第19話:李仁は講義と称してボドゲで遊ぶ
「古今東西、人間の犯す失態というもののほとんどは"意思疎通の齟齬"によって引き起こされると言っても過言では御座いません。というわけで本日の講義は『より正しく自分の考えを他者に伝える力』について学んでいきましょう!」
前世は確かに陰キャで友達もほとんどいなかったけど、だけどそんな僕でもボードゲームが好きだった。
流行の3Dグラフィックの銃を打ち合うようなゲームは苦手でも、カードやボドゲでは活躍できた。
なので今日はそんなボードゲームをもっともらしい理由をつけて遊んでいこうと思うよ!やったね!
初対面同士でも楽しく協力しながら遊べるから、今回の件ではボードゲームって最適だと思うんだ。
「あ、初めまして張彩様。太子厩長の李仁と申します」
「……フン」
いつもの講義を行う一室には僕と劉禅、そして董允と張彩さんの四人が居るよ。
ちなみに彼女の年齢は劉禅と同い年らしい。
しっかしあの張飛将軍に似ず、高貴さを思わせる美人さんだ。
大きく切れ長の目に、濃い眉、真っすぐに通った鼻筋は子供ながらに意志の強さを感じさせる。
また球体に磨かれた赤い瑪瑙石の揺れる耳飾りや、小さな蓮の花が象られた金色の冠など、どのアクセサリーも一級品であった。
「それで、李仁殿。何故、今日は太子様だけでなく太子妃様にも講義を?」
ツンケンとして顔をそむける張彩に、困り顔で汗を飛ばす劉禅。
見かねて董允が話を先に進めるべく助け舟を出してくれた。ありがとう。
「今日やることは僕と若君の二人でやるにはちょっと味気が無いので、一緒にいると楽しい人をご招待くださいって若君に言ったら張彩様が良いと仰られたんですよ」
「えっ……」
目を丸くした張彩さんは赤の瑪瑙が揺れる勢いで、劉禅の方に顔を向けた。
しかし劉禅、なんだその顔は。"はい"とも"いいえ"ともとれる微妙な表情をしおってからに。
「ちなみに董允殿は僕が呼びたいと思ったから呼びました」
「え?そ、そうか、えへへ」
筋肉オジサンが照れてるのは何だか見てられないかもしれない。
「それじゃあ早速、講義を始めていきましょう。ま、とはいってもちょっとした遊戯みたいなものですのであまり身構えず楽しんでください」
取り出したのは十枚の薄い木札。
その表面には1から10までの数字が記され、裏面は全て真っ黒。
全員で一つの机を囲み、その木札をそれぞれの前に裏面のまま一枚ずつ配布していく。
「李仁、何をするんだ?これは見てもいいのか?」
「おっと若君。全員、見てもいいですけど書かれている数字は他の人に見せたり教えたりしないでくださいね」
僕の手元に来た番号は「二」であった。これはちょっとラッキーかも。
三人も神妙な面持ちで恐る恐る自分の番号を確認しては、首を傾げていた。
「この遊戯の決め事は至って簡単。僕たちが持っている札を、書かれている数字の大きさ順に並べていくだけです」
すると張彩さんはムッと眉をしかめて身を乗り出す。
「馬鹿にしないでちょうだい!子ども扱いしてるの!?」
「でーすーが、自分がどの数字の札を持っているのか、というのを口に出してはいけませんし、当然人に見せてもいけません」
「それくらい、えっと、いやっ、そんなの簡単よ!」
まるで負けん気強く反抗してくるポメラニアンとかチワワみたいな人だな。
なるほど。性格は猛将の誉れ高き張飛将軍譲りなところがある、ってことなのかしらん。
「皆さんに配った数字は一から十のどれか一枚。そして一つだけお題を出しますので、そのお題に沿って自身の持っている数字の大きさを表現してみてください」
そして僕が出したお題は「ご飯(米)に合いそうなおかず」だ。
本当は酒のツマミにしたかったが。
数字が高ければ本当に合うおかずを、逆に低ければ合わないものを言えばいい、っていうことだね!
「張彩様。何をすればいいか、分かりましたか?」
「フン、当たり前よ!」
「じゃあまずは董允さん、そして僕、若君、最後に張彩様の順で裏面のまま札を出していきましょう」
当てられた董允は四角い顔をギチギチにしかめながらウンウンと唸っていた。
難しいということは恐らく真ん中らへんの数字を貰った、ということなんだろうな。
「よし、決めた!鶏だ!特に胸の肉は体が喜ぶ気がしてならん、吾輩の大好物だ!」
駄目だ、何も分からん。コイツ呼んだの間違いだったか?
