437話 海が聞こえる、でも…
「同情するなら金をくれ!あと家もくれ!ついでに美味しいご飯もくれ!」
「無いよ!そんなもの!」
なんで通りすがりの人に無いものねだりをしてしまうのだろうか。そんなことを聞く前に、彼の家は乗っ取られたから意味がない。悲しいが、これが現実。
「ゴールデンウィークって今日からだよね?ねぇ…今日からだよね?」
「そうですね。それにしても…どうしてお店の前で泣いているのですか?」
「つむぎ…大人には戦わなくてはいけない時が…」
「いや、この子は残念なことに…家がないのです…」
「…どういうことですか!?飛翔さん…その…えぇ…」
「困惑するのも無理はないよ…でも、家がないのは本当なんだから。かわいいだけじゃだめみたいだね…」
「そういう問題じゃないでしょ…」
困惑の顔を浮かべるつむぎの前で、飛翔はお金だけはあるからどこに行こうか迷っている。
「…何もないなら何もない所へ行こうか。」
決心した飛翔、目の前に来たバス停に乗り、適当なバス停で降りてはまた別のバスに乗る。こうすることでしか今の現状から目を背くことができないからだ。
彼はバスを乗っては降りて、降りてはまた乗って、何もない所へ向かった。いや、向かったはずだった。
「飛翔さん?どうしてここに来たのですか?」
「…ここはどこ?」
「ここは甲洋。新保の隣の小さな港です。」
「そうでしたか…はぁ。」
「こんな小さな町に何か用ですか?」
「…この町に…いや、この世界に見放されたような気がして…」
「そうですかね。ところで、この町は好きですか?」
「…この町は初めまして。だけど、この町は嫌いじゃない。ネオンや人工の光だらけというわけでもなく、だからといって1人の静かで暗い街というわけでもない。程よい静けさと、綺麗な街並みは嫌いじゃない。ただ、今の僕には少しだけ痛い。家が乗っ取られて、頼みの綱が切れたら…最期を予感してしまうんだ…」
「絶望を感じると、良くない方に考えてしまうのは仕方ないんです…でも、あなたはたぶん大丈夫です。きっと。」
「そういえば、あなたの名前を聞いてないと思って。」
「私は宇出津涼音。と言うか…聞いたことあるよね!?」
「あ!だから聴き覚えある声だったのか…涼音はここに住んでるの?」
「いやいや…ここには友だちの家があるだけだって…その友だちに色々あってね。」
「そっかぁ…そういえば今年の学食サークルはどうなの?」
「飛翔さんってまだ来てないんでしたっけ?」
「今年はまだ来れてないんだよ…」
「そしたらゴールデンウィークが明けたら来てください!」
海の見える小さな町で、少しだけ先の約束を結んだ。家が乗っ取られた今、少しだけ生きる希望が見えた気がした。
「…ところで、ここらへんの美味しいお店ってある?」
「…新保に出た方が早いと思います。」




