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第7章.カラバル島の死と再生

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63.メルの大脱出と聖なる仲間達

 メルは暖かい海水をまともに顔面に受け、目を覚ました。


 起き上がろうとするが、手首足首を縛られて動けないことに気づく。はっと我に返って周囲を見渡す。どうやら海辺の洞窟に転がされているようだ。洞窟には奥に向かって傾斜がついており、メルの方に海水が溜まって来ていた。メルは砂地を蛇のように這うと、岩壁を背中の支えにして立ち上がった。


「……ここは?」


 夕闇迫る海が、文字通り闇のごとく洞窟内に満ちて来ている。メルは嫌な予感がした。


「……もしかして、満ち潮?」


 海流が荒くなって来ている。洞穴内に荒波が打ち付けながら入り込んで、彼女の体を洗いに来ていた。このままここから出られなければ、満ち潮に飲まれてしまうだろう。メルは自らの腰を見下ろしたが、二丁の銃は奪われていた。縄をほどく刃物も持ち合わせていない。メルはとりあえず


「誰かー!」


と大声を出した。洞穴内にわんわんと声が染み渡り、再び波の音が場を支配する。


「誰もいないか……」


 その時だった。


 ………………。


 メルは刮目する。


「聖なる樹……?」


 懐かしい気配。メルは洞穴内から外を見た。


 二つの月は、ようやくの満月。


(どこかに、花の咲いた聖なる樹が、ある)


 メルは絶体絶命ながらも、一筋の光を見つけた。


「ここから、どうやったら出られるのー!」


 再び声を出すと、日没間際の冷えた空気の中、思わぬ言葉が返って来た。


「あなた、青い血の人間?」「なぜ海に投げ捨てられたの?」「縛られてたら出るのは無理だ」「誰かに切って貰えればいいけど、私達には足がないから」「また奴隷が運ばれて来たら、助けてあげるよう言ってみるよ」「とにかく満ち潮になる前に高い所へ逃げなさい」「洞穴を出て、岩場を歩け。縄を切ることよりそれが優先」「這ってでも早くそこを出た方がいい。今すぐに」


 大集団の声が、一挙にメルの耳に洪水の如く流れて来た。メルは耳鳴りがしたが、手足を縛られていては何も出来ないと判断し、近くにある岩で必死に手の縄をこすった。摩擦熱が伝わって来て腕ごと火傷するかと思ったが、ようやくぷちぷちと縄が切れた。メルは腕をこすり合わせるようにねじってねじって、ようやく縄から解放された。足の縄も外し、薬の副作用でまだ重い頭をもたげて歩き出す。


 海水の波に足を取られ、たまに海水に打ち付けられながらも、メルは坂を登るように洞穴を出た。ずぶ濡れになり、体が随分と重い。やっとのことで出られたが、まだ先は長い。岩壁を背に再びそろそろと歩みを進める。潮はどんどん満ち、メルの足を容赦なく襲い始めた。


「どっちへ行ったらいいのー!?」


 メルが叫ぶと、


「砂浜!とりあえず、見える砂浜までおいで!」「今、兵士達は引き払ってるぞ」「そりゃ砂浜だろ」「砂浜!」


との声がする。メルは次に砂浜を探した。暗くてよく見えないが、ぼんやり白い地面のあるところが目に入った。メルは少しずつ壁を伝って岩場を歩き、時には体をねじるようにして岩陰から這い出て、海水まみれになりながらも地道に砂浜を目指した。


 ようやく砂浜に辿り着き、メルは砂浜に寝転び夜空を見上げる。すると


「そろそろ兵士が船に乗ってやって来る時間だよ」「寝てる場合じゃなーい!」「どこに隠れるのが正解かなぁ」「砂浜に着いたか?」「兵士が来る前に、頂上へ行け。あんたの仲間らしき人間が縛られて転がっているぞ」


と次々声がする。メルは砂浜から立ち上がった。


「仲間、ですって……?」


 レッドがそこに囚われているのだろうか。はたまた、ナローか。どちらにせよ、頂上へ行ってみる必要がありそうだ。聖なる樹と女神の樹が相当数寄り集まっているらしいし、ここは奴隷商人の重要拠点の可能性が高い。


 浜からすぐそこは山になっている。山登りの必要がありそうだ。


 山道を周囲に気を配りながら歩いて行く。兵士の姿がまるで見えないのが、むしろ恐ろしい。油断させて殺すつもりなのかもしれない。ことは慎重に運ばなければならない。


「おねーさん、カラバル島は初めて?」「何で連れて来られたんだろう。殺されそうになった理由は?」「あらかた、無断侵入だろう。前もここに流れ着いた漁師が同じような殺され方をしていた」「やーね。あいつらは本当に野蛮だわ」


 騒がしい声が続いている。かなり多くの樹が花を付けているらしい。


 メルはやはりここか、という思いを強くする。


(ここが、レッドの言っていたカラバル島)


 樹の声の多さからして、やはりここに一大プランテーションを形成しているようだ。これを知られて困る人間が誰なのか、頂上に行ってみればはっきりするだろう。メルは上を見上げた。聖堂のような建物があるのが見える。帰る船も見当たらないし、まずはあれを目指そう。


(銃さえ手に入れれば、何とかなる……)


 そこからは黙って山道を登る。聖堂に向かう彼女の背中には月明かりが降り注いでいる。夜空には満天の星。


 メルはふと考える。


ーー神の実。


 ツーが地図に引いた線からはかなり外れているが、このカラバル島をプランテーションにしているということは、栽培に適していると判断された土地なのだ。ここに成っていてもおかしくない。


「お、仲間のひとりが起きたようだよ。こっちこっち」「兵士がそろそろ帰って来る頃だよ。聖堂より草叢に隠れなよ」「馬鹿ね、地下室の方がいいわ。積荷に紛れれば脱出出来るかも」「馬鹿はそっちだ。もよおしたらどーする」「あ、そうか。お姉さんは人間だものね」


 メルは駆け上がった。早く聖堂にいる仲間を助け出して、ここを脱出しなければならない。

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