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第4話 朝食の香りと、傷口の膿

「起きて」


柔らかい声。


「パン冷めるわよ」


ノーボディーが目を開ける。


窓が明るい。


光が白い。


「……いい匂いだ」


腹が鳴る。


「当然」


剣士レイが腕を組む。


「私が焼いたのよ」


「嘘つけ」


笑い声。


「焼いたのは私ー!」


呪い師カヤが皿を掲げる。


「ほら見て!完璧でしょ!」


湯気。


白いパン。


割る。


蒸気が逃げる。


「……すごいな」


バターが溶ける。


「はいミルク」


木のコップ。


冷たい。


甘い。


「生き返る」


ノーボディーが言う。


「大げさね」


レイが笑う。


「戦場じゃ泥水すすってたくせに」


「だからだよ」


パンを噛む。


外は市場の声。


鍛冶の音。


子供の笑い声。


「領地の報告です」


文官が入る。


「もうか?」


「待ってるわよ皆」


地図が広がる。


「ここが麦の収穫地帯です」


「……広いな」


「戦争で放棄されていた土地です」


レイが指を置く。


「ここに水路を引けば三倍になる」


カヤが口を挟む。


「呪いで害虫も追えるよ?」


「物騒なこと言うな」


「便利だよ?」


笑い。


扉が叩かれる。


「使者です!!」


箱が運ばれる。


封蝋。


異国の紋章。


「聖王国からです」


ざわめく。


「開けて」


中は金貨。


香辛料。


絹。


「同盟の証だって」


カヤが目を輝かせる。


「すごーい!!」


文官が震える。


「王国が攻め込んでいる国です」


「つまり?」


「あなたに賭けてきた」


静寂。


ノーボディーがパンをもう一口食べる。


「守れるか?」


レイを見る。


「守るわ」


即答。


「なら受けよう」


外で鐘が鳴る。


朝が続く。


光が暖かい。


――同じ頃。


「ぎゃああああああああああああああ!!」


絶叫。


ペイシェンが飛び起きる。


地下は暗い。


空気が重い。


臭いが刺さる。


壊死臭。


甘く腐った肉の匂い。


「……うっ」


吐きそうになる。


口を押さえる。


「来たか……」


低い声。


勇者ジャスティが笑っている。


布の下。


黒ずんだ皮膚。


膿が滲む。


「遅いんだよ聖女ァ……」


ペイシェンが近づく。


足が震える。


「光を……当てます」


手が光る。


白い魔法陣。


触れた瞬間。


「ぎゃあああああああああああ!!」


肉が焼ける音。


じゅう。


煙。


ペイシェンの腕も焼ける。


「っ……!」


歯を食いしばる。


血の味がする。


口の中を噛んでいた。


「治ってねえじゃねえかァ!!」


ジャスティが唾を飛ばす。


「何してんだよ!!」


腕を振り回す。


だが肘から先がない。


空を掴む。


「俺は勇者だぞ!!」


叫ぶ。


「こんなはずじゃねえ!!」


膿が飛ぶ。


床に落ちる。


匂いが強くなる。


「静かに……してください」


ペイシェンが言う。


声が死んでいる。


「うるせえ!!」


ジャスティが笑う。


「お前のせいだろ!!」


「……違う」


「違わねえよ!!」


舌を出す。


歯が黒い。


「ノーボディー追い出したのは誰だァ?」


胸が刺される。


言葉が出ない。


「お前だろ!!」


笑う。


笑い続ける。


「なあ」


急に小さな声。


「治るよな?」


目が濁っている。


「俺が治ったらよ」


唾を飲む。


「王も女も全部取り戻す」


沈黙。


「お前も抱いてやるよ」


ペイシェンが固まる。


だが。


すぐ理解する。


呪い。


腰から下が動かない。


男として終わっている。


ほんの一瞬。


ほんの一瞬だけ。


安堵する。


「……無理です」


思わず笑う。


冷たい笑い。


「何だと?」


「治りません」


光を当てる。


じゅう。


焼ける音。


ジャスティが叫ぶ。


「やめろォ!!」


だが手は止めない。


止めたら死ぬ。


「役立たずがァ!!」


その言葉。


昔の声。


自分の声。


ノーボディーに向けた言葉。


胃がねじれる。


膝が震える。


光が揺れる。


「ぎゃああああああああああああああ!!」


地下に絶叫が響き続けていた。


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