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第6章.二つの塔の島と恋

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56.神の実が嫁入りに必要です!

 使用人の寝室に入ると、メル達は使用人のベッドのそばに立たされた。


「ではメル、この青い血を使用人の口に含ませるが良い」


 メルは注意深く青い血の小瓶を手に取ると、その口に漏斗を差し込んで少しずつ青い血を流した。使用人の女性は何事かうめくと、ふと目を開けた。


「……陛下?」


 女性は驚きながら飛び起き、額を押さえた。どうやら眩暈がしたらしい。医師が飛んで来て、メルのすぐ隣に割り込み処置を施す。


 余りに急激な効き具合に、メルとレッドはたじろぐように固まっている。その途端、周囲の視線は青い血のレッドに集中した。レッドは視線に対抗するように周囲を威嚇気味に眺め回してから、ふんと鼻を鳴らす。


 シドはこの急な出来事に目を見張り、その視線をメルに向けた。


「これは凄い。つまり、ルイスの病も」

「陛下。ルイスには、即位の前に飲ませました。今ウォーリスが国の形を保っていられるのも、このレッドの血のおかげなのです」


 メルはそう言って胸を張った。レッドは少し居心地悪そうに首をすくめる。ツーは初めて聞いた事実に、隣で息をすることすら忘れている。


「そうか!ではレッドは、ルイスの命の恩人というわけなのだな?神の実の毒を消し去るとは……メルが彼を大事にしている理由が良く分かった。おい、アーカングルに運ばれて来た奴隷達を買い戻すんだ!今すぐ警備兵は港へ向かえ!」


 シド王はそう叫ぶと、メルに向き直った。慌ててメルは心に留めていたことを尋ねる。


「陛下、ミトという少女はアーカングルに帰って来ましたか?レッドと同じ、赤い髪に赤い瞳の、五歳くらいの女の子なんですが」


 するとシドは、はっと思い当たったようにこう答えた。


「ミトなら、船長から預かっている。今頃リディアと庭園にいるはずだ」

「そうなのですね、良かった……彼女も青い血の持ち主なんです」

「なんと、それは誠か!おい、そこの。ミトを呼び出せ。謁見の間に連れて来い」


 シドとメル達は再び兵士に連れられ、謁見の間へと舞い戻る。そこに兵士に連れられて、緊張の面持ちのミトがやって来た。ミトはメルの顔を見つけると笑顔で手を振った。レッドは少女の赤い髪と瞳を、吸い込まれるように見つめている。


 ミトもまた、レッドをぽかんと見つめた。そして一言


「ミトにそっくりだよ!」


と叫んだ。レッドは近づいて行くと、彼女の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「俺もミトと同じ、青い血の民だ」


