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第2話 勇者ジャスティが壊れた場所

城内は暗かった。


静かすぎる。


「……変ね」


剣士レイが小声で言う。


松明の火が細く揺れる。


壁が黒い。


床が濡れている。


血だ。


乾ききっていない。


「兵が少ない」


ノーボディーが言う。


「陽動が効きすぎてる」


「いいことじゃないの?」


「怖いけどな」


二人は走る。


階段を駆け上がる。


足音が響く。


金属音。


息が荒くなる。


ドン。


城が揺れた。


砂が落ちる。


遠くで何かが砕ける。


「決着が近い」


剣士レイが歯を食いしばる。


「急ぐわよ」


「分かってる」


最後の廊下。


風が逆流してくる。


魔力の匂い。


喉が焼ける。


扉が見える。


半分崩れている。


隙間から黒い光。


「行くぞ」


ノーボディーが押す。


扉が倒れる。


音が広がる。


中は――


地獄だった。


勇者ジャスティが壁に叩きつけられている。


腕が折れている。


ありえない方向。


足がない。


膝から下が消えている。


「う……あ……」


生きている。


だが壊れている。


聖女ペイシェンが光を注いでいる。


手が震えている。


涙で顔が濡れている。


「治って……お願い……治って……」


光が弾かれる。


傷が閉じない。


黒い霧が滲んでいる。


呪いだ。


聖騎士ピューリが立ち上がろうとする。


滑る。


血だまり。


「まだ……戦える……」


膝が砕けている。


それでも剣を握る。


賢者デリィジェは床に座り込んでいる。


目が空っぽだ。


「計算が……違う……」


同じ言葉を繰り返している。


そして。


魔王。


玉座に座っている。


巨大な影。


笑っている。


「ほう」


低い声。


空間が震える。


「ノーボディーか」


名前を呼ばれる。


全員の視線がこちらを向く。


勇者ジャスティの目が開く。


「……お前……」


ノーボディーは何も言わない。


ただ前に出る。


剣士レイが剣を抜く。


「任せて」


空気が変わる。


魔王の笑みが薄くなる。


「面白い」


床が割れる。


戦いが始まる。


衝撃。


斬撃。


光。


闇。


世界が歪む。


耳が鳴る。


息ができない。


「右!」


「分かってる!」


剣士レイが飛ぶ。


赤髪が閃く。


ノーボディーが滑り込む。


短剣が黒い肉を裂く。


魔王が吠える。


腕が振り下ろされる。


床が消し飛ぶ。


「危ない!」


抱き寄せられる。


近い。


汗の匂い。


血の匂い。


「まだいける?」


「まだいける」


笑う。


怖いのに。


笑っている。


「封印陣いく!」


「任せる!」


ノーボディーが地面に刻む。


指が震える。


魔力が暴れる。


魔王が迫る。


巨大な影。


覆われる。


「間に合え」


歯を食いしばる。


光が走る。


空間が裂ける。


黒い渦。


吸い込まれる。


魔王が叫ぶ。


腕が伸びる。


届かない。


消える。


静寂。


耳鳴りだけ残る。


誰も動かない。


勇者ジャスティがうめく。


「ころ……せ……」


ノーボディーは見る。


壊れた英雄。


嫌いじゃない。


でも。


もう同じ場所には立てない。


それだけは分かる。


剣士レイが息を整える。


汗が光る。


綺麗だと思う。


「終わったわね」


ノーボディーは息を吐く。


「ああ」


遠くで城が崩れる音。


聖女ペイシェンの嗚咽。


聖騎士ピューリの歯ぎしり。


賢者デリィジェの乾いた笑い。


全部混ざる。


剣士レイが聞く。


「これからどうする?」


ノーボディーは少し考える。


天井の穴から夜空が見える。


赤くて。


美しい。


「生きるよ」


その瞬間。


背後で勇者ジャスティが絶叫した。


まだ終わっていなかった。


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