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転生したら暗君「劉禅」の教育係になったので、僕が天下を取らせます  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章

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第29話:張紹は李仁に祝いの品を渡す


 皇帝直々の出征ということもあり、人間がごっそりと出払ってしまっている。


 とくに戦争というのは商人の稼ぎ時であり、軍隊にみんなこぞって付いて行くから、国営の市場ですらガランとしているわけで。


「いやぁ、しかし良い鯉が手に入ったぞ」


 帰宅途中、いつものように市場を見回っていたら見つけたのが、生け簀に入った大きな鯉であった。

 勿論、良い品であるぶん値も張ったが、なにせ今日は祝いの席だからな。


 値切りもせずに気前よく丸々買い取ると、家まで品物を生け簀のまま送ってくれることに。やったね。


「旦那、やけに嬉しそうですがどうなされたので?」


「そう見えますか?」


 鯉を売ってくれた小柄で細身の同い歳くらいの店主は、生け簀を台車で運びつつ首を傾げていた。

 まだ日も落ちてはいない早い時間。今日は特別に早めに仕事を切り上げての帰宅である。


「実はですね、妻が身ごもったようでして」


「それはそれはっ、おめでとう御座います!なるほど、だから鯉を!」


 鯉は古来より健康にも良く、薬としても重宝されるほどの食用魚として知られていた。

 儒教の祖として知られる孔子も、子供の出産祝いに王から鯉を貰ったという話があったりする。


「これだけ良い鯉です。何かおすすめの調理方法などございましょうか?」


「そうですなぁ。まず捌いて骨と身に分けまする。そして塩を振り、暫し置いて身を引き締め、酒・生姜・青菜などと一緒に煮込み魚醤などで味をつけると美味いんだこれが」


「なるほど、良いことを聞いた。ありがとうございます」


「いえいえ、今後ともどうぞご贔屓に!」


◇


 というわけで今日は、兄さんの屋敷に僕と飛輪さんがお邪魔しての宴席だ。

 うちはちょっと狭いからね。尹家と李家、併せての宴席はやっぱり広い屋敷の方が良い。


「なにも今日の主役が台所に立たずとも」


「好きなんだ、こういう特別な一品を作るっていうのが」


 尹家の家宰のふくよかなおじさんに困ったような顔を向けられ、僕はえへへと笑って頭を掻く。

 教えてもらった通りの調理法で鯉を煮込みつつ、味を見る。なるほど、これは旨い脂だ。


 よく肥えた雄の鯉であり、臭みも全く感じない。

 丁寧に塩で余分な水分を出して、酒と生姜と青菜で煮込んでいるおかげでもあるのかな。


 一度火を止めて冷ましたおかげで身に味が良く染み込んでおり、酒にも合いそうだ。


 あれ、そういえば妊婦さんってアルコールあんまり良くないんだっけ?

 もしかしてそんな飛輪さんの前に「酒の肴」を出すのって、一種の拷問だったりする?


「李仁殿、お客人です」


 今度はふくよかなおばさんの使用人がやかましく僕を呼びつけるので、慌てて手を拭き台所を後にする。


 ドタドタと主役らしからぬ浮足立った駆け足で玄関に向かうと、そこにはバカデカい体躯の青年が一人、肩をすくめて顔を伏せていた。


 もしかしなくても190センチはあろうかという骨太の体格であり、まさしくその巨躯は父親譲りのもの。

 しかし父親とは真反対の性格らしく、肩をこれでもかと内に巻き、真っ赤な顔で立ちすくんでいる。


「よく来てくれた、張紹《ちょうしょう》」


「あ、せ、先生っ」


 先日、張飛将軍に紹介された、あの張飛の息子「張紹」くんです。今年で二十歳。

 最近あの約束通り僕の最初の門下生となりまして、色々な仕事上の補佐をしてくれているんだよね。


 あの張飛の息子だとよく分かる外見だけど、実際は草木を愛でる心優しき青年というこのギャップよ。

 聞くところによれば絵を描くことが好きで、医学や薬学、動物や植物に関する学問に熱中してるらしい。


 故に張飛も武芸を仕込むよりもこうして学術の道に進ませたかったのかなぁ、なんて。


「本日はお招きいただき、ありがとうございます。こちら祝いの品です」


「これはこれはご丁寧に」


 丁寧に手渡された木箱。

 張紹が持ってる時はめちゃくちゃ小さかったのに、受け取ってみると両手に乗るような大きさだった。

 なんのトリックアートだこれ、びっくりするな。


「えーっと、ちょっと失礼になるけど中身を聞いても良いかい?」


「妹と相談の上で決めました。南越より取り寄せた香木の入った香嚢《こうのう》(部屋に吊るしたりするお香の入った袋)です」


「……お値段は」


「さぁ、母上に取り寄せてもらったものなので、詳しくは」


 あー、ばかばかばか。これだから皇室繋がりのブルジョワジーは。

 絶対クソ高いじゃん。僕、まだ結構官位低いんだからね?王族みたいな扱いしないでくれる?


 でも一切の他意もなく「おめでとうございます!」と満面の笑みを浮かべるこの青年の好意を無下にも出来ない。

 あとでめちゃくちゃお礼とかしなくちゃいけないなコレ。兄さん、助けて!


「ま、まぁ、ありがとう。どうぞ上がってくれ、今日はお前をみんなに紹介する宴席でもあるのだ」


「いや、そんな、恐れ多いです。自分はここで」


「そう言うな。ほら!」


 というか帰らないで、マジで。

 こんなに良いものを貰って、何の持て成しも無いとあっては僕の評判が死んじゃうからさ!



・張紹

 張飛の息子。張皇后の兄弟であり、外戚として劉禅の信任を受けた。

 劉禅が降伏する際は張紹が使者となり、皇帝の印璽を持って、差し出したとされる。

 その後も劉禅に随行し、魏王朝にて列侯に封じられた。


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