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転生したら暗君「劉禅」の教育係になったので、僕が天下を取らせます  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章

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第25話:尹黙には兄としての矜持がある


 バタバタとしたお出かけであった。でも羊肉のステーキは本当に最高だったなぁ。

 塩気は流石に強すぎた気もするけど、運動量が桁違いの軍人さん達にはあれで丁度良いのかも。


 相も変わらず頭の中は食べ物のことでいっぱいで、飛輪さんとの晩酌に期待が膨らむ。

 そう、張飛将軍とも伝手が出来たし、帰路の最中はお気楽なもんだったんだよ。


「そこに座れ」


「……はい」


 明らかに怒っている兄さんの低い声色。二人だけの執務室にて、僕は正座をさせられていた。

 東宮で留守を預かってくれていたのにお土産を買ってこなかったから怒ってるのかな、なんて。


 当然そんなわけはなく、だいたい見当はついていた。

 今回、僕は張飛将軍に無理を言って来敏殿を救おうと「出過ぎた真似」をしたのだ。


 兄さんは僕の推挙人であり、何か僕が罪を犯せば兄さんも連座しないといけない。

 家を第一に考える兄さんからすれば、僕の行動は決して褒められたものじゃないわけで。


「張飛将軍に、来敏殿の助命への口添えを頼んだそうだな」


「あと、将軍の御子息を僕の門下にするという話も」


「どうしてそんなことになるんだ」


 それを言われてしまうと、僕としてもどう返せばいいのか分からなくて。


「で、でも張飛将軍は殿下の舅殿です。仲良くしておくに越したことは無いと思うんです」


「だからこそ、だ」


 文机を挟んで座っている兄さんは持っていた筆を置き、眉間に皺を寄せた。

 囲うように積まれた書簡や書類は兄さんが請け負っている仕事の多さを示している。


「政界の中枢には近づくな。過ぎたる栄誉や栄達を望むは、明かりを求めて火に飛び込む羽虫と同じだぞ」


「分かっています」


「ならば何故、お前が名指しで陛下から呼び出されるようなことになるのだ!」


 僕が張飛に口添えを頼んだとき、張飛はとても嫌そうな顔を浮かべて首を振った。

 しかし断るということもせず「説得ならお前がしろ」とだけ言ってきたのだ。


 その結果が、これだった。

 張飛からの書簡を開いた劉備が、僕を呼び出したのである。


 今の陛下に、僕みたいな"へなちょこ"が下手に逆らえば即刻斬首だろう。

 だからこそ兄さんはこんなに怒ってくれているんだ。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「もし僕に何があっても、兄さんは無視してください。勿論、何も起きないようには気を付けるけど」


「……馬鹿を言うな」


 それはそれは大きなため息であった。

 まるで肺の中の空気を全て振り絞るかのような。


 いつも眠そうな瞼《まぶた》は相変わらずだったが、こうも真っすぐに睨まれると背筋の冷える思いがした。


「無視なんて、出来るはずがないだろう。お前のために俺はがむしゃらに頭を下げて回ってやるし、全てを投げ打ってでも俺はお前を助けるぞ」


「な、そんな、どうして」


「それが兄だからだ。だからお前もそうならないように、自分のことを、もっと大切にしてくれ」


 かつて僕が趙雲に生意気な口をきいて罪に問われた際、助けてくれたのは兄さんであった。

 職を失った僕を援助してくれたのも、今の役職に推挙してくれたのも、全て。


 どうしてそこまでしてくれるのか。そういう問いへの答えも全てこれだった。

 兄だから、と。


「良いか。決して陛下の意に逆らうな。聞かれたことだけ答えろ。最悪の場合、来敏殿よりも自分の命を優先しろ」


「分かりました」


「……陛下は本来、寛大な御方だ。しかし今回、お前は陛下の意に逆らう話をしなければならない。とにかく平身低頭に徹するのだ」


 何度も何度もそう言い含める。それでもまだ不安が尽きないのだろう。

 話を切り上げようにも、心配をかけている手前それもまた心苦しかった。


 今日は一日、念入りに釘を刺されて仕事の時間が終わる。

 陛下からの呼び出しは、明日。来敏殿の処刑の期日は、もう4日後に迫っていた。


◇


 暗く、広い部屋であった。

 高価な宝石や調度品の類は一切なく、そこには武骨な武具ばかりが飾られている。


 綺麗に磨かれたものでもない。血に汚れ傷の入った鎧や、刃の欠けている刀や戟。

 全て実戦で用いられたものだというのが一目で分かる。この全てが「劉備」を構成しているものなのだ。


 戦友の遺品、敵から奪った戦利品など。その全てを、恐らく僕に見せつけている。

 自分が誰なのか、劉備とはどんな男なのか、それを思い知らせるために。


「李仁、す、すまない」


「落ち着いてください、若君。息を出し切れば、自然に吸うことが来ます。焦らずに、そう」


 隣で震える劉禅の唇は真っ青であり、呼吸も浅く、早い。

 冷えたその手を握って、深呼吸を促す。同時に僕も自分の心臓を落ち着かせるために息を吐く。


 そりゃ僕だって怖い。だって今からあの劉備と対面するんぞ?


「父帝には、わ、私から話す。お前は、危ない、静かにしていてくれ」


「兄にもそう言われました。大丈夫ですよ」


 しかしもう時間はない。恐らくこの面談で、来敏の命運は決する。

 すると宦官らがぞろぞろと列を成して現れ、上段の空白の玉座にひざまずく僕たちを挟むように並ぶ。


 額を床に押し付け、息を殺す。

 ツカツカと足音が奥より聞こえ、それが玉座に腰を掛けた。



「──お前が、李仁か」



 言葉が、あまりにも重い。身動き一つ出来ず、簡単な返事すらも掠れてしまう。

 劉備。乱世を戦い抜いてきた、この時代最後の英傑。僕とはあまりにも背負ってきた人生が違い過ぎる。


「益徳(張飛)の頼みだ、話だけは聞いてやろう。禅、李仁、朕を説き伏せてみよ」


 押し潰すように、しかしどこか楽しそうに、劉備はそう命じた。


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面白いと思っていただけましたら、レビュー、ブクマ、評価など、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
わぁ~!李仁、劉備相手にどんな説得をするんだろう!すごくワクワクする。 説得上手くいけばいいな~
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