23「決戦兵器! 五」
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「どういう状況?これ……」
すぴー、すぴーと眠る子供を遠巻きに見守り、石を積み上げ胸壁を築き上げていた二人は、ガレアーンの声に安堵した。
「よかった、帰ってきたのか!」
「遅いぞ!なんとか守り切ってみせたが……!」
死闘を繰り広げているときに味方が来た……!みたいな二人に、怪訝な色をみせた一行は、呪い子の縄がとけていることに気が付く。
「目隠しをとって……起こしたのか?」
グノークスの低い声に、ついカッときたヤトリムはすぐに自分を抑えた。
しかし傍らの少年は、勢いそのままに怒鳴る。
「『起こしたのか?』だ……?
おまえら能無しが呑気に戦ってるうちに本丸が襲われて、その騒動で勝手に目覚めたんだよ!戦狂いの色情狂どもめ……! 死ぬところだった……!」
「お、おいメテウス。まずいぞ、お貴族様に向かって……」
「うるさい! ぐるる……」
喉から獣じみた唸り声を出すメテウスに、グノークスは片眉を曲げた。
「そう猛るな──」
「うっ」
どさっ。
神速の手刀であった。下仕えの孤狼児などと議論する気のないグノークスが目視できぬ速さでメテウスの意識を刈り取ったのだ。
「なにがあったか、説明してくれ」
「へ、へい!」
◆
>ガルレア
経緯を理解したガレアーンは頭に血が昇り、ヘジケーを連れて座り込んだ。
腹いせに巨木を切り倒して即席のベンチとし、いらだたし気に膝を叩いている。
「勝手しやがって……!」
「お嬢、こらえンさい。坊主とヤトリムに過失はありませんぜ。土台、あんな呪い子なんか押し付けた上がまともじゃネンダワ」
「それでもやるしかないでしょうが!」
「へっ。なるにようしかなりやせンワ。お嬢はもっと肩の力を抜かなくちゃなァ、あの二人をみてみろよォ、なーんも考えてネェ」
ガレアーンは川辺を藪睨みした
荷運びの魔獣調教師と、下働き代わりの孤狼児が焚火をつついている。
傍らでは異形の使役魔獣が足を広げて川面の上に広がり、その長い足で器用に魚をはじいて岸へ放り投げている。
きゃっきゃっと笑いあう男二人は、魚の内臓を穿り出しては枝にぶっさして焚火にかかげ、すごく楽し気だ。
「これはキャンプじゃないのに……」
ガレアーンはひどく羨ましくなった。
初陣を失敗できない自分と違って、二人に義務はないのだ。
「いいぞエリーゼちゃん! モグリアユだ! 土に隠れてる魚を狙え!」
「おまえの盲車蜘蛛ほんと便利な」
「だルォ? 羨ましいか、そうか!」
「いや、そうでもないかな……夜に寝るときとか食われそうでめっちゃ怖いし……見た目が異界の存在なんだよな……ある日いきなり捕食してきそうな顔してるよエリーゼちゃん……」
能天気すぎる二人の話は端で聞いているだけで気力が抜けてくるものだった。
ガレアーンは掌で顔を覆い、疲労感をとることに集中した。
「偏見だ!差別だぞ!エリーゼちゃんには人と同じで心があるんだ!見た目で判断するなんて、ひどいだろうが!」
「それは無理筋だろ……いやね、一万歩ゆずってもさぁ……見た目で判断するなとか言ってるやつって全員梅毒にかかってそうじゃん?まともな人間がそんなたわごと言ってるの一回も聞いたことねえんだよな……どうかんがえても人間を見た目で判断しないやつは単なる馬鹿だろ」
「なんてことを言うんだ……!本当になんてことを!じゃあエリーゼちゃんが見た目で権利を奪われ迫害されてもいいってのか!?」
ガクリ。太ももについた肘がカクンと抜けて、ガレアーンは姿勢を崩した。
〈盲車蜘蛛〉の人権を主張する馬鹿のことを、頭から追い出す。
なんとか怒りを抑え、休息に集中する。
「迫害っていうか……腹が空いたら人間を食うっていう実害があるっていうかぁ」
「冤罪だ!食わないようしつけてる、おまえみたいな差別主義者がいるから、エリーゼちゃんは街じゃ悲鳴ばっかりあげられるんだ……!?」
「おまえ〈盲車蜘蛛〉をそのへんの使役魔獣扱いで街を歩かせてるのか!? 常識とかないのか?」
「テメェに言われたかねえわ!!!」
チラとうずめた膝から盗み見る。
焼けた魚をガードする男と、慌てた銀髪の少年がいる。
──戦場でこいつらはなにをやってるの……。
「クソガキ、おまえに魚はやらねえからな!!」
「それは卑怯だろうが!!
