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不滅を狩るる ~ 終末の傭兵に二度目があったなら?→闇堕ちJK!→メクルメクク!~  作者: 六津井パラピポチ


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04「悪夢 四」




 後味の悪い仕事を終え、メテウスは帰路についた。

 上役に難癖をつけられ、殴られてしまった。


「……ぶるっ」


 とつぜん体が震える。メテウスは首を傾げた。


「……なんか悪寒が……風邪かな? 一瞬とてつもなく邪悪な気配がしたんだが……気のせいだよな?」

「呪いでも受けたんじゃないですか?」


 帰り道に同道している孤狼児ガルーが、シラっとした表情でメテウスを見つめていた。


「よりにもよって、シエドラ様に口答えするなんて……長生きできませんよ?」

「ふふっ」


 メテウスはちょっと笑うと、歩みを再開した。


「なんで笑ってるんですか?頭おかしい……」


 長生きという考えがメテウスには滑稽に感じられた。

 なんせ、一度死んだ記憶がメテウスには存在する。


 長く生きながらえたって、たかが知れている。

 確信はもてていないが、ここが過去の世界だというなら──世界は滅ぶのだ。


 我慢してなんの意味がある?という考えが抜けずに、孤狼児ガルーを苛め抜くことで恐れられるシエドラに反論してしまったが、メテウスには大して重要なこととは思えなかった。

 

 ──本当に重要なことは、もっと他にある。


「本当にわかってるんですか?

 シエドラ様は情けを知らない恐ろしい方ですよ?」


「ふん。別にいいさ。あんな爬虫類ヅラした十人長フラーブに気を使うくらいなら死んだほうがマシだろ。いちいち嫌がらせしやがって……。

 だいたい、この世には好かれるよりも嫌われたほうがまだマシって人間が大勢いる。おれはあんな人間に好かれなかったことを人として喜んでいるという面もある……人としてだな……!」


 年下の少年とは思えない可愛げゼロの言い訳に、女の子の孤狼児ガルーはジト目でメテウスの背中を見つめた。


「……いや……言ってること人としてどうかと思いますし……シエドラ様を敵にしたら死んじゃうんですが……?」


「うるせえな。どうせシエドラのヤツにおれは目をつけられていた。さっぱり敵になってくれてせいせいしたくらいだ。……おれは恨みを忘れない人間だからそれが嬉しいんだ……!」


「わー……舌なめずりしてる……。あれ?シエドラ隊長も同じようなこと言ってたの聞いたことあります……。

 『恨みを忘れない』とか……あれ?似た者同士?同族嫌悪?なる、納得……。

 図鑑で見たことあります。毒のあるトカゲって同じ部屋で飼うとちょっと毒の成分が違うだけで共食いするらしいですよ?」

「何言ってんだきさま!同じ孤狼児ガルーといえど、そんな侮辱は許さんぞ!」

「頭おかしい……」


 メテウスとて、十人長フラーブに憎まれればどうなるかくらい理解している。

 しかし、敵がいるということに奮い立たないならば、彼は人類の終末まで生き残ったりはしなかった。


「──君は余計なことをしなくてよかったのに。わたしがシエドラ様に連れていかれても、せいぜい殴られるくらいですんだのに。君は……死ななくてもすんだのに」


 後ろを歩く孤狼児ガルーの陰気な言葉を無視して、メテウスは夜道を歩いた。

 補給隊から冷めたスープとムール芋を受け取り、部隊の出払った宿舎の隅に落ち着く。外套にくるまって食べると眠気が襲い掛かる。


 目を瞑ったメテウスに悩みはない。

 どうせ滅びる世界だ。

 孤独で、孤児で、この世によすがなど一つもない。


 そして夢うつつに思いおこすのは、決まって過去のこと。

 無意味な人生を歩んだ男の記憶だった。



 ──不滅を狩るのだ。




>???


