「贄なるもの 二十三」
帰路は無言の時間が続いた。
馬車を吊り上げてまで急いだ山道は、帰路にはマイティが法術で成形した道をたどれば半分の時間で進むことができた。
メテウスはあれから茫然自失のままだ。
すこしでも考えを巡らせると、頭の底に鉛が流し込まれたように重くなり、なにも考えられなくなる。
──身体的苦痛を伴ったトラウマ。
頭痛は固体となって目から溢れ出そうになる。その正体に触れようとするたび、灼熱の溶鉱炉に手を突っ込んだように意識が弾けた。
メテウスは黙ってやり過ごすしかなくなっている。
目を見開いたままの少年を、はやく起きろ、と殴ってみたガレアーンも戸惑っていた。
メテウスは鼻血を垂らし、「ああ」とか「うん」とかつぶやき、忘我の顔つきでガレアーンを見上げている。それがいつもの憎たらしい顔つきと違って、なんだか小さな子供のようにみえて、毒気も抜けるのだった。
ガレアーンにはそういった顔に見覚えがあった。
実家の牧場でときおり目にした、戦場帰りの廃人たちはそんな顔をしていたものだ。心の動きが顔にあらわれない、能面のような顔つき。周囲の状況を知覚しているのに、反応する余力がなくなっている。人語の及ばぬ経験をした人間は、こうやって現実世界への反応を失うことがあるのだった。
──洞窟のなかの会話に、そんなショックな情報があったとは思えない。聞き耳を立てていた会話以外に、なにかあったのだろうか?
ガレアーンはいまいち納得できない。
はじめは放置していたが、よちよちと服の着替えもおぼつかないメテウスを見かねて、しかたなく世話をしてやっている。
食べ物を口に運んでやると食べる。
服を脱がせて、替えを渡すと着る。体を拭かないのですこし汗が匂う。
焚き火の前に置いても布の一枚もかぶらないので、赤子にそうするように外套をあてがって寝かしつけてやる。
言葉の通じない幼児のようなもので、動くことはできても命令は耳に届かない。口を開かない以上、憎たらしさも沸かないため、苦には感じなかった。
──よく病にかかる家畜の世話のようなもの。
初日は目の焦点もあっていなかったが、帰路をすすむにつれ、自発的な行動がなくとも、夢遊病のような受け答えや食事を行えるようになったので、そのうちもとに戻るだろうと考えて荷物のように運びつづける。廃人になれば牧場の片隅で単純作業を与えるか?と考えていたくらいだ。
マイティもイドシオンも、あまり関わり合いになろうとはしなかった。
人間の策謀と違って、神々絡みの問題はとにかく理不尽であり、虎の尾を踏んだ人間だけでなく、その人間の親類や住んでいただけの街まで壊滅的な損害を被ることさえある。因果応報とか理不尽という言葉が通じるのは人間だけで、神には無実の人間を害することにタブーがない。いや、すべての人間に存在するだけで巨大な罪があると考えているのかも知れないが。
物理的に距離をとり、近づかないことが最良の対処法である。
「こいつの世話、任せる。狭いけど我慢して」
「承りました。いやお恥ずかしい、運んでいただいて、お手数おかけします」
幌馬車の中には、浅黒い肌をした青年とその従者連中も押し込められている。しばらく洞窟にいた彼らは足腰が弱っており、山道で音を上げたので、幌馬車で運んでいた。
肉食の龍馬にやる肉をときおり調達する。枯れ木をほじくって甲虫の幼虫をバリボリ食べている龍馬は放っておいても死ぬことはないが、肉をやらないと痩せてしまう。
三日も過ぎた頃には心の整理もついた。
道すがら、ガレアーンは『任務は成功したのか?』と思い返してみるが、具体的な成果は判然としない。ただ、ロワットラの描いた絵図のなかで動いている駒だということは自覚しているため、探るようなこともしない。
呪い子がつくりだした〈異界〉……
疫病……それに感染しないという、メテウスと自分。
どこからどこまでが偶然なのか? ロワットラはなにを目的として自分たちを派遣したのか?呪い子がらみだということだけはわかるが……。
ロワットラの目的が理解できていないのだから、考えたところでガレアーンにはわかるはずもない。情報がなく、思索を重ねる意味が薄い。
──警戒すべきことは、ブウェイック家の求める次の戦争で、自分がどういう役割を果たすのか?ということだ。
自分だけなら、ハヴォック家という高貴な血を継いだ戦士にすぎない。
だがメテウスは神象を刻まれている。ロワットラはどのような意図でメテウスを血族として認めたのか?
