表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不滅を狩るる ~ 終末の傭兵に二度目があったなら?→闇堕ちJK!→メクルメクク!~  作者: 六津井パラピポチ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/26

19「決戦兵器! 一」




 ――この世界は言語の違いあれど、人類に共通して「ビノ」と呼ばれている。その短い名には由来があって、「新しい世界」を意味する古語なのだそうだ。


 陸の過半を占める大陸は、世界が一つ大陸で完結していた名残として「ビノ大陸」と呼ばれていた。

 ビノ大陸の西南には広大な平野が広がっている。その豊かな穀物地帯を支配するアペイロン王国を北上すると、横に長い楕円の内海ベルレーシ海に出くわす。


 ベルレーシ海は地政学では緋海と呼ばれ、交易と富をもたらし、たびたび戦争の舞台となった。

 超大国アペイロン王国を中心とするルフ人文化圏が及ぶ範囲はベルレーシ海の西半までであり、海賊や山賊の隠れ場所がいくらでもあるという沿岸を東回りにするか、内海を船で渡ると、大陸極北への道を阻む聖なるピレー山が現れる。


 ピレー山がみえたら、そこはもう恐ろしい蛮族の支配する土地である。

 バロート。

 穀物の育たぬ白砂の大地。


 このバロート人なる蛮族がどれくらい野蛮かと言うと、呪物を爆弾として投擲するために愛らしい子供を利用して当たり前の顔をしているくらいである。


 ちなみにその愛らしい子供とはおれのことだ。悲しい。




 早朝の外気は肺が痛くなるほど冷たかった。

 遠景には青い空と白い山脈ばかりが続く。短い夏と長い冬の隙間、ピレー山からくだってくる冷気は、バロート人に死神の到来を感じさせる。

 宿舎を抜け出し、待ち合わせ場所へ向かったメテウスは、道すがら少女の作戦を再考していく。


 たしか──神族製の兵器が置いてある基地に、呪輪兵器を仕掛ける、って言ってたな。呪輪兵器なんて、時代遅れの代物がでてくるとは……。


 呪輪兵器。超常事象をそのまま軍事兵器として転用する際に指してそう呼ばれる。固有名詞ではないが、種類はそう多くない。


 たとえば、僻地で祀られる偽神の宿る御神体。

 悪夢のような呪物や、得体のしれぬ古代の遺物。精霊事象の災厄。

 そして、神秘の暴走で人を害する呪い子(ハラー)


 人を呪わば穴二つ、という至言はいつだって正しい。呪輪兵器と称され戦争に使われるそれらの呪物は、制御に成功しようとも自軍の兵士も死ぬと考えてよい。使用者を害することもある。無差別に呪いの輪が広がる。呪輪兵器とはよくいったものだった。


「呪いに巻き込まれるのだけは避けなくちゃな……」


 白い息を吐きつつ、待ち合わせ場所に到着した。

 ガレアーンとヘジケーの主従が先に丸太に座っていて、じろっとメテウスを睨んでくる。

 しばらく無言で向き合う。

 バチバチと弾け合って視線が交錯する……。


 ──なに睨んでるんだ、こいつら?


 メテウスは瞬き、ハッとした。

 これは威嚇だ。

 こいつらは、動物がそうするように威嚇が有用な精神性で生きている下等な人もどきだから、とりあえず威嚇しているのだ。いみじくも人間様に生まれたのなら、もっと言葉とか身振りを使って威嚇するものだろう。ヤクザ者ですらそうする、傭兵だってそうする。