「董允、肉の部位を言われてこっちはどう推測すればいいというのだ」
「そうよ、せめて調理後の料理名で言いなさいよ」
「ぐぬぬ。まぁ、うん、蒸し焼きだな。粗く塩を振ったものだ」
うーん、これは難しい。個人的な好みだが、蒸した鶏胸肉ほどタンパクな食材は無い。
塩を振っただけじゃ白米には合わないような気もするが、でも本人は「大好物」って言ってるんよな。
「じゃ、じゃあ次は僕ですね」
持ち札の数字は「二」だ。これより下は「一」しかないことを考えると、ほぼ最低ライン。
ということは逆に、白飯に全く合わないものを答えればいいから、えーっと……
「白米、かな。なーんて!」
「よく吾輩の例えを聞いて怪訝そうな顔が出来たな」
「李仁よ、それはどうかと思うぞ……」
「ご飯に合うかどうかの話に白米を出してくる思考回路がちょっとキモいわね」
何だよお前ら!そんなに言わなくたっていいじゃないか!
ちょっとだけウケを狙ってみただけじゃん!
「では次は私だな。うーむ、豆の醤などはどうだろうか」
いわゆる豆類を発酵させて作った調味料であり、いわゆる味噌とか醤油のようなものだ。
当時の主食であるご飯や蒸しパンなどのお供として代表的な食材だと言ってもいい。
「ふーん、なるほどね。結構高そうな数字を引いたんじゃない?」
「されど一般的すぎるというか、殿下であればもっと良い食材を出しそうですが」
董允の指摘に張彩はまた目を丸くし、そしてキッと劉禅を睨む。
あ、圧力で答えを引き出そうとするのはナシですよー?
「じゃあ最後はウチね。ウチはそうねぇ『焼き鮒』なんてどうかしら?刻んだ大蒜と魚醤を幾重にも塗ってじっくりと炭火で焼き上げ、最後に山椒を塗すの」
男達の唾を飲む音が聞こえてくるかのようだ。
旨そうすぎるな。白米にも酒にも合いそうな、最高の逸品が頭の中で差し出される。
これは決まりかもしれない。
僕と董允は言葉も交わさず目を合わせ、同時に頷いた。
「じゃあ、もう張彩様の札は文句なしに一番大きい方へ──」
「──いや、待つんだ李仁」
割って入るのは劉禅だった。
すると劉禅は迷うことなく、張彩の札を裏面のまま十と一の間の五、六の辺りにスライドした。
「張彩は子供の頃からあまり魚を好まないんだ。その魚を出してくる辺り、私はあまり大きくないと見た」
「え、そうなんですか?」
「あと李仁はもう一番小さくて良くて、董允は、うーん、お前は何でも旨いって言うからな」
そんなことを呟きながら、劉禅はサササッと札を並び替えていく。
小さい順に僕、張彩さん、劉禅、董允の順だ。こうもしっかり説明されると頷くしかないというね。
こうして全員納得したところで、いよいよ札を空けていく。
「二」「五」「七」「八」
まさかの、一発目で並び替え成功である。拍手。劉禅すごい。
「ふぅ、まったく張彩は変に見栄を張るからな。素直に焼き魚とだけ言えばいいのに」
「なっ、なっ、なっ……」
するとみるみるうちに顔を赤く染め上げる張彩。
触ると火傷してしまいそうな、熱されたヤカンの様にシュンシュンと熱気を噴き出している。
そして沸騰ヤカン美少女こと張彩さんは赤い顔のまま、劉禅の肩をポカポカと殴りつけた。
流石にそこは少女。本人は精一杯のつもりなのだろうが、響くのはやわらかい打撃音。
太鼓よろしく叩かれる劉禅は困り顔のまま「ごめんよぉ」と情けない謝罪を繰り返している。
「ウ、ウチのこと全部わかってるみたいな、そんな、偉そうな顔するなっ!」
「分かったから、ごめん、ごめんって、うぅ」
聞いていた話とだいぶ違うような、そんな気がした。
喧嘩してるのかコレ? 僕にはすごく仲睦まじく見えるんだけども。
・ボドゲ
ちなみに今回取り上げたボドゲのモデルは「ito」です。
友達とよくボドゲカフェとか行くんですけど、友人曰く僕は「人を欺いたり隙を伺うゲームが強くて、協力ゲームはマジでお荷物」らしいです。
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