420話 やなことは、全部食べればいいの
「昔々、転生する前の話ですわ。」
彼女が中学生の時までさかのぼる。中学生の頃の彼女はバスケットボール部でそれなりに名前を響かせていた。その成績が功を奏して高校も特待生として入学した。しかし…
「高校の時のわたくしは…ここまで明るくなかったです。」
部内はライバル同士のギスギスした雰囲気、グラウンド内外で横行するのはいじめと賄賂。ボールをわざと回さない、お金を払って使い走りにされるのはまだかわいい話だ。お金を払っていじめを受けないようにしたり、先生に口封じしたり…さらには身体の関係をもってレギュラーを取ったこともあった。誰かを蹴落として、誰かと裏でつながって…気が付いた時には技術ではなくお金と裏技とコネで勝ち取った酷いレギュラーとなった…
「わたくしはその時に断ったのです。全ての悪い誘いを…ですが断った次の日から酷く虐められて…そんな時に親は離婚騒動でわたくしの事なんて見てなかったのです。」
こうして命を終わらせようとしたとき…誰かがそっと話しかけた。心配する声に振り向くと、かっこいい…のかどうかはさておき見知らぬ男子が優しく諭した。まだ死んではいけないと。しかし…その光景を見られていたらしく、その日からより深刻ないじめが始まった。靴が隠され、ユニフォームが切られ、先生は見て見ぬふり、親に相談しても相談できず…
「そして、この世界に来たわけです。最初は貧しかったですけど…今は戦争を何度も乗り越え、その先に今のわたくしがいるのです。」
「なるほど…」
「…そうだ、二郎に行こう。」
こうして神楽阪の二郎に行くことになった天使たち。しかし、こんな大人数が言っても大丈夫なのだろうか。
「…第2支部のあの子が運営しているし、何より座談会をすぐ抜けたでしょ?」
「気づかなかった。」
「あれはラーメンの仕込みに行ったからだよ。既に予約したからゆっくり行こうよ。」
こうして天使たちは二次会のノリで二郎に向かった。
「すみません。予約した大島です~」
「初音様!?…こんばんわ。第1支部の九頭竜悟志だ。いつもありがとうな。」
「いえ。今回は10人だ。全員小でお願い。」
「はいよ。」
店内には緊張感が走る。そして、茹で上がった後に呪文を唱える。呪文は千差万別、様々なコールが駆け回った。
「いつも思うけど…野菜がチョモランマだなぁ。」
「まぁ、食べようじゃないか。」
一口すすると興奮するような美味しさと犯罪的な多幸感に包まれる。そのまま二口三口と進んでいき、食べ進めていくとどんどん増していく満腹感、そして器にスープだけが残る頃には絶望感と罪悪感、それと少しの憎しみが生まれていった。そして店を出た後…
「やっぱり二郎はすごい。」
「初めてだよね。ここまで美味しいものは。」
「…ところで昼間に喋ってたのは誰だったんだろう。」
「紫乃ちゃんの隣の子?あれは…」
その瞬間、隣で汚い音が聞こえていた。