 ──朝から見たくない光景だぜ、蛮族どもめ。

 メテウスは落胆した。川には命の銀陰が躍り、頭だけをみせはじめた光輪は世界を隅々まで照らし暖めているのに、バロート人は本能的に猿にも似た行動を繰り返している。


 ――だんだん、こいつらの考えていることがわかるようになってきた自分が恐ろしい。


 いつまでも黙っているメテウスに根負けしたのか、ヘジケーが強面を歪ませ、ぺっと唾を吐いた。


「おう坊主、お嬢に挨拶くらいしねえか。それにしても朝からクソ陰気なツラしてやがって。運気が下がりそうだ」

「……どもっす」


 ぺこり。

 メテウスは10度~15度くらい首を折り畳んでみせた。


「ロワットラ様の天幕に行くわよ。死にたくなかったら黙ってなさい。

 ……それにしてももうちょっと明るい顔できないの?」


「……にこっ」

「不気味……お面みたい。笑うのやめてくれないかな?」


 ──この女。

 反論しても無意味だ。メテウスは粛々と二人に続いた。


 基地の最奥には天幕の立ち並ぶ一角があって、奥にゆくほど哨戒兵が多くなり、厳重な警戒態勢が敷かれていた。

 警備しているのはロワットラ直属の戦士団であり、メテウスのような孤狼児ガルーをみたら反射的に殺しそうな面構えをしている。エリート蛮族だ。


 ガレアーンとヘジケーに宿る血筋の神通力で呼び止められはしないが、陣立ては複雑になり迷路の様相を呈していく。外部の暗殺者は、哨戒する戦士をいくら殺そうとも陣立ての迷路をなぎ倒していかないと目的に到達できない仕組みだ。そしてメテウスはいざとなったら逃げるつもりだったので、逃げ場所がなくなっていく袋の鼠の気分で怯えていた。


 道すがら、佇む一人の戦士が声をかけてきた。


「ガレア、来たか」

「おじ様!」


 ガレアーンがぱっと顔を明るくして、声をかけてきた男に駆け寄る。

 40がらみの戦士だ。男臭く陽性の笑顔をしている。漆黒の軍装を着こんでいて、蓄えた黒髪と繋がった豊かな髭を伸ばした伊達男だった


 メテウスは手入れされた髭を内心で褒めた。

 傭兵時代も、髭を小さな三つ編みにしたのを何本も無造作に伸ばしたような男は、実力と関係なく髭だけでなんとなく一目置かれていたものだ。髪型をいじくって鏡をみるような男は女々しい軟弱者だが、髭を適当な三つ編みにしている益荒男はなんとなくお洒落な気がしてしまう。おそらく錯覚だった。


 ――髭はまずまずだが──気に入らない顔つきだな。


 初陣の少女を激励にきたのだろうか、円熟した笑みを浮かべる男と、ガレアーンは旧知のようで話に華を咲かせている。

 メテウスが険しい目で眺めていると、ヘジケーがぼそりと呟く。


「じろじろ見るな。ハヴォック家当主の弟君にあらせられる。グノークス様だ。おまえみたいな、勝手に自生するどてかぼちゃ崩れとは生まれが違う。どぶネズミがよ。無礼を働くなよ」

「……頼まれたって、関わらねえよ」

「へぇ?」


 ガレアーンは頬を紅潮させている。憧れの相手なのかもしれない。

 とにかくあの男は気に入らない。

 談笑する二人を眺めていると、居心地悪そうに周囲を見回す一人の小柄な男が近寄ってきた。


「旦那。あっしは冒険家のヤトリムという者です。恐れ多くもブウェイック家からのご依頼で、荷運びとしてまいりました。かれこれ此処で小一時間ほど放置されております。旦那に聞いてよいかわかりやせんが、あっしは中に入っていいんでしょうかねえ?」


 ヤトリムと名乗った男が、ヘジケーにへつらい笑いをしながら問いかけた。背が低く、がっちりとした体格をしている。

 小物っぽい笑みを浮かべているが、その笑みが本心でないことは一目瞭然である。だがヘジケーは気にしていないようだ。わきまえた笑みを浮かべているということが重要なのだろう。


