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偏食家  作者: 池田圭


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焼き鳥

 夜、仕事帰りにバスに乗っていた俺は、窓から見える外の景色を眺めていた。

 しかし、ココ最近は、変わり映えのしない外の景色を見るのに、飽き飽きしていた。

 というのも、俺はいつもこのバスに乗って、その後1時間くらい歩いて、自宅まで帰る訳だが、このような景色を俺は、7、8年くらい見ていた為、変わり映えのしない景色は俺に何の刺激にもならず、ただ退屈でしか無かった。

 そんな事を考えながら、窓の外を見ると、スーパーの駐車場に、ひとつの赤色のキッチンカーが止まっていることに気づいた。

 俺は、そのキッチンカーを確認すると、直ぐにバスのボタンを押し、料金を支払い、バスを降りた。

 1、2分かけて歩いた先に、例のキッチンカーは、そこにあった。

 この赤色のキッチンカーは、最近よく街で、チラホラ見かけるチェーン店の焼き鳥屋で、ここの駐車場に止まるキッチンカーは毎週月曜日に、ここで焼き鳥を売っていた。

 俺は、ここのキッチンカーに掛けられていたメニュー表を見た。

 そこには、数々のメニューとその下に焼き鳥の写真があったが、俺が1番喰いたかったモノは、そこには無かった。

 俺はそのキッチンカーで、もも、かわ、ぼんじりを1本ずつ頼み、料金を支払い、店を後にした。

 店を後にした俺は、歩きながら、ももをひとつ食べた。

 美味い。

 やはり、焼き鳥と言ったら、俺の中ではタレである。焼き鳥通は焼き鳥を塩で喰うと言うが、俺は俄然タレであり、この少し甘味の効いたタレと肉のマッチは絶品と言わざるを得ない。

 しかし俺は、充分美味いはずの焼き鳥を喰いながら、何かがもの足りないと感じていた。

 多分この気持ちは、かわやぼんじりを喰ったとしても、おそらく感じるものである気がした。

 高校生の頃、俺はよく同じ道を歩いていた。

 毎日、毎日、変わり映えの無い景色を見ながら歩いていた俺は、次第にその光景に飽き飽きしていた。

 しかし、毎日変わり映えの無い道だと感じていたある日、俺はひとつの焼き鳥屋がスーパーの前に立っていたことに気づいた。

 その焼き鳥屋は白いキッチンカーで、俺がいつも歩く道に、たまに立っているものだった。

 最初の方は、なんか白いキッチンカーがあるな程度の感覚で通り過ぎて行ったが、その焼き鳥屋を意識して、この道を歩いてみると、どうやらその焼き鳥屋は、毎週月曜日にキッチンカーをスーパーの前に出していることに気づいた。

 そんなキッチンカーを意識して歩いていたある日、俺は満を持したかのように、そこのキッチンカーで焼き鳥を頼むことにした。

「いらっしゃい」

 そう言う店主は、少し小太り体型の50歳ぐらいのおやっさんで、この人が作る焼き鳥はさぞ美味しいのだろうなという風格があった。

 俺はそこでメニュー表を見た。

 もも、かわ、ねぎま等、一般的なメニューがある中で、俺は普段見慣れない、牛ロールというメニューに惹かれた。

 ここの店のメニュー表は、赤いキッチンカーの焼き鳥屋とは違い、メニュー表に焼き鳥の写真が付いておらず、何が出てくるかは頼むまで分からなかった。

 俺はその時、牛ロールをひとつ頼んで見ることにした。

 牛ロールを頼むと、店主は牛ロールを焼き始め、俺に話しかけてきた。

「お兄ちゃん、学生さんかい?」

 俺は少し戸惑った。

 普段、あまり話すことのない俺は、いきなり店の店員さんに話しかけられるといったレアイベントに遭遇することは無かったからだ。

 しかし、そんな俺に相反して口は勝手に動いていた。

「まぁ、はい。そうですね。」

「あぁ、そうなの?まぁ、制服着てるから同然よね。いつも、ここの道通ってるでしょ。君の歩き方、特徴的だから覚えてしまったよ。ハハハ。」

「あぁ、そうなんですか。」

 その時の俺は、その状況に少し動揺しながらも、人当たりの良く、話好きな店主と話をするのは悪くは無かった。

 そんな話をしていく中で、次第に牛ロールは出来上がっていた。

「はい、牛ロールね。」

 店主が差し出した牛ロールを見て、俺は値段を確認した。

 値段を確認した俺は、店主に130円渡そうとしたのだが、「あぁ、学生さんだから、学生料金で100円で良いよ」と言われ、俺は100円だけ払って、店主に会釈をして、店を後にした。

 店を後にした俺は、その牛ロールをひとくち喰った。

 美味い。

 その牛ロールは、タレの旨みと牛肉の旨みが染み込んでいて、噛めば噛む程、美味しさが口いっぱいに広がるモノで、今迄喰った焼き鳥の中でも格別に美味いものだった。

 これが、あの焼き鳥屋の店主とのファーストコンタクトであった。

 俺が高校1年生の、冬の頃の話である。

 それからと言うもの、俺は焼き鳥屋が来る日に、毎週、毎週、そこで焼き鳥を喰うようになった。

 最初は牛ロールしか喰わなかった俺も、次第に、ももやにんにく、豚バラ等、様々なものを喰うようになっていき、そこの店のメニューは全部コンプリートしていた。

 俺が焼き鳥を買う度に、店主が俺に話しかけていたが、その時間も楽しかった。

 まぁ、基本的に店主の話は訛りが強く、何を言っているのかよく分からん時もあった為、大体は店主が自分の思い出話等について話し、俺がそれを聞かされただけであったが。

 そんな感じで焼き鳥をそこで買っていたのだが、俺が高校三年生で受験シーズンに入り、受験に専念することとなったことにより、俺は高校三年生の時に、そこの焼き鳥屋に行かなくなっていた。

 そんな、高校三年生の時の秋の頃だった。いつも、月曜日に立っていた筈のあの焼き鳥屋は、いつの間にか消えていた。

 それ以降、俺が帰っていた道にあの白いキッチンカーが月曜日に来ることは無かった。

 そんな事を思い出しながら、俺はかわを食べ歩きしていた。

 あの白いキッチンカーが来なくなった理由は、今もよく分かっていない。

 ただ、ひとつだけ俺が分かっていることは、二度とあの牛ロールを喰うことは無いのだろうということだけだった。

 あの牛ロールは、おそらく牛スジを串で巻いたものなのであろうが、あの牛ロール以外、あの美味しさは出せないだろうと実感する。

 俺が今日買った焼き鳥屋の焼き鳥も、いずれ誰かの思い出になるのかもしれない。

 そう思いながら俺は振り返り、小さくなったキッチンカーを眺めながら、焼き鳥の串を1本取り出すのであった。

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