクトは成功らしい。


「だからと言って、女人を誑かすような術など、そのような話は不埒で御座る!」


「え、太子様は女人を誑かしたいと思っているのですか?」


「なっ、いや、そんな」


 急に話を振られて劉禅はブンブンと首を横に振る。

 一回転するんじゃないかというほどの強さだ。


 中学生らしい反応。

 あまりにも分かりやすくて、思わず笑顔にもなってしまう。


「ほら、太子様もこう言っております」


「されど術を知れば、手を出してしまうやもしれんではないかっ!」


「否、知らぬことの方が危うい。知らないから怖い、知らないから溺れる。勉学とは薬と同じ。知っていれば正しく用いる術も分かる。肝心なのは『正しく知ること』です」


 どうして勉強をしないといけないのか。

 これは人生の哲学だろう。


 いくらでも答えようがあるし、そして本当に正しい答えなんてものはない。


 でも僕の中の答えのひとつがこれだ。

 薬を飲まねば病は治らず、用法容量を守らずに服用する薬は毒となりかねない。


「さて、太子様、お分かりですか? これは意中の女性と接するうえでも、いや、あらゆる人間関係において同じことが言えます」


「正しく知ることが、ですか?」


「お見事、一度の説明で要点を抑えておられますね。加えて、基本的に人と人の意思疎通はその言葉の内容よりも、誰が誰に話をしたのかというところに左右されます」


「誰が、誰に……?」


「例えば太子様が体を鍛えたいと思ったとき、僕と董允殿、どちらに教えを請いたいですか?」


 劉禅は僕と董允を交互に見比べる。

 そして申し訳なさそうに少し目を伏せて董允を指をさした。


 当然だ。僕は惜しみない拍手を劉禅へ送り、そしてなぜか董允はちょっと嬉しそうな顔をしている。簡単な人だな。


「そうですね、誰に聞いてもそう答えるでしょう。例え教える内容が同じでも、ヒョロヒョロの自分と、見事な肉体をした董允殿では説得力が違う。太子様が意中の相手の気を引きたいと考えた場合、これを意識しなければなりません」


「つまり、ど、どうすればいいのですか?」


「故に、相手を正しく知ることが大切なのです。何が好きで、何が得意で、何が嫌いで、何が苦手か。相手を知り、自分を知ってもらえば、太子様の言葉は日増しに相手の心に届きやすくなります。あたりまえのことで拍子抜けしましたか?」


「まぁ、少し」


「今後、尹黙殿や来敏殿の講義で"春秋左氏伝"を学ぶこともありましょうが、今回の話を踏まえた上で歴史を見てみると少し面白いやもしれませんね。歴史は人の営みの記録がこれでもかと詰まっておりますので」


「……ははっ、左氏伝を学べば、意中の女性の気を引けるのですか?」


「何も知らないよりも、色んなことを知っている方が有利です。実学の面白さはここに御座います。そして分からぬことがあれば何でも我々に聞いてくださいませ。皆、それぞれの解を太子様にお答えいたします」


「実学、か。面白いですね。もっと聞かせてくれますか?」


「勿論です」


 そう、まずは心を開いてもらわなければならない。

 そのための講義だ。


 すると劉禅は何か思いついたようにハッと目を開き、そしてしばらく考え込み始める。

 どうしたんやろ?


「あのぉ、何か分からないことでもありましたか?」


「いや、李仁。そこまで言うのであれば是非、実際に見せてもらえませんか?」


「といいますと?」


「来敏と和解し、講義を再開させるにはどうすればいいのだろう、と思いまして」


・皇帝制度と儒学思想

 世界平和のために、国家を安んじるために、皇帝はまず自分の家庭を安んじないといけない。

 家族や隣人と皆が上手く付き合うことが出来れば世界は平和になるっていう、あれです。

 その結果として生まれるのが、皇帝の家庭である「後宮」という異質な空間なんですねぇ。

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面白いと思っていただけましたら、レビュー、ブクマ、評価など、よろしくお願いします。

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