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不滅を狩るる ~ 終末の傭兵に二度目があったなら?→闇堕ちJK!→メクルメクク!~  作者: 六津井パラピポチ


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03「悪夢 三」

※邪悪な敵がでてきます





>ガレアーン


「あの中から選べっていうの?」

「お嬢。指を差さないでくだせエ。見つかりやす」


 ガレアーンは隠行を深めた。

 いま発動している無属性光術第二域〈虹の衣(メラリオーン)〉は、他者の意識に馴染んで心持ち目立たなくなるという、術式としては弱い効果しかない。指を差せば、目立ってしまって効果がなくなるのだ。


 片膝を立てて丘陵に伏せている二人は戦士だった。

 眼下、灰まみれの孤狼児ガルーたちを眺めた。


「フーン……なんか、普通。何年も生きてる孤狼児ガルーっていうくらいだから、どんな強いのがいるかと思ったら、十人長フラーブに怒鳴られてびくついてる羊の群れじゃない。訓練であんな子供見たことない。あいつら、役に立つの?」


 死体を漁っている孤狼児ガルーたちを眺め、落胆しているのは、十五歳にもなっていない少女だ。金神字の刺繡の入った乳白色の外套を羽織り、掌で片頬をついている。


 傍に控える、兜禿げの側面だけを長髪にした男は、古傷に捲れた唇をまげて笑みを浮かべた。


「お嬢。うちの戦士と比べるのは酷ってものでェ」

「ロワットラ様から、じきじきに与えられた初陣よ。死んでもいい斥候役を集めろといわれたけれど、臆病者じゃ困る。ヘジケーの助言だから来たけど、集めるならせめて大人の兵隊がいいわ」


 初任務の貴人。

 その求めに、山賊じみた人相の男は片目を歪めて答えた。


「わがままを申されますな。こたびの任は試練でサァ。死に役は戦場で徴発するしかありませんが、まともな兵隊を譲らせるのはちょいと手間でえ。孤狼児ガルーくらいなら融通利くからなァ、楽なんですよォ、高望みはいけませんぜ」