メテウスは使い捨ての道具として扱われるだろう。だが、自分は?
血筋の高貴さだけで戦争で重宝されると考えるほど、ガレアーンは現実を知らないわけではないが……道は重たく苦しいものになりそうだ。
ロア家のベネディクトという男も、具体的な情報を話そうとしない。
マイティは前ほど陽気ではなくなり、しきりに片腕での武器の振り方を模索している。
イドシオンもめっきり口数の少なくなった一人だ。
暗い顔をして、ぼそりと言う。
「ねえ……少年、捨てていかない?」
「なにを馬鹿なことを。イドシオン、どういう意味だ?」
「わからない? わからないかぁ……」
イドシオンは平気なふりをしているが、メテウスとベネディクトの会話を反芻していた。
──フレア・フレア、といっていた。
神族のフレア、あるいはゼノフレアとして知られる超越者を話題にしていた。あろうことか、少年はフレア・フレアと因縁があるようなことを言っていた。
関わり合いになれば、命がいくらあっても足りないだろう。
いわゆる超越者には、人の理が通用しない。
人間社会に地位を持っているフレアは比較的話が通じるのだろうが、敵対してしまえば慈悲など期待できない。
イドシオンは騎士である。
十六都市同盟を守る公正騎士団の一員としての帰属意識があり、たとえ汚れ仕事でも故国のために身を捧げているという誇りがある。
バロートに外交官として派遣され、戦人以外が地位を持てないという文化にあわせて戦士の地位を得たとはいえ、心はいつも故郷にあった。
このような世界の端っこの僻地ではなく、まっとうな人間社会に属しているという自覚があり、本物の恩寵者や超越者に深い関わりを持ちたくはなかった。
銀髪の少年は、うつむいて無言で歩けるほどに正気を取り戻していたが、ときおり覗く緑の目は、黒い穴のように虚無の感情を称えている。
重罪を犯した両親が処刑されたあと、公正騎士団に引き取られたイドシオンにはよくわかる。
世界への不信、そしてほとんど物理的な重みを伴う殺意。
悪夢の中でみる化け物のような目だ。
メテウス少年は孤狼児なのだという。両親がないばかりか、奴隷として売られ、逃亡し、あげく孤児として徴発され、戦争で人を殺しまくったあげく呪われた孤狼児なのだという。
そんな人間が、なにを信じているのか、イドシオンはわずかながら理解できる。
蠱毒という呪いがある。荒んだ土地では、それと同じことが人間で起こる。
彼が神々の寵愛を受けているという話に半信半疑だったが、いまは、嘘ではないと考えて行動している。
文明の光が届く土地からすれば、バロートなど辺境の蛮地にすぎない。だが、イドシオンは侮らない。古い風習に、古い家、古い価値観に、古い戦士たち。文明の光が届かないということは、闇に潜むものもまた神代の暗さを持っているのではないか?
どちらにせよ、見切りのつけどきだった。
イドシオンは疑問を持たないようにしている。知らなくてよいことをわざわざ探って死んだ人間はこの世に数多いという事実を知っている。
これが金絡みの利権や不正に手を突っ込んだだけなら、やってくるのは暗殺者ですむし、殺すべき相手もわかりやすい。いざとなったら権力者の家を前触れなく燃やしたり、人混みで後ろからナイフで刺せば、人間という問題を解決することはできる。
だが……神々や古い呪いがらみの話を探れば、失われるのは自分の命だけではなかった。逆鱗に触れた時の解決方法が存在しない。
──曰く、触らぬ神に祟りなし。
一行はやがてブウェイック城に帰還した。
広くもない城下町を通り過ぎ、衛兵に馬の手綱を渡して真っ先のロワットラへの報告の段取りをつける。
「お客人には部屋を用意させていただきました。戦士の方々は、渾沌人の方やそちらの従者もふくめ、全員を招きたい、との言伝です」
ロワットラの侍従を勤める美青年に案内され、城の中を長く歩いて鉄扉を開いた。広い執務室だ。ソファに一人の女が座っている。
ロワットラが書類から顔もあげずにいう。
「簡潔に報告しろ、グラドール」
マイティは陽気な性格など消し飛んだ顔で話し出す。
〈異界〉、疫病、巨人、神命……。
神命、ということろで面をあげたが、口をはさまず経緯を聞きおえたロワットラは、小さく頷く。
「疫病は、やはり〈異界〉からやってきたもので間違いなかったか?」
「ええ。現地のフルーシャ族はほぼ全滅です。姫様の言葉どおり、ボウズを使って試しましたが、感染の兆候はみられません」
「確証がとれたな。あの異界、やはり神族の兵器から生まれたものではなく、呪い子由来だ。一安心だな……おまえたちには近く道先案内をしてもらおうか。ところで……」
ロワットラはジト目になった。
「そいつ……大丈夫か?
