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転生したら暗君「劉禅」の教育係になったので、僕が天下を取らせます  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章

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第24話:張飛は休息の大切さを知る


 一晩休むだけで、こうも軍に活気がつくのかと張飛は素直に驚いていた。

 思えば自分もそうである。関羽が死んだと聞いてから、睡眠もまともにとれない日が続いていた。


 しかし久しぶりに愛娘と会い、幼いころからよく知る劉禅の成長を目の当たりにし、良い肉を食う。

 また柄にもなく胸の内につかえていた不安も吐露すると、驚くほどよく眠ることが出来たのだ。


「関兄《かんにい》、俺達が守ってきたものはちゃんと芽吹いているらしいぞ。嬉しいなぁ」


 雲の隙間から差す朝日を浴びながら、張飛は長く伸びて大あくびをかます。

 髭も髪もあらぬ方向に大暴れしているが、それを気にする様子は一切無かった。


 早起きした兵士達は昨晩の跡片付けやら、調練の準備などで忙しなく動き回っている。

 今ならはっきりと兵士の一人一人の顔がよく見えるような、張飛はそんな気がしていた。


「将軍、おはようございます」


「えーっと貴殿は、董允か。しかし良い体躯だ、どこぞの武人かと思っちまったぞ」


 軍人顔負けの体躯と筋肉。

 しかしその身なりや佇まいは高級官僚のそれで、教養を感じさせるものがある。


 張飛に体格を褒められて嬉しかったのか、董允は鼻の穴をひくひくさせながら口角を上げていた。


「昨晩は宴会を開いていただきありがとうございます。我らは準備を整え次第、都へ帰還いたします」


「すまないな。本当なら三日三晩の宴席で歓迎したいところだが、生憎、調練の予定が詰まっている」


「軍務を優先なさるのは当然のことです」


 すると董允の表情は一瞬にして、布に覆われたかのように、何の感情も見えないものに変わった。

 そのまま張飛に近づき、声を抑える。近くの周囲には特に人も居ない。


「将軍、帰還の前に一つ忠告を。一度、行軍の足を止め、軍を改めなさいませ。孫権の手が伸びております」


「ほぅ」


 張飛は軍歴も長い。間者を警戒するなど、一番最初に気を付けるような初歩も初歩の話だった。

 戦を知らぬ者が口を挟むなと、そう言おうとして、その声は喉元で止まった。


 であればなぜ、関羽は死んだのだろうか。


 張飛から見た関羽は、欠けているところの一切無い完璧な将軍である。

 その関羽があっさりと背後を突かれてしまったのだ。思えば不自然な話だった。


「……間者か。なぜ分かった」


「この董允、東宮の守衛を預かる身。宮中は密偵と策謀の本場であり、少しばかり汚いやり口を心得ております」


「昨晩、殿下と共に将校らを見回ったのはそのためか」


「それが吾輩の仕事ゆえに。ちなみに殿下はこの事を知りません、あくまで吾輩の所感です」


 孫権、思えば不気味な男であった。彼もまた曹操・劉備に並ぶ当代の英傑である。

 しかしその二人と比べて明らかに毛色が違う。若さゆえか、そもそも戦場を駆けてきた男ではない。


 戦場ではないところで曹操・劉備と渡り合い、生き残ってきた。

 故に孫権は関羽を討てたのかもしれないと、張飛は思い至る。


 負け知らずのあの関羽が負けるとすれば、戦場以外の要因しかないからだ。


「忠告、一応胸に留めておこう」


「ありがとうございます」


 すると今度は張飛が何やら袖からゴソゴソと一通の書簡を取り出し、それを董允に押し付けた。

 書簡は紐でくくられ、赤色の粘土で封《ふう》がされている。この封《ふう》は、国家の重要事を扱う「証」であった。


「あの李仁とかいう学士に頼まれてな。来敏を救うために俺の口添えが欲しい、と」


「で、では、この書簡は」


「俺から陛下に向けた意見書だ、しかと渡してくれ。ただ、勘違いはするな。陛下と同じく俺も、来敏なんざ死んでも構わんと思っている」


 来敏は明らかに劉備を侮っていた。

 確かに忠義心は感じるものの、自分が導いてやらねばという不遜さも見えるのだ。


 それは共通して「学者」の鼻につく部分ではあるのだが、来敏のそれは張飛の目から見れば度を越えた傲慢さであった。


 張飛にとって劉備や関羽を侮られることは、何よりも許し難いこと。

 故に来敏なんざ死ぬべきであると、本心からそう思っているのだ。


「この書簡にはこう書いている。来敏の処遇に関して、殿下と李仁の意見を一度だけ聞いてみてほしいと。それで陛下が納得せねば、来敏はそこまでだ」


 託された書簡は、あまりにも重い。ここに来敏の命が懸けられているのか、と。

 それは、希望と呼ぶにはあまりにも細い道筋であるかのように感じられた。


 諸葛亮でさえ直接的に口を出すことが出来ないような今の劉備に、劉禅と李仁がどう立ち向かえば良いというのか。

 しかし全く希望が見えないことと、僅かにでも見えること、その違いはあまりにも大きかった。


「張飛将軍、感謝いたします」


「おう、殿下と張彩をよろしく頼む」


「我が命に代えても」


 こうして劉禅の一行は兵士達への激励を済ませ、成都への帰路につく。


 そして張飛もまた調練を兼ねつつ部隊を南下させて、「無事に」永安へと辿り着いたのであった。


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