「ふむ。荷運びの冒険家をわざわざ呼んだのだから、作戦を聞いたほうがいいだろォ。俺たちと一緒に入れヤ」

「ありがてえ。バロートのお貴族様と口を聞く機会なんて滅多になくって、粗相をしたら首が飛ぶんじゃねえかとヒヤヒヤしてたんで」


 そうして三人で手持無沙汰に待った。

 やがて合図でもあったのか、談笑しているガレアーンたちが横長の大天幕に近づいていくので、ついていく。


 馬の足止めが乱杭歯のように屹立するのを半身になって交わしつつ、一面をとっぱらわれ半ば広場のようになった大天幕へ入室した。


 大天幕の中に人影は少なかった。

 角杯が散乱し、軍議が終わったあとだとわかる。

 そのなかにメテウスの目が吸い寄せられる、異彩を放つ一角があった。


「あれ、なんだ……?」

「見るからに呪い子(ハラー)だろォ? あれが持っていく呪輪兵器ってこった」


 樽に乗せられた白髪の子供がいる。意識はないようだ。

 まだ五歳かそこら、成長の遅い子供としても八歳にもなっていないだろう。

 罪人が着るような麻の貫頭衣にすっぽりと体を隠し、目隠しをされ後ろ手に縛られていた。


「おや、おやおや? お役目に励んでいるようだな。推薦した私も誇らしい!」

「……ッ! クソ、なんであいつが……!」


 陰険な目をした男が愉快そうに笑っている。

 なんと十人長フラーブシエドラだった。ねじり髭をした男は蛇か蜥蜴の顔つきをしていて、どうみても人情を生まれながらに持っていなさそうだ。メテウスが猜疑心に塗れた目で凝視するが、シエドラは満面の笑みでメテウスにうなずいてみせた。嫌な予感しかしない。


「来たか、ガレア。全員そろっているな? おまえたちに任を言い渡す」

「は……」


 肝心のロワットラは不機嫌オーラを周囲に放射していた。

 大机に脚を投げ出し半ば瞑目しているロワットラは、もはやヤクザ者のボスみたいだ。灰にも銀にも光る高価そうな毛皮を羽織り、腹で手を組み周囲を威圧しまくっている。

 藪睨みをしているのに、怖いのでこちらが悪い気がして目をそらしてしまう。

 裏社会に放り込めば瞬く間に重鎮に駆け上がりそうな暴力のオーラを纏っている女……いや、こいつはこのあたりで最強のヤクザ者なのか?軍隊を持っているヤクザ者のことを領主と呼ぶのか?メテウスは逆転の発想で真実に気づきかけた。


「全員聞いておけ。

 レナツァイト家との決戦は昼頃になるだろう。

 あちらは逃げ込む都市があるから、決着はすぐにはつかん。


 戦がはじまったら、おまえたちは出発し、夜闇に紛れてドルツカに築かれた敵の要塞へ呪い子(ハラー)を置いてこい。基地の破壊を確認したら、呪い子(ハラー)を回収して戻ってくる。それだけだ。

 シンプルな作戦だが不測の事態はいくらでもあるだろう。

 対応できる人選をしたつもりだ。


 ハヴォックのガルゥジン・レア(狼のようなレア)、おまえの初陣だ。指揮をとれ。雇った孤狼児ガルーを手ごまにするとよい。


 貴重な呪い子(ハラー)を失わないために、グノークス殿とヘジケーが補佐につく。

 そして呪い子(ハラー)を運ぶために、荷運びの冒険家を呼んでおいた。大型の使役魔獣を持っているから、それにくくりつけて運べ。名は……なんといったか?」


「よ、四等星冒険家のヤトリムというモンです。

 仕事が呪い子(ハラー)の輸送とは想定外でしたが、俺の可愛い〈盲車蜘蛛〈フィナクア〉〉なら問題ないでしょうぜ。へへっ。いやあ、やけに金払いの良い運びの仕事だと思ったら、こういうことでしたか。へ、へへっ……」


 ひきつった笑みを浮かべるヤトリムという冒険家にメテウスは同情した。

 冒険家とは、魔獣の領域を開拓する職業だ。〈異界〉や〈伽藍領域〉に侵入して、希少な物資をもぎとることで生計を立てる高給取りであり、魔獣を専門に殺傷して、開拓者の土地を切り開く。その特異性から人間界の戦争に関わる人種ではない。


