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不滅を狩るる ~ 終末の傭兵に二度目があったなら?→闇堕ちJK!→メクルメクク!~  作者: 六津井パラピポチ


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16「悪夢 十六」



 ◆


「敵の前線を超えるなら、夜を待ってからのほうがいいんじゃないか? 危ないし…」

「なに寝ぼけたこと言ってるの?明日にはレナツァイト家との決戦が始まるのよ?バカ?ちょん切られたい?」


 真顔である。

 メテウスはちょん切られたくなかったのでしぶしぶ同意した。

 戦時の前線というものは神経を剥きだしにした傷跡のようなもので、不用意に近づけば敵に殺されるというのがメテウスの常識だが、お嬢様の意見は違うようだ。


 いかんともすればちょん切られるとしても手足のことだと信じたい気持ちで頭をいっぱいにし、猟犬を気にして川を渡ること四度、無事に基地へと生還することができた。


「明日も同じ集合場所ね。日が出る頃に来なさい。念のため言っておくけど逃げたら殺されるわよ、これは冗談じゃないわ」

「……はい」


 ……さっきのは冗談だったのかよ、わかりづれえ。


 粗末な旅装を脱ぎ、軍装を着込みつつガレアーンは立ち去った。ちょっとした散歩に行ってきたノリだ。メテウスとは違う。


 日はもう暮れている。

 夜警以外の兵隊は娼婦の天幕にいったり、洗濯女を口説いたり、酒盛りをはじめていた。メテウスは部隊の小屋に戻り、眠ろうとしたが……。


「くせえ!野良犬!」

「血を流してるなら外で寝ろ!」

「けがらわしい孤狼児ガルー! 蠅みたいに無意味に死ね!!!」


「そこまで言うか……!」


 ジェットスクリーム罵倒を浴びせられたメテウスは、己のうちに芽生えていた仲間意識がみるみる減少するのを感じた。そして自分の服を嗅いで顔をしかめる。たしかに。興奮ですっかり忘れていたが、血まみれだった。


「おう!帰ったのかメテウス。どうだ、心配していたほど危険じゃなかったろう?」

「最悪でした。どうやらおれは死ぬ予定だったようです」

「大げさだなぁ」


「明日も連れ回されます。遺書には恨み言をしっかり書いておくので読んでくださいね……」

「なんて目をしやがる。そんな呪物は燃やして灰は埋めるから安心しろ! ブフゥ! ったく羨ましいぜ、ご令嬢と秘密の作戦なんてよ!ガハハ!」


 目元を赤らめたアブヒムは明らかに酔っている。メテウスは目をかっぴらき、じっとりとアブヒムを見つめた。


「……本当にそう思ってますか?」


 狐憑きのような目つきである。だがアブヒムはにっこり笑った。


「大丈夫だ、もしものときは駆けつけて助けてやピューイ

 ピュピュー ピュッ ピ ピュピュピューイ」


 口笛で演奏をはじめたアブヒムは責任を一切感じていない。


 ……そりゃそうだよな、他人が死ぬ目にあってるなんて話、気持ちよく酔える酒の肴だ……。だれだってそうする、おれだってそうする。


 メテウスは「悪意がないだけマシかもしれない」と自分に言い聞かせつつ、水浴びのために小屋を出た。


 追い出された恨みをちょっとだけ抱きながら、メテウスは基地のある一角を目指す。


 水浴びをしたいといっても、兵隊の集う川や井戸を使うのはリスクがともなう。だから孤狼児ガルーたちの寝床を目指す。

 普通の孤狼児ガルーは、基地に居場所を与えられ、子供ばかりで過ごし雑用をこなしていた。

 寝る場所が用意されているのは、各部隊に孤狼児ガルーの世話を任せれば数割が戦の前に死ぬからだ。


 ただでさえ好戦的なバロート人。そのなかでも血の気の多い若者や暴れ者が選んで兵隊になるのだから、孤児などナイフの的当てに使う人間も一定数いる。

 これは軍隊で格段に子供の扱いが悪いわけではなく、縁のない盗人あがりの子供など、戦乱の世では愛らしい犬猫よりちょっと下の生き物として扱われるのが普通だ。


 だから〈狼小屋〉のような施設が必ずあった。

 兵隊は近づくなとお達しがでていて、あえて逆らって軍規違反で鞭打ちになりたがる奇特な人間がいないかぎり、安全だ。度胸試しに忍び込んで犯しに来る兵隊もいるが、荒んだ子供たちに普通に死ぬまでリンチされるのであまり多くない。


