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不滅を狩るる ~ 終末の傭兵に二度目があったなら?→闇堕ちJK!→メクルメクク!~  作者: 六津井パラピポチ


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06「悪夢 六」


 ◆


「おいクソガキ、隊長がお呼びだ」

「……わかった」


 呼ばれたら駆けつけるのが下っ端の仕事だ。

 刀を研いでいたアブヒムは、近寄ったメテウスにチャリンと数本の貨幣を投げ渡した。


「金?」


 黄金の柱。メモリが刻まれた八角柱の金属棒は、掌に収まるとずしりと重たく、メテウスは高額な貨幣にぎょっとした。金を90パーセントほど含むアウルム棒金貨は棒銀よりも巨大で重たく、ざっと棒銀の50倍の価値があった。


「なんですか、これは?」

「おう。おまえを指名して仕事の依頼がきた。その報酬だ」


 これは二重の意味で異常である。


「どういうことです?孤狼児ガルーを指名して、報酬がアウルム棒金を五本? うっそだぁ」

「知らねえよ、ハヴォック家の家人に頼まれた。断れねえだろう?雑用に呼ばれただけだ、気張れや」


 アブヒムは無表情だ。メテウスは強烈に嫌な予感がしている。なお金の価値は緩やかに下落しているが、それでもアウルム棒金一本で都市の大家族が一月は生活できる。


「……これ命の代金なんじゃ……断るとかは……?」

「不可能だ。ハヴォック家はブウェイック家の家臣でも一番か二番の名家だぞ?断るって選択肢はねえんだよ……そんなに睨むな。テメェが悪いんだぞ? 推薦したのは、シエドラ様だって聞いた。おまえシエドラ様と揉めてたらしいじゃねえか……ほんと馬鹿なぁ」


「シェッ……シエドラ⁉」


 メテウスは一瞬ですべてを悟った。

 孤狼児ガルーは戦場の便利屋だ。当然、鉱山のカナリアじみた仕事なども依頼される。

 孤狼児ガルーを差配できるシエドラに、いかにも危険そうな依頼が舞い込み、嬉々としてメテウスを推薦したのだろう。舌で唇を潤す爬虫類の顔が簡単に想像できてしまった。


「シエドラ様だ。十人長フラーブを呼び捨てにするな、殺されてえのか?」

「で、でもっ……シエドラは……! あいつ、おれを嫌ってるんですよ⁉ぜったい殺される!!!」

「ンなこたぁねえだろ。たしかに評判はよくない。拷問とか好きそうな顔をしている。略奪では子供を嬲り殺すって聞いたな……こほん。だがな、それでも十人長フラーブだ。断るってことはできないし、絶対に死ぬって任務をわりふることは、ないはずと信じたらピュー」


 肝心なところで口笛を吹いたアブヒムは、手でしっしっとメテウスを追い払い、金勘定をはじめた。これ以上文句を言うなという合図で、メテウスは目を剥いたが逆らうことはできなかった。


「う゛ぅ……なんだこれ……殺意来るのが、はやすぎんだろ……」


 いくらなんでもシエドラの復讐が早すぎる件を脳裏で考え込み、とぼとぼと歩く。

 いつまでも悩んではいられない。

 死体が散乱する戦場では、早くもお宝探しが始まっていた。


「おい、籠手付きの魔具手袋だ、だれかいらねえか⁉」

「安モンだが魔導銃を持った馬鹿がいた」

「こいつ、素寒貧だ、くそ」


 兵たちは軟弱な感傷に浸るメテウスを置き去りに、全力で稼業に励んでいる。

 メテウスは混じって機械的に武具や金品を漁った。死体は血まみれで匂うが金になる、魚の処理に似ている。


「おう、こいつ良いとこのオッサンだ。金歯だぜ」

「ああ⁉ 俺が漁ってたやつだ!」

「早いもんがちだっつの、へ……」


 兵は命令を待ちつつ稼ぎ時を心得ている。農民出の兵士など少ない北の大地の戦いは、雑兵にも実りがあった。

 出兵する人間は様々な理由で財産を身につけているので、十人漁れば数年食える金になる。街への略奪が少ない北の戦争ではこれが兵の稼ぎだ。


 ここは北方バロート。メテウスは大陸の東で傭兵をしていたので、常識が違う。

 死体の指を切り取って指輪を眺め、服の隠しを探って死体の肉まで切り刻んでいる仲間の姿に、一瞬、真っ当な倫理観が文句を垂れたものの、道中に女や村を見かけたら無条件で襲う盗賊じみた部隊と比べてしまえばお上品、かつ生き残りの敵を遊び半分に拷問しないだけ慈悲がある、という常識が良識を覆い隠した。死体漁りは加熱し、怒声もチラホラ響く。


「殺されてえのか⁉俺の指輪だ!」

「黙れ!!!俺が先に漁ってたんだろうが!!!お情けで近づけたら指を切り取りやがって……!これは!俺の指輪だ!!」

「こんのクソガキがッッッッ!!!」


 〈餓狼〉ことマクスの拳を避けたメテウスは、鼻と額に皺をよせ、歯茎をむき出しにしたあと、寄り目になって歯から擦過音を鳴らしつつ指輪を懐へ納める。マクスは悔し気に唾を吐いた。