 おそらくヤトリムは報酬に釣られて運び屋としての仕事を受けたのだろう。それがたまたまガチの軍事兵器の輸送だったという強烈なトラップに引っかかったのだ。哀れすぎる。


「うん?なんだその半端者の笑みは。無意味に笑う男などだれも信用しない。覚悟を決めろ。戦場の仕事という時点である程度は予測ができていたんだろうが。

 なにか疑念があるなら、いまのうちに聞いておいてやるが」


 ロワットラは頑丈そうな椅子に背を預け、顎だけでヤトリムに指図する。気性の荒い大型のネコ科動物みたいだ。へつらい笑みを浮かべるヤトリムと対象的であった。


「では、お言葉に甘えて。いと尊きブウェイック家の方々が、どうして外様のあっしを雇われたんで? 戦力なんていくらでもあるでしょうに、わざわざ雇われた理由をお聞かせて願いてえ」


 ヤトリムは、あの罠にかかった人間がなんとか希望を見出そうとするときの集中力を発揮して声の震えを隠していた。

 メテウスはひっそり菩薩の笑みを浮かべた。

 いざとなったら殺せるあとくされのない使い捨て人間として雇われたに違いない。

 使い捨て人間Aのメテウスは、共感に満ちた瞳で使い捨てBをみつめた。


「勘ぐるな。戦の都合にすぎない。

 呪い子(ハラー)に怯えない使役魔獣の数は少ないし、家の魔獣調教師を動して間諜に痛い腹を嗅ぎつけられるわけにはいかなかった。少数精鋭の工作作戦では、警報一つが直接死に繋がってしまうからな。

 その点、おまえはバロートで荷運びをやってきた実績のある冒険家だ。戦に呼んでも、要人を運ぶだけだと推察される。わかったか?」


「……。……………………。へぇ、委細承知いたしました」

「そんな顔をするな。〈闘神スモルク〉に誓ってやる、始末されることを警戒しているなら的外れだ」


 そうしてヤトリムという、在野の腕利き冒険家は軍事兵器を運ぶことになった。

 己の命の重さが羽根に近いと察したヤトリムは、あらゆる文句をこらえ真剣な顔で話に聞き入っている。

 そのうしろでメテウスは使い捨て仲間ができた喜びをかみしめて邪悪な笑みを浮かべていた。


「それにな冒険家。仮にもバロート戦士とあろうものが、戦で部外者をあてにはしない。本当に危ないことはそこの孤狼児ガルーにやらせる予定だと聞いている……だから安心しろ」


 微笑みを浮かべていたメテウスはヒョッと息を吐き、目を見開いて周りを見回した。

 みな、うんと小さく頷いている。当然のことだと考えているのだ。

 呪い子(ハラー)の縄を握ったシエドラは、爬虫類ヅラに静かなアルカイックスマイルを浮かべて、メテウスをみつめていた。復讐心が満たされているようだ。


 ここにメテウスの命を気にかけている人間は、メテウスしかいない。


 皮肉にもヤトリムだけが同情を顔に宿していた。



 そのあとの説明は主にメテウスとヤトリムの背筋を凍らせつづけた。


「フゥギ、こいつらに呪い子(ハラー)の扱いを説明してやれ」

「ハッ」


 一同の前に進み出たのは、明るい青髪をした妙齢の女である。30歳かそこらの年で有能そうだ。

 妙に小綺麗な服を着ているため、軍人にはみえなかった。


 フゥギは樽に乗せられていた子供に近づいた。


「我々はこれを〈竜血の触主〉と呼んでいます」 


 子供の首元を掴んだかと思うと、貫頭衣を引き下げた。

 子供の右肩には、焼き印のような複雑な文様が刻まれている。

 メテウスは思わずつぶやく。


「──恩寵者か?」

「神々の使徒じゃねえか、大丈夫なのか、こんな扱いをして」


 ヤトリムもつづいて呟いたが、フゥギは生真面目な口調で説明をはじめた。


「あまり市井には知られていませんが、呪い子(ハラー)とは恩寵者の一種です。

 火神の祝福を受けたとしても、頭が狂い、視界に入った人間をすべて燃やす災害になることもある。


 ちなたでは優しい帳の神として知られる〈大殺石に座す翡翠神〈グエンズオ〉〉は、また別の顔として暗殺者の庇護者でもあります。恐れ多くもグエンズオの寵愛を受けた者は、生涯を通して無関係な人間の暗殺を義務とされるがゆえ、呪い子(ハラー)として処理されることもある。


 神々の祝福と呪いの区別は難しく、ゆえに人の行いで峻別されます。

 もうおわかりですね、人に災いをもたらす恩寵者のことを呪い子(ハラー)と呼び、禁忌として名付けることで、人は神々の使徒を抹殺する恐怖に耐えるものなのです」


 ……そんな話、聞いたことがないぞ?