 この施設は、孤狼児ガルーを無暗に死なせないために──という建前がある。


「いやでも戦でほとんど死ぬし……孤狼児ガルー、ぜったい口減べらしのための慣習だろ……やはり陰謀論の半分は真実なんだ……地底人もいるんだ……」


 メテウスは、『世の陰謀論呼ばわりされているヨタ話のうち五割くらいは真実だし地底人は我々を狙っている説』を唱えつつ、〈狼小山〉へ入った。


 杭と縄で仕切られた端っこの区画。

 四角張った建造物がたたずんでいる。

 ここまでくると子供ばかりだ。


 他国の観戦武官からすると、野蛮人が孤児を始末しているようにしかみえない孤狼児ガルーは、しかし戦神信仰の色濃いバロートにおいて決して蔑まれる存在ではない。大切にされる存在でもない。


 水場もあり、食材も荷車に山盛りになって置いてある。

 勝手に食って勝手に戦え!という上層部の本音が透けて見える。


 昔はメテウスもお世話になっていた。

 薪割りに洗濯。遊びたい盛りの子供が大人のような無表情で雑用をこなしている。

 入れ替わりが激しいため、知らない子供が多かった。

 顔見知りを探す。


 雀の丸焼きや鼠の蒲焼きを不味そうに食っているのは、支給された品に飽きて孤児時代に覚えた食べものをなんとなく食べているのだろう。木をほじくって甲虫の幼虫の頭をとって食い、皮を吐き出す農村出身の子供が度胸試しに仲間に食わせようとしている。


 野良犬や野良猫を焼いて食ってるのは見かけない。犬猫は都市にいけば捨てられたものがいくらでも野生化しているので孤児が物陰で食っていることもあるが、基地には野良犬は少ないし、猫も鼠をとるために飼われていてかわいがっている兵隊たちから報復を受ける。猟犬の練習台として逆に食われる可能性すらある。


 酒を飲みながら興奮したように飯にがっついているやつもいれば、生き残るために槍や剣の訓練をしている者もいる。険のある顔の荒んだ子供ばかり。ほとんどが人殺しを体験していて、仲間が死ぬのを見ている。煙草をくわえてナイフを研ぐ剣呑な子供に、メテウスもすこし恐怖を覚える。


「なんて光景だ……孤狼児ガルーどもに心を許しちゃいけないな……」


 メテウスはあまり同情深くはない。

 孤児がそこらの犯罪者よりも簡単に人を殺すことを理解しているから警戒心が強い。


 メテウスは子供に一切の幻想を持っていない。


 傭兵時代にみた子供の半分は、親しか愛さない蹴り殺したくなるクソガキばかり、のこり半分の子供が逆にとても素直で愛らしいだけに、その違いは目について残酷である。豊かな農村や富裕層の多い都市部では素直な子供が多くなり、逆にいくと傭兵仲間が蹴り殺してしまうような子供が多くなる。そして孤狼児ガルーともなると、全員が人殺しの盗人。もはやスラム街のおっさんの幼体みたいな印象があった。口論になったら一瞬でナイフを抜いてくるので、あながち間違いでもないが、子供が軽く扱われているさまは末法の価値観に違いない。


 屋内を覗いて、目立たぬよう手早く目的の相手を探してゆく。

 うめき声のする部屋もある。


 傷病者の集められた部屋だ。命の怪しい重症は手早く介錯されるので、死ななかっただけ悪運のある子供達がいる。手足を失ってうつろな顔で寝込んでいる子供や、戦場病で震え続ける子供。何十年たってもその恐怖は精神に根付いて、人生を台無しにするだろう。一応は食事は与えられていてるものの、未来は暗い。


 暗に前線で死ねという空気が濃密にただよう〈狼小屋〉


「いつ来ても良い気分になれないな……」


 子供の死体を見るくらいならなんとも思わない。しかし、無理やり戦場に連れだされ、あげく手足を失った子供をみて、単なる傷病兵と言い切れるほど感傷を捨てていない。


 人は彼らを負け犬と笑うのだろうけれど。

 すくなくとも彼らに、選択肢などなかった。


 実際、餓死するよりは良い未来を選んだ。バロートの厳しい冬で凍死か餓死するよりは人間らしく戦えた。そう言い張ることはできる。


 ──しかし……こんな光景を受け入れて良いものだろうか?


 そんな疑問は浮かぶ。

 だが、メテウスは腹の底に宿った感情を、ふっと笑い飛ばした。


 卑劣なのだ。

 理不尽に怒れば少しはマシな人間でいられるという考えは、大昔に捨てたはずだった。

 世のありふれた残酷に対して、真剣に怒るには――やはり年を取りすぎていたのだ。


 メテウスの傭兵としての処世術である。

 他人事は他人事のままでおいておくのが一番よい。


 だって人間は自分の人生を生きなければならない。

 自分の幸福や人生をないがしろにしてまで何かを救おうとする人間は、救世主の病に罹患した心の病人にすぎず、因縁もない人間を救おうだなんて、メテウスには不自然な動機が後ろに隠れているような気がしてならない。


 比べればどうだろうか?

