ある春の日、いつもは放置してきていた婚約者が突然私の前に現れまして……?
ある春の日のことだ。
なんてことのない穏やかな昼下がりであった。
「やあ、会いに来たよ」
いつも私を放置している婚約者ラヴェニールが唐突に現れる。
それだけでもかなり嫌な予感がするのだが。
しかもなぜかやたらと笑顔だからなおさら気味が悪い。
「君との婚約だけど、破棄とすることにしたんだ」
「え……」
「そのままの意味だよ。君との婚約は破棄とする、そう言っているだけ」
真剣な話をしている時でさえ彼は笑顔だった。
穢れのない笑み――そんなものを浮かべる人間ではないのだ、彼は。
婚約破棄するのが楽しみだから?
婚約破棄できるのがそんなに嬉しいのか?
……まぁ、恐らく、きっとそういうことなのだろう。
だとすれば今さら何を言ったとしても無駄。私の言葉は彼には届かないのだろうし、もし届いたとしても聞き入れてはもらえないのだろう。こういう時は本来であればまずじっくり話し合いをすべきなのだろうが、今はそんなものは成り立たないというのが現実とみて間違いなさそうだ。何を言っても無駄、話し合いなど不可能、それが答えなのだろうと容易に想像できる。
「バイバイ」
別れしな、彼はそれだけ言った。
◆
婚約破棄から一ヶ月ほどが経った頃、ラヴェニールは、魔法使いであるという可愛い系の女性と婚約した。
しかし彼は女性に騙されていて。
高級品を買うだけ買わされて捨てられてしまったのだそう。
しかも別れることとなった際にラヴェニールが失礼なことを言ってしまったために、彼は魔法をかけられて――今、ラヴェニールは、人ではなく不快な匂いのするねずみとなってしまっているのだとか。
ちなみにその魔法は絶対解くことができない魔法だそうだ。
ラヴェニールは人としての生を終えた。
◆
あれから数年。
婚約破棄後しばらくは花を育てることに専念していた私だったが、ちょっとしたきっかけから参加したパーティーにて心の綺麗な男性に出会い、その人と結婚することとなった。
流されるように生きてきてたどり着いた場所がここだった。
ある意味運命に従ってきたようなもの。
けれども、自分の意思と無関係だったのはあくまではじまりだけ。その先を選んだのは私自身。だから後悔は欠片ほども存在しない。むしろ今は大きな幸福と感謝を抱き締めている。
◆終わり◆