「フン。わかった。あいつらから選べばいいのね……うん?なんか、もめてない?」


 もめていた。



>シエドラ


「盗んでないだろうな孤狼児ガルーども」


 栄えあるブウェイック家の戦士団、その十人長フラーブを任ぜられているマボロック家のシエドラは、孤狼児ガルーを睨んだ。


 一様に生意気な面構えをしている。

 見るからにもう反骨的な目をしたガキもいて、気分が悪くなる。

 シエドラは腹に響く胴間声で孤狼児ガルーを脅しつけた。


「盗人あがりのガキどもが!! 検査する、来い!」


 目鼻立ちの良い女の孤狼児ガルーがいたので、自分の部隊で酌でもさせようと近寄った。


「ひっ……」


 しょせん孤狼児ガルーだ。難癖をつければ、抵抗はできまい。

 しかし、怯える子供をかばうように、一人の少年が前に出る。あの反抗的な目をしたガキだ。


「勘弁してください十人長フラーブ様。盗むわけないじゃないですか!」


 死体あさりの籠を差し出した少年は、無表情でこちらを見上げてくる。

 目の奥あたりにピリリと刺激が走る。

 シエドラの鼻に皺が寄った。


「……なんだ?私がおまえに話せと、いつ命じた?」

「盗んでいないと答えただけです」

「チッ……」


 最近、とみに目障りだと感じる孤狼児ガルーだ。

 ほかのガルーは怯えた顔をしているのに、このメテウスとかいうガキは怯えた顔を見せない。


 シエドラは媚びない態度のクソガキを素直に憎んだ。

 慈悲深い私がこんなに子供を憎むようなことはめったにない、とシエドラはごちる。


 シエドラは孤狼児ガルーたちが好きだ。戦場というものは暇が多いから、シエドラは孤狼児ガルーを教育することで時間を潰すのが楽しい。

 ボロ切れを着た浮浪児あがりの子供ガキども。路地で生き残ってきただけあって、自分は強く忍耐力があると勘違いしている気の強い子供が多い。


 もちろんシエドラに言わせれば勘違いだ。


 腕力のない子供や女性など、殴ればどうとでもなると考えている。

 しつけされていない子犬が吠えるの同じで、増長させれば役立たずの出来上がり。始末するしかなくなるのだから、殴ってやる自分は愛情があるほうなのだろう。


 だいたい、しつけに失敗した子供など、生かす価値のなくなった家畜ではないか。狩猟に使えぬ犬に、鼠を捕らない猫のようなもの。本来は屠殺するほかないのだ。自分は愛情深いから、見捨てず、下等生物を殴ってしつけをしてやっている。誇りある人間としての義務なのだろう


 そんなシエドラにとって、孤狼児ガルーの監督という仕事は性にあっていた。


 たとえば、このガキ──必死に、自分は強いんだと言い張るような無表情でこちらを見上げるメテウスという孤狼児ガルー


 生意気そうなガキほど殴り飛ばしがいがあり……このメテウスというガキを見ていると、怒りで下穿きが張り詰めてくる。


 性欲ではない。そんな下等な興奮ではない。もっとプリミティブで、高尚な暴力の快楽がある。

 人を刺し殺すときに勃起しない男はいない。

 シエドラは一人前の男だ。

 一人前の男とは、人を殺したことのある男だ。


 人間を刺し殺す興奮を知らない男など、シエドラにとって男ではない。

 一人前の男でない孤狼児ガルーなどが、どうしてシエドラに逆らうのだろうか?


 弱者がシエドラに対等な顔をするのが我慢ならない。

 いつでも殴り殺せる相手を、どうやって対等な人間だと思えるのだ?

 こんな孤狼児ガルーごときに口答えされるなんて、ぜったいに見逃せることではない……。


「……十人長フラーブ様。仕事を終えたので、部隊に帰ってもいいでしょうか?」

「早く帰りたいのか?服の下になにか隠してるんじゃないか?裸になって証明しろ……! 脱げ!!」


「ひえっ⁉ 拒否します……!孤狼児ガルーだって戦士として戦っていますし、侮辱されるいわれはありません」

「それを決めるのはおまえじゃない……孤児ってのは盗み癖があるものだろうが!」

「上着を脱ぎます。それで武具を盗んでいないのは証明できます!」


 分をわきまえずシエドラに意見してくる孤狼児ガルーに、頭の血管が切れそうになった。


「小僧、口答えするな!」


 バツン!一発頬を殴ってやるが、反抗的な目をしたままだ。

 さらに拳を握りしめ、ガチン!と頬骨を殴ってやると、孤狼児ガルーは吹っ飛んで倒れた。


 なのに、すぐ立ち上がり、口元から血を流した無表情で下を向いている。

 シエドラは震えて泣き媚びる弱者の顔をみたいのに、このガキは媚びてこない。


「く……口答えをするつもりはありませんでした。十人長フラーブ様」


 憎らしい殊勝な言葉。

 目は口ほどにものを言うとはよく言ったものだ。

 メテウスという孤狼児ガルーの暗い緑の瞳には、憎悪しか映っていない。


 こんな子供ははじめてだ。

 なぜ怯えない?

 頭の血管が切れそうになる。


 昼間の基地の中だから、これ以上の制裁は難しい。

 孤狼児ガルーを統率できずに殺人沙汰の騒ぎになればシエドラの名誉が汚れる。


「盗んだという疑念を抱かせたのはこちらの落ち度です。申し訳ありませんでした。明日の戦の準備を命じられているので失礼します。では……」


 メテウスは従順に頭を下げ、立ち去った。

 少年らしい小さなぷりぷりとした尻をみせて遠ざかっていく。

 慇懃な態度など、挑発されているとしか思えない。

 いや、こちらが殴ってこないとみて、舌を出してせせら笑っているのだろう……。そうに違いない……。


 激怒で、顔が歪んでしまう。

 目の奥に刺激が走り、血管の切れたような音がする。理屈のない激発。一度怒りが滲み出すと、シエドラは自分でもなにをするかわからなくなってしまう。


 だが、軍隊では抑えなければならない。

 シエドラの家が支配する街では暴力沙汰で済んだが、戦場では安易な発散はできない。


 ──どうしてこんな屈辱を私が受けなければならない?

