50「ザップ 十」
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埒が明かないので、メテウスはあっさり真実を明かすことにした。
「こうなってはしかたない、白状する……!
驚かないで聞いてくれよ。おれは、見た目のままの子供じゃない……!」
「知ってた」
「えっ!?」
真顔のロワットラと、その後ろでコクコクと頷く使用人の少女。濃紺の髪をサイドアップにしていて、激しくうなずきすぎて髪が揺れていた。
……こいつら……どうやって真実に気付いたというんだ……!?
「どう見ても長命種がなりすました子供の言動をしている」
「(コクコク)」
ダン!机を叩きつけた。
「違う!長命種じゃない!おれは無垢な子供だ!!」
「無理があるだろ。鏡を見たことがあるか?もしもこんな気味の悪い子供がいたら、腹を蹴りとばして殺すしかない……もしもの話ではあるが」
「蹴らないでくれ!これには事情がある!深い事情が……!」
言っていることはよくわかる。光人や闇人に代表さる長命種は、人里に降りるとその年齢に不相応の姿から、子供になりすますことが多々あり、詐欺じみたことをよくする。あれはとても気味が悪くて嫌いだ。そんなやつらとは違う……!
メテウスは密かに矜持を燃やしたが、二人は無言だ。
あげく、ロワットラは舌で頬を押し出して目を天井に向け、なんか変な顔をしつつ言い出した。
「あー……たしか……東方軍事請負人協会に籍を持つ青札のメルディウス・コンランド。つまり野良犬の傭兵だな。青札ってことは中堅どころの雑魚だろ。それが前世なんだろ?たいしたことないな……面白みが全くない……石ころを拾った気分だ」
「おい巫山戯るなよ、正直に言うとは言ったがおれはそこまで言うつもりはなかった!なんで知ってるんだ!?あと人様の半生を石ころ呼ばわりするな!傷つくだろ」
「(くすっ)」
「笑うな!おまえはメイドさんなんだから笑っちゃだめだろうが!」
メテウスは疑心暗鬼に駆られた。
ロワットラが重々しく頷いて言う。
「なに、記憶を吸い取っただけだ。たいしたことではない」
メテウスはびっくりとした。
「いや……それだいたいの法律で死刑になる重罪じゃないか!? 人の記憶を盗み見るだと!? 罪悪感とかないのか!?」
「私は領主の血族だぞ?法は常に私の味方だから……罪悪感とか言われてもな……意味がよくわからない」
「(コクコク)」
「しまった、ここは文明圏じゃなかった……!」
メテウスは責めた。
法治という概念がなく、人治が公然とまかりとおる野蛮な土地で、倫理を問う愚行をおかした自分を責めた。
「(ふるふる……ふるっ)」
「なに首振ってんだ!? メイドさんめ!! ハッキリ言いやがれ!!」
「言いたいこともあるだろうさ。おまえの出生を探って、このリージェントはずいぶん苦労していたようだぞ?」
リージェントと呼ばれた使用人の少女は、知的に微笑んでぺこりと頭を下げ、とても賢そうな声色で言う。
「僭越ながら、療養されているメテウス様の星輪具を拝見させていただきました。
〈メルディウス・コンランド〉〈ブマーク・ハルモギル〉と刻まれています。当人の融礼名、そして融礼の儀を行った祭祀者の名です。
品物自体は、蔵遮腑の奇跡を刻まれた出生証明を兼ねた星輪具で、聖庭教会が製造するとても標準的な品です。ただし、両親の名をあしらった刻印が施されていないのは少々珍しい。来歴を探るために、聖庭会に協力を要請して祭祀者の名からあたり、融礼の儀を行った聖堂まで部下を派遣いたしました。
祭祀者はあいにく泉下へと旅立っていましたが、紙をあたったところ、やはり父君がブウェイック家に連なる名でした」
メテウスはドン引きした。あと言葉が丁寧すぎて、言っていることがあまりよくわからなかった。知性に差がありすぎるのかもしれない。
「ええ……なんでそんなこと調べたんですか……?」
ロワットラが、いつのまにか取り出したナイフの手入れをしながら言う。
「神々の寵愛を与えられた者──神象を刻まれた子供だぞ?調べるに決まっている。
おまえ、混血だが顔立ちがこのあたりの子供だ。農民の子供が孤狼児として人を殺しまくって神象を刻まれた可能性もあったが、ガレアーンの話ではもとから戦えたというし、傍系の血だとあたりをつけていた。実際、あたった」
「……そんなこといわれても、知らないし……親の名前なんて知らないし興味もありませんよ……」
小さくうなずき、藍色の髪を揺らしてリージェントが言う。
「融礼台帳には〈ハルニバル・コンランド〉〈ベヨ・レネッタ・コンランド〉と両親の名が記されておりました。ハルニバルといえば、あまり見かける名前ではありません」
ロワットラは邪悪な笑みを浮かべた。
「縁起が悪いからな。
裏切り者のハルニバル。
アペイロン王国と取引して、勝手に領地をもらって貴族になったあと、格好良く死にやがった。十年ほど昔の話だが……おまえはその遺児だ。親が一瞬だけ貴族だったんだから、おまえも一パーセントくらいは貴族かもしれん。大目にみれば……」
「そうなの!?」
メテウスは驚愕した。
裏切り者の血を引いていて、大目にみると一パーセントの貴族らしい。
……貴種流離譚みたいな……いや…………一パーセント? マイナス要素じゃないか? 一パーセントて。よくよく考えたらそのへんの奴隷でも1パーセントくらいは王侯貴族の出じゃない?