 ガレアーンやヘジケーさえも瞠目していたが、ロワットラやグノークスは静かに目を細めていた。

 ちょっと知識ある人間には常識なのかもしれない。


 目隠しをされ、白い貫頭衣を着せられた、土に汚れた小さな子供。

 なるほど、呪い子(ハラー)ならば当たり前の扱いだが、神々の寵愛を受けた恩寵者として考えれば、このような扱いをするだけで神聖を冒していて恐ろしい。

 呪い子(ハラー)というものは、つまるところ記号化だ。災厄というスタンプ。その記号化があまりに現実に即していたため、呪い子(ハラー)という観念は現実のものとなっているのだろう。


「〈これ〉を、けっして人間だと考えてはなりません。目の覆いをとってはなりません、見ただけで呪われる危険があります。薬で眠らせてありますが、なにせ強い薬を子供の体に入れたので、輸送の途中で呼吸を止めるかもしれません。その場合は作戦失敗として、速やかに投棄して5レードは離れて様子をうかがってください」


 ガレアーンが生真面目に質問を行う。


「敵に奪われる前に処分しなくていいのでしょうか?」

「絶対に刺激しないでください。〈竜血の触主〉は、確認されているだけでも二千人にくだらない命を食らっています。


 この呪い子(ハラー)は完全な死を迎える直前に、溜め込んだ呪いで周りの命を食らって欠損を補填します。

 その性質がゆえ、〈呪輪兵器〉としては一等の価値がある。


 幸い、直接殺傷した相手を呪い殺す性質はありませんから、敵の基地で殺害したあと、速やかに逃げて経過を見守ってください。騒ぎが収まったあと、敵に発見される前に回収するのが理想ですが、もしも熟達の犬追い部隊から逃げ切れないとなったら、もう一度呪い子(ハラー)を発動させてください。敵に奪われることや、紛失されることを第一に避けて行動をお願いします」


 ヘジケーがぼそっと呟く。


「死んでも蘇るってェ……〈不滅者〉なのか?」

「この呪い子、何歳に見えます?」

「五歳か……そこらへんか?」


「我々が実験を開始したとき、虐待の痕跡の残る十五歳ほどの少女でした。実験が進むにつれ、溜め込む命が足りなければ、体を小さく幼くして元に戻ることが判明しました。死を覆して命を食らうという性質上、足りない命の対価をどこかで支払っているのでしょう。犠牲者のでない場所で何度か殺せば真の死を迎えます。けっして不滅ではありません」


「それを聞いて安心したよォ。あんた胡散臭いからなァ。不滅者なんて、俺ァ一度みたことがあるが、人間がかかわっていいもんじゃねェ」

「ご安心ください。我々の活動はご当主様の認可を受けています。すくなくとも〈水底の炎のネディディブ〉の二の舞になるようなことには、さすがに手を出しません」


「……えぇ?」


 これ俺が聞いてもいいの?みたいな不安になり、横を見るとヤトリムが焦燥感のある目でチラチラ周りを警戒している。目と目が合う。瞬間、化物の群れに放り込まれた二匹の子犬みたいな目で見つめ合い、小さくうなずいた。


 なんせ、飛び出してきた名が〈水底の炎のネディディブ〉だ。


 我々の大地は寝転んだ三日月の形状をしているが、大昔はその上部にも大地があったらしい。らしいというのは、伝説では〈水底の炎のネディディブ〉として知られる呪い子(ハラー)がなんやかんや破壊し、そこに水が流れ込み、現在の形になったのだとか。創世神話みたいなノリだがおそらく実話とされている。


 ――要するにおれは辺境のド田舎でひっそり製造されている、人類虐殺爆弾の実験につきあわされていることに今更気づいたのだった。



 戦のはじまる昼を待って一行は出発することに決まった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