 するとミトはとても嬉しそうにレッドの腹に抱きついた。ようやく同じ人種に会えて安心したらしく、ミトは子供らしく弾むように話し出す。


「ねぇ、トーイのお兄ちゃんはどこに行ったの?」

「お仕事に行ったみたいだ。また帰って来るよ」


 王は玉座に戻ると、ミトに努めて優しく話しかける。


「ミト、これからお前はリディアと共に、そこの女神の樹の世話をしてやってくれないか?樹の言葉を分かる人が欲しいのだ」


 ミトは特に深く考えることなく「うん」と笑顔で答えた。シドもメルも、微笑みながら相槌を打つ。


「ところでーー」


 一方その声に振り返ったメルに対し、シドは態度を硬化させる。


「港にウォーリスの軍艦がやって来ているようだが、あれは何なのだ?」


 そう言って、疑いの眼差しを投げる。メルは居住まいを正すと


「軍艦には、ウォルターがおります。二つの塔の島から、ここまで運んで貰ったのです」


と答えた。シドは色々な部分で合点が行ったようで、悩ましく顔を歪めて頬杖をつくと、


「ウォルターか……連れて来い」


と呟く。すぐに兵が出て行き、シドはメルを少し睨んだ。


「情報を漏らした上、我が新島調査船に大砲を撃ったらしいな」


 メルは冷や汗をかいたが、言い訳が立たないのでとりあえずにっこりと愛想笑いをしておく。


「まぁ良い。借りはこれから返して貰うぞ。神の実についてだが、それが成る法則というのはないのか?それが分かれば、収穫をコントロール出来ないだろうか」

「それは私も今調べているところです。けれど、いかんせんサンプルが少な過ぎてデータが取れなくて」

「もしウォーリスで神の実の研究をやりにくければ、ウルム庭園の一角をその研究用に分けてやってもいいぞ。青い人が死なないと生えて来ないというのが、ちと負担だが」


 神の実の数と青い血の人数に大きく乖離がある限り、実態の解明は遅々として進まないだろう。メルが顔をしかめて考えていると、レッドが言う。


「……ひこばえ」


 メルとシドが顔を上げた。レッドは繰り返す。


「ひこばえが生えるくらいまで大きく育てれば、挿し木で増やせるんじゃないか?メルと一緒に、ネマラートで貰ったじゃないか」


 確かに、とメルは深く頷く。ひとつの樹を大きく育てればいいのだ。特に、実を付ける方の女神の樹を大きくする必要がある。時間がかかりそうだが、一生をかけてやるしかない。挿し木や接ぎ木などの方法も、これから研究しなければならない。


 レッドは続けて言う。


「あとは保存出来れば、不作の時でも安定して青い血の人に供給出来るな。果物だって言うから、寒い場所で……」


 その時だった。


 レッドの目の前に、雪深い場所で大人達が凍った実を取り出す光景が現れたのだ。


 本当に一瞬の記憶ーー


 レッドはこめかみを押さえて黙ってしまった。メルは異変に気付いて尋ねる。


「どうしたの?レッド」


 レッドはメルに向き直ると、


「貯蔵庫」


と震える声で言う。メルが尚も疑問符だらけの顔をしていると、レッドは更に言った。


「トリニット村には神の実の貯蔵庫があった。そうだ、何で今まで忘れてたんだ……」


 その時、兵士に連れられてウォルターがやって来た。シドは立ち上がり、彼を歓迎する。


「おお、ウォルターか。久しいな」

「陛下、相変わらずお元気そうで何よりです」

「お主にも、ウォーリス王家を毒牙にかけていた連中の調査に協力して貰いたい。ヨアキムの仇を共に討とうではないか」

「私は最初からそのつもりで軍艦を動かして来たのですよ。まさかメルと二つの塔の島で再会するとは思いもしませんでしたが」

「神の実の所在、青い血の民の居所、このあたりを把握すれば誰が実を王族に与えていたか分かるであろう。そうなれば、前にも話した通り、嫁入りの話を考えてやってもいい」


 それを聞いて、メルの目が点になった。


「あの、陛下?嫁入りとは……」


 彼女がおっかなびっくり話に割って入って来ると、ウォルターがさも何でもないという風に


「あれ。メルには言ってなかったか?」


などと言う。メルはまだ状況を把握し切れていない。


「アーカングルの第四王女リディア様と、我が国のルイスとの婚姻が一時期内定していたのだ。しかし陛下はルイスの遺伝病を疑い、リディア様の嫁入りを渋っておられた」

「つまり神の実の毒を誰が入れたか特定出来れば、婚姻を承諾して下さる、と……?」

「要約すると、そういう話だな」


 ウォルターのその言葉に、やにわにメルの目が輝く。


 金髪碧眼のルイス王と、金髪そばかすの王女様。


 その子どもはきっと、ルイスそっくりな金髪碧眼そばかすのーー


「叔父様!なぜそんな大切なお話を早々にして下さらなかったのですか!?」


 突如瞳に火のついたメルに食ってかかられ、ウォルターは汗をかく。


「あの時はごたごたしていたし、お前は出て行くしで言いそびれ」

「叔父様が陛下に疑われるような男だったからいけないのよ!私が偶然にも国を離れることがなかったら、神の実の依頼も受けられず、レッドにも会えず、女神の樹も手に入れられず、ルイスの結婚も見られないところだったわ!ああ、ルイス……叔父様を許して」

「……そんな大げさな」

「いけないわ、このままでは。ルイスの婚礼が……新しい王子が……レッド!」


 レッドはメルの豹変ぶりに目をすがめている。ミトもレッドにしがみついて怯えていた。メルはレッドに詰め寄り、ミトはレッドの背中に隠れた。


「よーく思い出すのよ、レッド。あなたの記憶だけが頼りよ!」

「うっせーな。昔の記憶を喪失してるって言ってるだろ」

「ルイスの結婚……リディア様のウエディングドレス姿……ううう」

「落ち着けメル……何で今泣いてるんだ?」


 ウォルターとツーはお互いの白けた顔をちらと見交わす。


 リディアは少し恥ずかしそうに顔を赤らめ、うつむいている。シド王はメルを見て微笑みつつ、そっと鼻をすすった。

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