438話 港から大海へ
「…結局、何やってんだろうな。」
少しだけ大きな港町、新保。漁港の前の市場の目の前で飛翔は嘆いていた。家を守れなかった責任も、一人になった寂しさも、何も満たされていないからだ。満たされないものを嘆いたところで何かが動くわけではないが、動くためには何か行動を起こさないといけない。たとえそれが小さな嘆きだとしても。
「あれ!?また来たんだ!」
「…覚えてたんだ。でも、ごめんね。僕が覚えてないんだ。」
「そっか。覚えててほしかったんだけどね…まぁいいや。うちで美味しいマグロを買わないかい?」
「君は…誰?」
「あはは、私は海荷。この店の店番で秋から大海大学に行くんだよ。」
「そうなんだ。もしかして結花さん的なこと?」
「…楠さんの話だよね?」
「そうだよ。一度学校をやめてから自力で復帰した…」
「…知ってる。だって、私の憧れだもの。」
「知ってるんだ…」
「だからあなたが飛翔さんだということも知ってるんだよ!」
「…それなら、今彼女はどうなっているのか、知らないかい?」
「知らない…けど、私と一緒にお昼を食べたら少しはわかるかもよ!」
そういうと、お店を閉めて、彼女は着替えてきた。そして、一番人気の店で一番人気のマグロ丼を頼んだ。
「勝手に決めちゃったんだけど…どうかな…」
「人気なだけあってちゃんと美味しいね。」
「やっぱりここは美味しいんだ。実はいつも並んでいるから一階も行ったことないんだよね…逆にいつも行ってる隣のお店も観光客には人気なんだけど…正直料理は美味しくないと思ってたからさ!」
「これで750モイでしょ?十分だよ。」
「えへへ!それなら良かったよ!ほら、店主さんもニコニコ笑ってるし!」
「…ここの店の店主さんって…もしかして無口だけどいい人ばっかり?」
「もしかして…この前あそこのお店に行ったんでしょ。あそこね…私の師匠のお店なんだよ!」
「そうなんだ…」
「確かにあの人は無口でどこか無愛想だし、こだわりも強いんだけど…自分の料理を褒めてくれる人には優しいんだよ!」
「そうだね。あの時も美味しいって言ったらあら汁をおまけしてくれたんだよ。」
「それ、煮つけ定食でしょ。あの人の料理はなんでも美味しいんだけど…初見で魚の煮付けを選ぶのは素晴らしい選択だったよ!あの人が1番こだわってるからね!」
「そんな有名な店だったんだ…」
「…それにしても、本当に大丈夫?」
「…ごめん、やっぱり辛いわ。」
「辛い時はこれを飲むといい。」
「店長さん!」
「…美味しい。美味しいです。」
「ここの店長さん。申し遅れました。私は隣の小さな魚料理屋の店長、若狭と申します。」
「えぇ、お久しぶりです。」
「…海荷。それとこの前の食通さん…なんとなく事情はわかった。ちょっと用事があるらしい人がいる。駅まで行きなさい。」




