40「幕間〈オブリビオン 一〉」
「オブリビオン 一」
一つの時代が過ぎ去りました。
戦いによって魂が輝くというのなら、人が最も死んだあの時代、善き悪しきに問わず、並々ならぬ英雄が表れたのは当然の仕儀といえましょう。
絶滅許容戦争を免れた、”剣の穢れ”帝の記された書に残る──
勇儀式感応者の到達点、ネルフェリリム。
人を超えし武器人形メゼ・ウジュ
善悪の超越者、聖無のジージョン。従者である彼我騎士カシャグラ。
英雄の中の英雄たちは、必然として人命殺する業を積みました。
一人を殺さば殺人者、されど一万人を殺した者は史に名を刻んだ英雄と呼ばれます。
箱舟のベロニカ、刻狐ジジ、夜長のブーチン、善竜タオ・ズー……
ご存じの通り、録音神話から幾度も蘇るナインガハル・ディットバの言葉から記されたとおりのことでありましょう。
さて、彼ら栄華栄浴に相応しい英雄たちは歴史の表。光あらば影があり、古書の裏には紙魚もあり、”海より深い”レンエジィ卿の書には、長命の邪知がおもてに現れ、悪を成したとも残ります。
蝶を模す邪仙、ゾクチェン。
公正者ディエゴ。
国贄として知られるロア。
種の筆記者ノヴェイク・シーヴァー。
水盆廟のエッゼ、命もどきワル・ワ・トラ……
悪名は常に滅ぶもの。
今となっては知られぬ些末名ばかり。
しかして、真正の邪悪は教訓にと、その所業を後世に残されることもありました。
闇は深く、際限なく、名は多いもの……
収穫者、光冥府のネステフ
崩壊者、業魔府のメサンドゥ
不滅の魔人フラウタとその四肢。
奈落を採掘する地虫ナーハバーン
闇の神々を媒介するハーティア
戦争差配人フレア・フレア
もちろんのこと。
悪人にも格というものがあり、特筆すべき名ものこります。
真理を求める者は神秘に行き会うように、
大道は避けては通れぬもの。
神の記憶の抹消を受けたうえでなお残る、その名は──
マシュムレド。
いまだ謡われるは、闇の救世マシュムレド。
穢れ厭う曼荼羅の獣、虚空砲斧、人心反対者、弑逆の墓崩し……。
いと高き神々が神々であることを否定し、生命が生命であることを否定し、人間そのものに反対し、冥府さえ崩そうと目論んだ神敵マシュムレド。
語るべきことは多く、されど重要ごとは一握り。
ここはすこし紙幅を割いて、かのマシュムレドの物語を記そうではありませんか。