 やがてシエドラの脳裏には、過去うけたあらゆる屈辱がぐるぐると巡っていた。


「クソガキが……!」


 いざとなったら自分は戦える、そう思い込んでいる世間知らずのガキ。

 そういった〈妄想の中で尊厳ある自分〉を墨守している憐れな弱者を、怒声と暴力で叩きのめし、自分の真の姿に気づかせるのがシエドラは大好きだ。


 懐中のナイフを孤狼児ガルーの背に突き立てたくなる自分を必死に抑えた。

 昼間に刺し殺せば、とがめを受けるのは自分だ。

 これでは、妄想の中で人を殺してうっぷんを晴らす、あの虫けらじみた弱者たちではないか。


「クソッ……! 情けない……」


 こんなことが許されていいのか?おかしいのではないか?

 なぜ私が礼儀をわきまえないガキ一匹殺してはいけないのだ?


 そう、こんなことは間違っている。

 こんな無法が許される世は間違っている。

 不正が行われているのだ。


 自分にこんな屈辱を与えたもの。悪を許してはならない。

 私に屈辱を与える者は悪だ。

 他人が何を言おうと、法が正反対のことを言おうと、私を侮辱するものは悪なのだ。


 人には己の尊厳を守る権利がある。

 家畜のように生きることを人間だと勘違いしている弱者は知らないだろうが……己の尊厳を守るためには、人は人を殺してもよい。

 たとえ理解者などいなくとも、たった一人で尊厳を守るからこそ、人は尊厳ある人なのだ。


 神が人に良心を与えたというのなら、同じく、神は殺人を犯せるように人を創ったではないか……。


 殺人こそ人の最後の自由であり尊厳である。

 それは他殺だけでなく、自死を含む。自分を殺せるからこそ他人を殺せるのだ。


 稀に病にかかったり、戦で手足を失った人間が、尊厳ある死がほしいと泣き言を喚く姿を目にするが、シエドラにとってはお笑い草だ。

 自分で死ぬこともできない生まれながらの家畜には、未来永劫、尊厳など生まれないであろう。


 シエドラは人を殺してはじめて尊厳を得た。

 ゆえにシエドラにとって殺人は正しい。


 なにが悪い?私は神の法に反していないというのに……なぜこのような理不尽があるのだ?

 なぜあのガキを殺してはならない?

 あの思いあがった小僧をどうすればいいだろうか?


「畜生……馬鹿にしやがって……!」


 シエドラは一つの決断を下した。

 シエドラは十人長フラーブだ。

 子供が口答えできるような軽い立場ではない。


 戦士のみが戦力として数えられるという古い慣習のもと、十人長フラーブは十人を束ねる隊長格ということで、それぞれの戦士が連れてくる郎党を合わせると100人から200人の兵隊を束ねる。時には千人も。だれもが一目置く名士だ。侮られることなどめったにない。


「舐めやがって……クソガキが……!

 必ず後悔させてやる!

 ──私は恨みだけは忘れたことがないんだ!」


 必ず殺す。だが、殺すだけで済ませていいはずはない。

 軍隊には裏の道というものがある。娼婦よりもそこらの村の少年がいいという趣味の悪い男もいるし、シエドラも心得がないではない。生意気だが顔だけは整った少年だ、集まる好事家もいるだろう。同好の士を集めて、あのクソガキを嬲り殺しにしてやる……


 ──報復を祝福しない神などいない。天は我に味方するだろう。


 ──闘神スモルクよ、赤き春の守護者、二つ目の戦神よ、見ていてくれ!

 私はこの復讐を成し遂げて見せる!!


 シエドラは胸のうちに熱い誓いを立てた。



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