左と右の区別がつかない感じの顔をしているが……。おい、メテウス……なんなんだおまえ……シャキッとしろ! 一応、おまえは私の血盟弟なんだ。情けない顔を……いや……聞いてないなこいつ……」
メテウスは窓から雲を眺めていた。
青空に浮かぶ雲が、動いているのか動いていないのか、見れば見るほどわからなくなり、勝手に幻術にかかって動けなくなっている。
話の意味は頭に入ってきても、それに対する思考や反応が一切欠けてしまっている。
ガレアーンが説明を補足した。
「ロワットラ様。こいつ、だんだん治ってきています。
ベネディクトと話をしたあたりでは完全におかしくなったので、神命がらみで何かあったのではないかと……」
「リージェント!天使人形に渡して聞いてこい! まったく……思い通りにいかない!」
メイドがやってきて、大きなぬいぐるみを抱えるみたいに”よいしょ”とメテウスを抱えて連れ出した。
「……とにもかくにも。おまえら、報酬をやるから、しばらく城にいろ。次の仕事は〈異界〉の征伐だ。とくにガレアーン、戦士になりたての奴らをつけてやるから、学べ。うん?気になるのなら、メテウスについていってやれ」
帰路は無言の時間が続いた。
馬車を吊り上げてまで急いだ山道は、帰路にはマイティが法術で成形した道をたどれば半分の時間で進むことができた。
メテウスはあれから茫然自失のままだ。
すこしでも考えを巡らせると、頭の底に鉛が流し込まれたように重くなり、なにも考えられなくなる。
──身体的苦痛を伴ったトラウマ。
頭痛は固体となって目から溢れ出そうになる。その正体に触れようとするたび、灼熱の溶鉱炉に手を突っ込んだように意識が弾けた。
メテウスは黙ってやり過ごすしかなくなっている。
目を見開いたままの少年を、はやく起きろ、と殴ってみたガレアーンも戸惑っていた。
メテウスは鼻血を垂らし、「ああ」とか「うん」とかつぶやき、忘我の顔つきでガレアーンを見上げている。それがいつもの憎たらしい顔つきと違って、なんだか小さな子供のようにみえて、毒気も抜けるのだった。
ガレアーンにはそういった顔に見覚えがあった。
実家の牧場でときおり目にした、戦場帰りの廃人たちはそんな顔をしていたものだ。心の動きが顔にあらわれない、能面のような顔つき。周囲の状況を知覚しているのに、反応する余力がなくなっている。人語の及ばぬ経験をした人間は、こうやって現実世界への反応を失うことがあるのだった。
──洞窟のなかの会話に、そんなショックな情報があったとは思えない。聞き耳を立てていた会話以外に、なにかあったのだろうか?
