↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら暗君「劉禅」の教育係になったので、僕が天下を取らせます  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/33

第21話:張飛は精鋭を練り上げる


 色々と考えていたが、やっぱり人と人の出会いによる力は凄いな、なんて変な結論に思い至る。

 人脈って言葉は胡散臭いセミナー講師だけが使うものだって印象があったけど、やっぱ大事なんだね。人脈。


「若君、来敏殿を救えるのは張飛将軍以外に居ない、と僕は考えます」


 揺れる馬車の中。向かい合う劉禅は分厚い耳たぶをバウンドさせながら、目を丸くした。

 なんとも不快な薄い霧の中。冠を被るのすら煩わしい湿気が籠っている。


 今、僕たちはそんな「張飛」将軍の下へと向かっていた。

 張飛、三国志を知る人ならだれもがその名を知っている、最強の猛将である。


 劉備の旗揚げから付き従い、関羽と共に劉備の飛躍を助けた人物であった。

 つまり感情的になっている劉備のその「情」を動かせるのは、やはり張飛以外に居ないのだ。


「だ、だが李仁、将軍は父上よりも感情的な御方だ。父上を説得するよりも、それは難しいと思うんだが……」


「来敏殿は陛下を非難したがために獄へ繋がれたわけであり、別に張飛将軍を非難したわけではありません」


「しかしお前も聞いただろう。今の将軍が、どのような状態にあるか」


 出立の前、出迎えに訪れた馬謖より聞いたのは「張飛の軍の調練の苛烈さが度を越している」ということだった。


 明らかに「関羽の仇を取る」という怨讐に捕われているようであり、調練で死人もゴロゴロと出ているらしい。


 今回の劉禅と張彩さんによる激励は、そんな張飛を宥めるという意図もあった。

 歴史通りに進むのなら、張飛はこの調練の最中、恨みを抱いた部下によって殺されてしまう。


 やっぱり、これもどうにかしないといけない。

 張飛まで失えば、劉備にはもう誰の声も届かなくなる。


「それでも張飛将軍を説得しなければいけません。そのお役目は、この李仁が請け負います」


「いや、そんなっ、出来るのか?お前まで罪に問われるのは、私は嫌だぞ!?」


「若君が仰ったのです、来敏殿を救いたいと。今が覚悟を決めるときだと、僕は思います」


 陛下の意に逆らい、それでも救いたいと願った命。

 不条理に抗うのであれば、それだけの覚悟もまた必要である。


「……無理はするな」


「当然です。僕にだって守りたい人はいますので」


「それで、私は何をすれば良い」


◆


 益州《えきしゅう》巴西郡《はせいぐん》から、目的地である"永安《えいあん》"まで。

 張飛は自身の率いる一万の軍勢を城外に駐屯させつつ、実戦さながらの戦闘演習を繰り返しながら行軍していた。


 軍を大きく二つに分け、日中はこの二部隊が丘陵や山中を駆けて相手の本営を奪う実践演習を。

 そして日が落ちると張飛の率いる直属の騎兵部隊が、どちらかの部隊に夜襲を何度も何度も仕掛けるのだ。


 武器は刃の零れた剣や槍を用いているが、だからといって斬れないわけではない。

 そんなもので仲間同士の殺し合いをさせるのだ。まさに極限の状況と言えるだろう。


 こうして休む間もなく生死の境を彷徨った兵士は、ようやく精兵に磨き上げられる。

 これが乱世を潜り抜けてきた劉備軍伝統の地獄の調練であり、当然、この調練で死ぬ兵士も多かった。


「──整列!!!!」


 張飛将軍の雷鳴のような怒号が飛ぶ。

 すると一万の軍勢は一瞬で寸分も狂いなく隊列を組み上げる。


 土気色の顔。頬は削げ、目には精気が宿っていない。

 兵士の表情は皆、同じであるかのように見えた。


 そして張飛将軍と並ぶように、即席で築かれた木製の壇上に劉禅は上る。

 明らかに気圧された表情をしていた。そりゃそうだ、僕だってあそこに立って演説する勇気はない。


「見事な、精兵である。将軍、心強い限りです」


「ありがとうございます、殿下」


 張飛が膝をついて拱手《きょうしゅ》すると、兵士達も同時に膝をついて同じ姿勢を示した。

 自分の手足の如く兵隊をここまで鍛え上げるのにどれほどの調練を重ねたのかと、恐怖に似た思いを抱く。


 膝をついてもなお劉禅と背丈がそれほど変わらない様な巨体。

 劉禅はそんな張飛の腕に手を伸ばし、その体を立ち上がらせた。

 兵士達はまだ拱手の姿勢のままだ。


「都より、漢の誇る勇士たちを労うべく、肉と美酒を用意した。どうか受け取っていただきたい」


「殿下からの労いであれば受け取らないわけにもいきますまい。されど、仇を取るまで酒は飲まないと決めております」


「人間走り続けることは出来ないものだ。将軍、一息つくのも大事だと私は思う」


「休息は仇を討ったのちに、好きなだけ取ります」


 やはり頑なであった。劉禅の申し出であっても、張飛は首を縦には振らないらしい。

 不安そうな面持ちで下段に侍る僕へ劉禅は視線を向けてくる。頑張れ、踏ん張れ!


「将軍、いや、舅《しゅうと》殿。受け取ってくれなければ、私は父帝(劉備)に叱られまする。では、酒はこの勇士達への贈り物ということであれば、如何でしょう? どうか私の我儘を、聞いていただけませんか?」


「……そこまで言われると断れないではないですか」


 ようやく見せた張飛の笑顔だった。

 その瞬間に殺伐と張り詰めていた空気が僅かに、解けた気がした。


 張飛将軍の歴史の記述、都での評判などなど。全てを聞いた上での説得。

 決して悪い人じゃないことは、張彩さんを見てもよく分かる。


 情に厚く、真っすぐで不器用。故に顔を立てて真っすぐに訴えかければ、その声は届く。

 何となくそんな推測を立てていたけど、うまくいって良かったと心底ほっとした。


「お前ら、今日の夜の調練は無しだ!殿下からの肉と酒、微塵も残すんじゃねぇぞ!!」


 あれだけ精気を失っていた兵士達の顔が、一瞬で驚きと歓喜の表情に変わる。

 どれだけ休んでいなかったのだろうか。泣き崩れる兵士までちらほらと見えたほどだ。


 さて、劉禅は最初の役割を果たした。

 となれば次は僕だ。


 張飛を説得し、来敏を救う。同時にこの蜀漢の未来も、手の届く範囲で。

 大きく息を吸って、細く長く吐く。胸は痛いほどに鼓動していた。

---------------------------------------------------------


面白いと思っていただけましたら、レビュー、ブクマ、評価など、よろしくお願いします。

評価は広告の下の「☆☆☆☆☆」を押せば出来るらしいです(*'ω'*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。