 自分の幸福を嚙みしめて、それがふと卑劣なことなのではないかと我が身の卑小に震えることもありながら、それでも身を落とさない真っ当に幸福の人間のほうが、どれほど勇気があるだろうか。


 天に記されているという運命の羅針盤は、一人の人間のことなど一顧だにしないものだから、悪人が幸福に人生を送ることもあるし、善人が溝底のどん底に堕とされることもよくあることだ。人はよく行いに報いがあるものだと信じたがるのだけれども、メテウスの目には奴隷商人たちは枕を高くして偉そうにしたまま幸福に死んだように見えた。

 だから善人も悪人も邪魔ならば殺すというのが一番の平等に思えたし、他人の運命に深い興味は抱かなかった。


 ──手足を失った子供たちを見捨てて、目を逸らすように次の部屋を探した。


「あれ?メテウス、狼小屋に用ですか?」


 ちょうどメテウスが探していた子供が見つかった。

 昨日、帰り道に同道していた孤狼児ガルーだ。すこし年上の女の子で、深い藍色の海の底のような目をしている。名は……


「リンツァ。水浴びに来たんだけど、ついでに頼み事があってな。兄貴はまだ生き残ってるか?」

「もう。縁起でもないこと言わないでください。こっち、来て」


 手を引かれ、雑魚寝の広間の一角に連れていかれる。

 皮鎧をチクチク繕っている、すこし年上の少年がいた。

 修繕を小遣い稼ぎにしているようで、対価とおぼしき酒や煙草が小脇に置いてあった。兵士に融通を効かせるなによりの貨幣となる。


「兄さま。メテウスが、兄さまに用事あるって」


 振り返った少年は、ギロリとメテウスを睨みつけた。

 陰間でもそうは見ない、女の子じみた顔立ちをした金髪の少年だった。だが、額を難しくして、目は猜疑心に満ちている。リンツァに似た華やかな顔立ちをしているのに、こちらは一目で孤狼児ガルーとわかる。名は……


「グライン。そんな目をされると睨まれてる気分になるよ」

「睨んでるんだ」


 ガルーに安心できる子供時代など存在しないので、みな大人びているが、このグラインという少年はとびきり可愛げがなかった。

 メテウスはなれなれしく肩を叩くが、ぺしっと払われる。


 ──リンツァとグラインは半年ほど前に孤狼児ガルーになった兄妹だ。貴族かそれに近い立場から浮浪児に落ちてきたのは、なんとなくパっと見でわかる。

 当人たちは溶け込もうと努力しているが、いくら隠そうとも生まれというものは、所作や何気ない言葉で伝わるものだ。


 そして、内心も伝わる。

 高貴な生まれの子供が、垢じみたすっぱり臭いを漂わせる浮浪児上がりの孤狼児ガルーに好感など抱くはずもない。逆もしかり。


 当然いじめの対象となったのを、メテウスは他人事として眺めていたが、あるときリンツァが徒党を組んだ少年たちに服を脱がされているのをみかけ、口出しをしたことがあった。


 善意ではない。略奪品を大人に横取りされ、気晴らしを求めていたメテウスは、深い考えもなく強姦現場を邪魔した。具体的には全員の腕か足をへし折って傷病室送りにした。

 何人かは肩輪になって死んだかもしないが、思うところはない。

 中途半端に言葉や殴り合いでやりこめたところで、夜にナイフで襲い掛かってきたのを殺すことになるだけだ。

 なんせ孤狼児ガルーの序列に生死がかかっていて、殺しにおとがめがない。衛兵が機能している街中とは揉め事のルールが違う。


 メテウスに善意など欠片もなかったし、孤狼児ガルーへの容赦もなかった。なんなら半裸のリンツァを放置して、折れた手足に泣き叫ぶ孤狼児ガルーたちから小銭を剝ぎ取って立ち去った。


 しかし、それ以来、リンツァは年上の男たちを色んな意味でへし折る少女との評判を獲得し、来るものに容赦しないメテウスも関わっているとなって、安全になった。

 メテウスは警戒心を解いて話しかけてくるリンツァに、それならばと、恩着せがましく頼みごとを繰り返す。食べ物を一人分余分に用意してもらうだけで大助かりだ。


 妹の恩人を邪険にしきれないグラインはそれでもメテウスを少し警戒していたが、腹になにか隠し持つ知能などメテウスにありそうに見えなかったので、気にしないことにした。

 いつしか兄妹とメテウスは利用し合う腐れ縁となった。


 そして、たとえ利用しあうだけであっても、孤狼児ガルーに信用できる相手がいるというのは、唯一無二の価値があった。

 背中を刺される心配のない他人がとにかく貴重だ。

 メテウスはさっそく要件を話し出す。


「頼みがあるんだ。敵の兵士が持ってる武器を手に入れたい。徴兵された奴らに配られる規格品で、小さいものがいる。ナイフか、藪分け鉈あたりがいいな。手に入るだろうか?」


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