リージェントは、高級使用人の謂れを存分に発揮してそらで言い連ねる。知性的な態度だ。その綺麗なすまし顔をメテウスはわけもなくぶん殴りたくなった。
「神象を刻まれた子供の調査は、通常、出生事由の判明した時点で終わりますが、呪い子の絡んだ事件もありましたので、さらに調べることになりました。
部隊への聞き取り調査から、メテウス様が奴隷として売却されたとお聞きしたので、私の家のもの総出でコンランド村を探し出しました。コンランド、雪の奥という意味です。そう名付けられた村は十近くありましたので、それぞれ近場での奴隷売却届けをあらったところ、ユギ県コンランド村の寄り都市で逃亡奴隷届けを発見いたしました。売買証明書の売却者は叔父となっておりましたが、合っていますか?」
……奴隷として売られたあたりで未来の記憶が戻ったから、全力で逃げたんだったな。
すまし顔のリージェントに頷いてみせる。あまり思い出したい記憶ではないが……
「ああ。高値で売れたような覚えがかすかにある……」
奴隷あるある。高値で売れたと見栄を張ってしまった。
リージェントの眉がこころもち斜めに曲がった。同情でもしてるのか?
「金棒二本で売却されたとか」
サバを読んだのがバレていた。
静寂が場に満ちる。メテウスはいたたまれない気持ちになった。
「もっと高くで売れたような記憶があった……悔しい」
「悔しい……?
妹君のことですか?
一年後、売却されておりますが」
うん……うん?
妹?
「妹って?」
「? コンランド村の血縁者、エティエヌ・コランド殿に事情をうかがいましたが、メテウス様の父君が早世されたのち、母君は故郷への帰路に就くため、兄妹お二人を置き去りになされたとか。
開拓村は口減らしが横行しており、エティエヌ殿は泣く泣くお二人を手放されたと伺いました。メテウス様の売却された一年のち、妹君も売却されております。覚えて……おられませんか?」
……泣く泣く? 伯父っぽいやつには酒代にされた記憶しかないが……。妹?
メテウスは片目を細め、記憶をこね回した。
……傭兵としての記憶を思い出したのは、ちょうど奴隷商に売られたさなかである。うっすらと、それより昔の記憶もあるにはある。父や母の顔は思い出せないが、そういえば、自分より小さい子供がいたような気が……。
「あっ。たぶん妹いたな。激動の時代で忘れてた」
「普通忘れるか……? おまえに情はないのか? やはり長命種が人の皮を剥いで変わったのか?」
ロワットラが真顔でつぶやいた。
メテウスはすこし気まずくなり、破れかぶれで真実を話すことにした。
「……あまり言いふらしたいことでもないが、ここまで言われちゃ言うほかないみたいだな。
──おれには、前世の記憶がある。
あんたらは記憶を吸い出して良い気になってたんだろうが、おれは教えられるわけでもなく、前世の記憶がはっきり残っているんだ……」
「あー、そういうタイプか。稀にいるとは聞いたが、本物ははじめて見たな」
「(コクコク)」
反応が薄い。メテウスはちらりと重要視されていないことを確認し、シリアスな顔で言い連ねた。
「そうだよな、驚くのも無理はない……。
前世持ちってのはたいてい五歳かそこらで記憶を失い、普通の子供として生きるらしいが、おれはそういうノーマルタイプじゃないんだ。
……なんなら未来の記憶がある。
未来のことを教えてやろうか。もうすぐ人類は滅ぶんだ。
どうだ……?」
ちらり。メテウスは反応をチラ見した。
「あー、神々に手ごまにされて、偽の記憶を植え付けられたタイプか。伝聞で聞いたことはあるが、実物を前にすると哀れだな……」
「(コクコク)」
「!?」
偽の記憶扱いされたメテウスは、二人が真顔であることを確認し、顔を苦悶に歪めた。
「……信じられないのも無理はない。
だけど、わかってくれたか? 縁もゆかりも感じられないブウェイック家とやらでやっていくことはできないんだ。
あんたらが信じなくても、おれは人類が終わるって知ってるんだからさ……」
シリアスな顔のまま立ち上がり、謎解き編の探偵がスタスタ部屋を回遊するノリでそのまま部屋から出ようとしたが、メイドさんに道をふさがれ、肩を掴んでくるりと振り向かされたので、スタスタと椅子まで戻り大人しく着席した。肘を机について手を組み、格好良いポーズをとる。
「ロワットラ様。あとメイド様。信じてくれなくてもいい。だが、おれにはもう戦うための理由が……ない!」
「すまん。深刻な顔をしているところ悪いが、知らないのか? エーテルの根本原理というものがある。時間素行は、不可能だぞ?」
「──えっ?」
静かに頷いたリージェントは、眉を弓なりにして気の毒そうな顔をした。
「〈ベインレーテルの掟〉として知られている、神々も認める公理ですね。世界複製を灯した錬金術の始祖ベインレーテルですら不可能と認めた10の事柄の一つです。情報は時間を遡行できない。物理法則よりも確かですよ?」
「……えっ?」
メテウスは目がテンになった。
……じゃあ、おれの記憶は……?
「おまえがふてぶてしい理由がわかって安心したよ。
偽の記憶を植え付けられ、神々の駒として使われているだけだ。
安心しろ。私たちがおまえを……再利用してやる」
「えっ……?」
「拍子抜けではあったがな。すっきりした。じゃあ、私は風呂に入ってくる」
「……えっ?」