 おれは死んだ。

 死ぬときになって理解した真実は、すべてが無駄だったということだ。

 人生に対する感慨は一つしか残っていない。


 ――なにをしたって報われなかった。半生、ろくなことはなかった。


 はじまりは、わけのわからないまま悲しんだ記憶。

 冬の前の肌寒い季節だった。いまとなっては親の顔すら覚えていないが、知らない馬車に乗せられたことだけが記憶に残っている。


 おれは奴隷として売られたのだった。


 子供がたくさん集う館で、恐ろしい男どもに殴られ、酷薄なババアに飯を抜かれ、暴力と空腹が世界を支配していると教え込まれた。


 首輪をつけられ、反抗すれば苦痛を与えられる。


 この世に聖環デルムという神秘の首輪があって、着用者に苦痛や快楽を与えられる。

 お手軽に奴隷を調教するのは容易いというわけだ。


 人間を調教して道具にする儀式は子供には辛いものだった。

 いくら泣こうが殴られ、飯を減らされるだけ。

 納屋に裸で放り込まれ、神に赦しを乞うても、寒さと飢えは消えない。


 幼児の純粋な祈りに意味がなかったのなら、理由は一つだ。

 奴隷の祈りなど、人間の祈りと違って、なんの価値もなかったということだ。


 やがて恐怖と痛みに心を叩き潰されたころ、他者が自分に求めている〈道具〉という役割に徹することで、飢えや寒さから逃れられることを知った。

 外には出れなかったが、奴隷の館にはたくさん窓があって、庭の木々には、いつも小鳥がとまって歌っていた。


 外では木々や小鳥が生命を全うしているのに、人間の住まう館は昔から今まで、未来永劫、暴力の歯車が回っているということを知った。


 家に帰りたいとか、嫌だとか、そういうことを考えられなくなった頃、わけのわからないまま、小さな街で単純労働に従事していた。口減らしで売られた子供のありきたりの末路。


 小さな石造りのレブの街。

 奴隷にしては、まともに扱われたと記憶している。


 異国の血が混じっているとよく言われた。外では子供が遊び回る光景を見ながら、命じられたことをこなし、奴隷の大人が二人いる小屋で寝泊まりしていた。遊んでいる子供を見ると奇妙に胸が苦しくなる、その理由を言葉にはできないから、寝れば忘れる。そんな幼少期だった。


 奴隷は道具だ、そう教え込まれ、そういうものだと納得していたから、悲しいとか寂しいという苦しみは少なかった。満月を知らない人間は、三日月をみても欠けているとは思わない、道具以外の生き方を知らなかったおれはまだしも幸せな奴隷だったということだ。


 教育もなければ家族もいなかったが、あの街で奴隷を持つということは名士の証だったから、衣食住のどれも揃っていた。昔はずいぶん悩んだものだが、飢饉で半ば殺すために解放されたあと、世間を知ってからは得心がいった。


 口減らしの末路にしては、本当にひどい境遇というほどでもなかったのだ。

 傭兵として生き延びたことも考えると、哀れな生い立ちというわけでもないような気もする。

 どちらにせよ、過去のことはもう他人事のようにしか思い出せない。無意味な人生に無意味な過去があった、そう思い返すことがあるだけだ。


 そう……無意味だった。確信がある。苦しみも些細な喜びも、すべて無意味だった。

 あの街で、たった一つ学んだことがあった。

 人間の感情に意味などないということを実感したのだ。


 寝て仕事をすれば、すべての悲しみを忘れる生き物なのだ。きっと喜びも忘れるに違いない。己の不幸や苦しみにこだわりたい気分になるのは、そうすることが薬だと感じているからだ。薬が必要なくなればあっさり捨てるに違いない。人の感情にはさしたる意味はなく、そこにはなんの運命もない。


 鞭で打たれれば苦しみ、飴を舐めれば喜ぶ。それが人の感情だった。

 踏みつけられば苦い味がして、人を踏みつければ甘い気分になる。それが人の感情だった。

 飴玉を取り上げられれば泣きはじめ、飴玉をもらえれば感謝する。それが人の感情だった。


 甘いものに慣れると苦い味を嫌うようになる。どのような幸福も記憶にこびりついたヘドロとなって人を郷愁に誘う。幸福や愛情が、苦痛の一種だと感じ始めたのはいつからだろう?


 自分の人生経験に、一切の意味を感じなくなったのはいつからだろうか?

 昔、おれが暴力に怯えた体験にはなにも価値はなかったし、寒さに震えた子供の頃の祈りはなんの意味もなかった。


 苦しい過去に価値があると言い張る人間の意見なんて、おためごかしとしか考えられなかった。


 そのおかげだろうか、傭兵仕事で人を殺すことはおれにとって大したことではなかった。自分の人生に意味がないのに、アカの他人の命に価値など感じるわけがない。野ネズミや家畜小屋の豚が死ぬのと同じように人間はいくら死んでいると、おれは心の底から実感していた。


 ──歪んだ考えに聞こえるだろうか?しかし、そう考えるようになったおかげでおれは生き延びた。


 過去の苦しみから解放され、悩みが少なくなり、傭兵として死なずにすんだ。

 大層な理由もなければ正しいわけでもない。

 飢えないために行動して生き残っただけだ。野山をかける獣がそうするように、昆虫がそうするように、ただ生きるためだけに傭兵となって……いくらでも人を殺した。


 因果な商売だ。

 罪悪感はそりゃあったが、そんなもの、やはり寝れば忘れる程度のものだった。


 もちろん、眠ったって忘れられないこともあるものだが……


 恨みとか。


 (4000字略)




◆◆◆


略したところはそのうちどこかにまとめます。



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