ガレアーンはいまいち納得できない。
はじめは放置していたが、よちよちと服の着替えもおぼつかないメテウスを見かねて、しかたなく世話をしてやっている。
食べ物を口に運んでやると食べる。
服を脱がせて、替えを渡すと着る。体を拭かないのですこし汗が匂う。
焚き火の前に置いても布の一枚もかぶらないので、赤子にそうするように外套をあてがって寝かしつけてやる。
言葉の通じない幼児のようなもので、動くことはできても命令は耳に届かない。口を開かない以上、憎たらしさも沸かないため、苦には感じなかった。
──よく病にかかる家畜の世話のようなもの。
初日は目の焦点もあっていなかったが、帰路をすすむにつれ、自発的な行動がなくとも、夢遊病のような受け答えや食事を行えるようになったので、そのうちもとに戻るだろうと考えて荷物のように運びつづける。廃人になれば牧場の片隅で単純作業を与えるか?と考えていたくらいだ。
マイティもイドシオンも、あまり関わり合いになろうとはしなかった。
人間の策謀と違って、神々絡みの問題はとにかく理不尽であり、虎の尾を踏んだ人間だけでなく、その人間の親類や住んでいただけの街まで壊滅的な損害を被ることさえある。因果応報とか理不尽という言葉が通じるのは人間だけで、神には無実の人間を害することにタブーがない。いや、すべての人間に存在するだけで巨大な罪があると考えているのかも知れないが。
物理的に距離をとり、近づかないことが最良の対処法である。
「こいつの世話、任せる。狭いけど我慢して」
「承りました。いやお恥ずかしい、運んでいただいて、お手数おかけします」
幌馬車の中には、浅黒い肌をした青年とその従者連中も押し込められている。しばらく洞窟にいた彼らは足腰が弱っており、山道で音を上げたので、幌馬車で運んでいた。
肉食の龍馬にやる肉をときおり調達する。枯れ木をほじくって甲虫の幼虫をバリボリ食べている龍馬は放っておいても死ぬことはないが、肉をやらないと痩せてしまう。
三日も過ぎた頃には心の整理もついた。
道すがら、ガレアーンは『任務は成功したのか?』と思い返してみるが、具体的な成果は判然としない。ただ、ロワットラの描いた絵図のなかで動いている駒だということは自覚しているため、探るようなこともしない。
呪い子がつくりだした〈異界〉……
疫病……それに感染しないという、メテウスと自分。
どこからどこまでが偶然なのか? ロワットラはなにを目的として自分たちを派遣したのか?呪い子がらみだということだけはわかるが……。
ロワットラの目的が理解できていないのだから、考えたところでガレアーンにはわかるはずもない。情報がなく、思索を重ねる意味が薄い。
──警戒すべきことは、ブウェイック家の求める次の戦争で、自分がどういう役割を果たすのか?ということだ。
自分だけなら、ハヴォック家という高貴な血を継いだ戦士にすぎない。
だがメテウスは神象を刻まれている。ロワットラはどのような意図でメテウスを血族として認めたのか?
メテウスは使い捨ての道具として扱われるだろう。だが、自分は?
血筋の高貴さだけで戦争で重宝されると考えるほど、ガレアーンは現実を知らないわけではないが……道は重たく苦しいものになりそうだ。
ロア家のベネディクトという男も、具体的な情報を話そうとしない。
マイティは前ほど陽気ではなくなり、しきりに片腕での武器の振り方を模索している。
イドシオンもめっきり口数の少なくなった一人だ。
暗い顔をして、ぼそりと言う。
「ねえ……少年、捨てていかない?」
「なにを馬鹿なことを。イドシオン、どういう意味だ?」
「わからない? わからないかぁ……」
イドシオンは平気なふりをしているが、メテウスとベネディクトの会話を反芻していた。
──フレア・フレア、といっていた。
神族のフレア、あるいはゼノフレアとして知られる超越者を話題にしていた。あろうことか、少年はフレア・フレアと因縁があるようなことを言っていた。
関わり合いになれば、命がいくらあっても足りないだろう。
いわゆる超越者には、人の理が通用しない。
人間社会に地位を持っているフレアは比較的話が通じるのだろうが、敵対してしまえば慈悲など期待できない。
イドシオンは騎士である。
十六都市同盟を守る公正騎士団の一員としての帰属意識があり、たとえ汚れ仕事でも故国のために身を捧げているという誇りがある。
バロートに外交官として派遣され、戦人以外が地位を持てないという文化にあわせて戦士の地位を得たとはいえ、心はいつも故郷にあった。
このような世界の端っこの僻地ではなく、まっとうな人間社会に属しているという自覚があり、本物の恩寵者や超越者に深い関わりを持ちたくはなかった。
銀髪の少年は、うつむいて無言で歩けるほどに正気を取り戻していたが、ときおり覗く緑の目は、黒い穴のように虚無の感情を称えている。
重罪を犯した両親が処刑されたあと、公正騎士団に引き取られたイドシオンにはよくわかる。
世界への不信、そしてほとんど物理的な重みを伴う殺意。
悪夢の中でみる化け物のような目だ。
メテウス少年は孤狼児なのだという。両親がないばかりか、奴隷として売られ、逃亡し、あげく孤児として徴発され、戦争で人を殺しまくったあげく呪われた孤狼児なのだという。
そんな人間が、なにを信じているのか、イドシオンはわずかながら理解できる。
蠱毒という呪いがある。荒んだ土地では、それと同じことが人間で起こる。
彼が神々の寵愛を受けているという話に半信半疑だったが、いまは、嘘ではないと考えて行動している。
文明の光が届く土地からすれば、バロートなど辺境の蛮地にすぎない。だが、イドシオンは侮らない。古い風習に、古い家、古い価値観に、古い戦士たち。文明の光が届かないということは、闇に潜むものもまた神代の暗さを持っているのではないか?