「こ、こんのクソガキ……!このマクス様を威嚇するとは……なんて顔をしやがる……!おい……ほんとに……なんて顔だ……おまえ……ほんとに……ほんとに人間か?」


「どういう意味だ!!!」


 失礼しちゃうわ!とぷりぷりしたメテウスは機嫌を悪くして離れた。

 カッカした頭を覚ますため、すこし外れると、貴族と思しき少年の死体が転がっていた。あどけない少年兵の死体が泥にまみれ、少女のような白い頬を晒しているのを見つめ、メテウスはそっと瞼を閉じさせた。間抜けな感傷だった。


「死にたくなかったよな……」

「おお、孤狼児ガルー。それを譲ってくれ」

「? ……譲る?いいが……」


 のっそりやってきて、少年兵の死体を背負った大柄な女が歩いていくので、メテウスは後をついていった。兵が木々を背に休む一角、火を灯し酒を供えた小さな即席の雛壇をつくり、死体の四肢を揃えて置いた女、絶叫をはじめた。


「サラブラ・カー・サンラ!!霊山に跨る偉大な婢蛭〈クラックナガン〉よ!多少、頭など潰れてしまっていますが、未来ある若者の死体を捧げます! きっと清く罪を知らない童貞ですぞ!」


 捧げ物だったようだ。

 宗教狂いの仲間が叫ぶと、死体が溶けるように消えて、儀式は成立した。仲間は嬉しそうに信徒の義務を果たしたとうなずいている。メテウスの乏しい知識は、土に親和性のある神クラックナガンが大地を通じて生贄を受け取った、そう理解した。この世界には、神々がいる。そういった神々の力を借りて戦う超人にはメテウスのような雑兵はとてもかなわない。


 あのメテウスの前髪を焼いた魔導兵は、こうして神の力を借り仲間を助けている


 死体となった少年にとって、弔われて善いことなのか、敵の神に捧げられて魂まで侮辱されたのか、その是非さえメテウスには理解できないし、どのような考えを持っても感傷以上の意味を持たない。けっきょく、一兵卒が生き残ること以上を望むのは贅沢だという、いつもの結論に落ち着く。


 やがて部隊ごとに仲間が集まり、命令を待つようになった。

 後方から交代の部隊も集まる。その行列のなか、荷車を中心に槍を下げた一団が近寄るのをみて、メテウスは仲間たちの太ももを蹴飛ばして注意を促す。〈餓狼〉ことマクスが、野獣じみた眼光で短剣に手をやりつつ、振り向いた。


「なんだァ指輪泥棒? 俺様の足を蹴るなんて」

「はやく金目のものを隠せ」

「おっ……助かる」


 真っ白な飾り鎧を血と泥に濡らしたおっかない神殿騎士が、強奪に勤しむ兵を小突いては恫喝を行っていた。疲れ切ったふりをして座り込むメテウスの小隊にも迫る。


「信徒よ、義務の遂行を! 」

「貴ら! よく稼いだろう、喜捨を求める! 死者を弔え!」


 弔い賃と喜捨の要求。言外には、略奪税の徴収である。戦場の倣いとして小隊長が代表し棒銀をじゃらじゃら渡した。抵抗しようにも神殿騎士は武芸に長けるうえ、かりに命まで奪ってしまえば神罰が恐ろしい。


「聖なる庭の信徒よ! 神の慈悲があるだろう!」


 去っていく。


「クソッ、目をつけられても良いことはねえ、仕方ねえ」


 小銭に異常に執着するアブヒムは、狂気を宿した目で神殿兵の背を睨んだ。いまも気が大きくなって抵抗した兵が「俺の金だ!」と剣を抜き「神よ、この者に慈悲をッ神罰覿面ッッ!」と剣柄で奥歯を割られ、略奪税を徴収されていくのを見るに正解だ。


 ──正解か?

 メテウスは両手で顔を覆い、ため息をついた。


「……案外この世は狂ってるのかもしれないな」


 宗教的な戒律で盗みを働けないはずの神殿兵が、当然の顔をした流れ作業で敵兵から服を剥ぎ取り、数十体の裸の死体を山組みにして即席の祭壇に供えているさまには兵たちも二度見を隠せない。


 ――なぜ敵を辱める?

 ――いや神殿の騎士様だ。神に捧げるんだろうよ。

 ――ならいいのか……?

 ――さあ。たぶん善行なんじゃないか?


 なにが狂っているのか分からないが、なにかが狂っているということだけは間違いがない、メテウスはそう確信を得ている。


 自分が狂っている、これならばまだ救いがある。


 世界が狂っている、これには救いがないのでそうではないと言い張りたい。自分の力で正せない不正義など存在するだけで人は傷つくため、この世にいくらでも目に付く不正義を指さしてなお存在しないと言い張ることが社会の正常性である。


 世界が狂っていないということになっているのは、多くの人間がそう言い張っているだけの話で、真実など探しても見つからないのかもしれない。


 ともすれば、世界が正常に見えることそのものが異常だったのかもしれないと、禅問答のようなことを考え込むこともあるメテウスは、ひたすら不気味な孤狼児ガルーとして仲間に不気味がられていた。


「メテウス──くん。明日の早朝、基地の川辺に来いって連絡があった。頼んだぞ」

「隊長なんでちょっと距離とってるんですか?それって軽蔑したり心の距離がある相手にやるやつですよ。いまは違うでしょう?」

「ああ、気にすんなピューイ」


 アブヒムはいつも口笛の練習をしているが、嘘と同じであまりうまくはない。



 少年は、生死のやりとりで得た現実の感触を確かめながら床についた。


 眠りは神秘の扉だ。現在がなくなり、過去と未来が交錯する。


 少年は過去の夢をみる……あるいは未来の果て……。


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