うーん……あらためて倫理的に考え直すと、見た目で人を判断するってひどいことだな。人は生まれ持った見た目で判断されるべきではないんだ。多少奇抜でも自己表現やファッションは尊重されるべきなんだ。それにエリーゼちゃんも一時間くらい見てたらマニア受けしそうな良さがあるし、街に入れるべきだと思う。だから魚くれよ……」
「なんだその話の方向転換は……おまえに信念はないのか」
「ないんだよ!マジで全くない!だからさぁ!おれたちはもう生きるも死ぬも一緒なんだ!魚くらい分けてくれ!」
「チッ。しかたねえなぁ……でもよ坊主、次があったらいきなり投げ輪で俺の足を引っかけるんじゃないぞ?ほんとびっくりしたわ。フリじゃないからな?次は刃物がでてくるぞ?」
「おれを置き去りにしなければそんなことにはならない。安心してくれ」
「安心できねえ……なんて目つきをしているんだよ、このガキはよ……」
ついにガレアーンはがばりと目を開き、ヘジケーへ問いかける。
「……あいつら、役に立つと思う?」
「お嬢。人間ってのは逆らわないうちは使い道があるもんですぜ。いくら能天気なドグサレでも、使いどころによっちゃ、まともな人間より使えるんです。雑草には生命力がありますからナァ」
「はぁ……落ち着いたら、喉が渇いてきたわ」
「おう、用意させますわ」
ヘジケーが小石を拾い上げ、子供を狙って投げつけた。
「!?」
やはり油断しているように見えてもエーテルを密かに熾し、警戒を続けていた子供は、背筋を反らせてヘジケーの石弾を交わす。
「うぉい!なんだ!?」
「茶を用意しろ!!言われなくてもやるのがテメェの仕事だろうが!!!」
「し、知るかよ……昨日つくったタンポポ茶でいいか?」
「お嬢になんてモン飲ませるつもりだ!!! 茶葉がある、それを使え!!!」
「わかったよ……」
やがて茶と焼き魚に全員が集まり、休息をかねた作戦会議がはじまる。
「物見がてら直線20レードあたりまで、敵の斥候を排除したわ。警戒しているでしょうけれど、グノークス叔父様が攪乱してくれたから、どこが狙われているか的も絞れていないはず。グルツカ川まですぐに動けば、大きな反撃はないでしょうね。だれか、意見は?」
メテウスは手を上げた。
「強いエーテルを監視するっていう、沈黙鳥〈デンダー〉はどうなってます?」
「何匹か倒したけど、警戒用の魔獣を避けるのは不可能よ。ある程度の敵は飲み込み済みで動くしかないわ」
「やはり囮役が必要なんですか……?」
悲しい声である。
「安心なさい。呪い子を置いてすぐ逃げるだけだから、囮は使わない」
ホッとしたメテウス。
大男のグノークスが、威圧しないためか柔和な笑みを浮かべて口を開いた。
「呪い子が目覚めたのだろう?呪輪兵器を失う危険は冒せない。大人しく運ばれてくれるか、確かめねばならん」
「たしかに」
場に静寂が満ちる。
「だれかが呪い子と交渉しなければならんな」
「たしかに……」
ふたたび場に静寂が満ちる。
メテウスは川面をみながら、焼いたモグリ鮎をもくもくと食べていた。
……ほかの意見がでていない。だれにもアイデアがないのだろう。
……こいつらに建設的な意見など出せないのだろうな、蛮族どもめ。
メテウスはふぅと息を抜いて、無言が続く時間に不審に思い、チラと目を向けた。
「──ヒッ」
目が。
全員が、メテウスを凝視していた。
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