どちらにせよ、見切りのつけどきだった。
イドシオンは疑問を持たないようにしている。知らなくてよいことをわざわざ探って死んだ人間はこの世に数多いという事実を知っている。
これが金絡みの利権や不正に手を突っ込んだだけなら、やってくるのは暗殺者ですむし、殺すべき相手もわかりやすい。いざとなったら権力者の家を前触れなく燃やしたり、人混みで後ろからナイフで刺せば、人間という問題を解決することはできる。
だが……神々や古い呪いがらみの話を探れば、失われるのは自分の命だけではなかった。逆鱗に触れた時の解決方法が存在しない。
──曰く、触らぬ神に祟りなし。
一行はやがてブウェイック城に帰還した。
広くもない城下町を通り過ぎ、衛兵に馬の手綱を渡して真っ先のロワットラへの報告の段取りをつける。
「お客人には部屋を用意させていただきました。戦士の方々は、渾沌人の方やそちらの従者もふくめ、全員を招きたい、との言伝です」
ロワットラの侍従を勤める美青年に案内され、城の中を長く歩いて鉄扉を開いた。広い執務室だ。ソファに一人の女が座っている。
ロワットラが書類から顔もあげずにいう。
「簡潔に報告しろ、グラドール」
マイティは陽気な性格など消し飛んだ顔で話し出す。
〈異界〉、疫病、巨人、神命……。
神命、ということろで面をあげたが、口をはさまず経緯を聞きおえたロワットラは、小さく頷く。
「疫病は、やはり〈異界〉からやってきたもので間違いなかったか?」
「ええ。現地のフルーシャ族はほぼ全滅です。姫様の言葉どおり、ボウズを使って試しましたが、感染の兆候はみられません」
「確証がとれたな。あの異界、やはり神族の兵器から生まれたものではなく、呪い子由来だ。一安心だな……おまえたちには近く道先案内をしてもらおうか。ところで……」
ロワットラはジト目になった。
「そいつ……大丈夫か?
左と右の区別がつかない感じの顔をしているが……。おい、メテウス……なんなんだおまえ……シャキッとしろ! 一応、おまえは私の血盟弟なんだ。情けない顔を……いや……聞いてないなこいつ……」
メテウスは窓から雲を眺めていた。
青空に浮かぶ雲が、動いているのか動いていないのか、見れば見るほどわからなくなり、勝手に幻術にかかって動けなくなっている。
話の意味は頭に入ってきても、それに対する思考や反応が一切欠けてしまっている。
ガレアーンが説明を補足した。
「ロワットラ様。こいつ、だんだん治ってきています。
ベネディクトと話をしたあたりでは完全におかしくなったので、神命がらみで何かあったのではないかと……」
「リージェント!天使人形に渡して聞いてこい! まったく……思い通りにいかない!」
メイドがやってきて、大きなぬいぐるみを抱えるみたいに”よいしょ”とメテウスを抱えて連れ出した。
「……とにもかくにも。おまえら、報酬をやるから、しばらく城にいろ。次の仕事は〈異界〉の征伐だ。とくにガレアーン、戦士になりたての奴らをつけてやるから、学べ。うん?気になるのなら、メテウスについていってやれ」




