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イカレた学者令嬢は最強スナイパー〜騎士様に逃げられたので毒舌奴隷を買いました〜  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
第6章.二つの塔の島と恋

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53.レッドvsウォルター

 と言われたものの、メルはほぼ外で待たされていた。理由は簡単で、レッドとツーは軍医の部屋で丸裸にされているからである。


 服を着てメルの元に戻って来たレッドとツーは、なぜか二人して絶望の表情だった。レッドは青くなった顔を両手で覆うと、


「……もう、お嫁に行けない」


と泣き真似をした。ツーは


「大したことはしないって言ったのに」


と何やら腹立たしそうである。メルは眉をひそめて男達の文句を受け流す。


 次に、別の部屋にて聞き取りが行われた。まずはレッドからだ。メルが知っている限りの彼の人生を聞いたが、レッドが十五歳だと知った時は思わず上ずった声が出てしまった。てっきり同じか、少し上の年齢を想定していたのだ。成長の早い分寿命も少し短めだと聞いて、メルは寂しい気持ちになる。


 次にツーが通されたが、彼の生い立ちもまた、謎と波乱に満ちた人生だった。彼がレッドに同行した理由がようやく分かり、メルは少し胸を撫で下ろした。なぜかは分からないが、メルはツーに少しだけ嫉妬していたのだ。ツーはどこか愛情深そうで、男のくせに妙な母性を持ち合わせている。それがレッドに向けられていると何だか落ち着かない時があるのだった。表立っては言えない、メルの正直な気持ちだった。


 全てが終わると、外は再び夕闇が支配した。軍艦の中では夕飯の香りが漂い、食事の準備が始まっている。


 メル達が会議室でくつろいでいると、ウォルターがやって来た。彼はレッドに顔を向けると急にこんなことを言い出した。


「レッド。お前は私と共に夕食を摂れ。あとの者はそこで各自食べるがいい」


 レッドは片眉を上げる。他の三人はそろりと彼に視線を向けた。レッドは気まずそうに立ち上がると、物言わずウォルターについて行く。




 レッドは別室へ連れて行かれ、ウォーリスのお屋敷にあるような長いテーブルについた。ウォルターと差し向かいになり、レッドは緊張の面持ちで白いテーブルクロスを眺める。


 兵士によって食事が運ばれて来た。レッドが並べられたスプーンフォークを外側から使い始めると、ウォルターは呟いた。


「食器は使えるようだな」


 観察されて、やりにくいことこの上ない。レッドが食べ始めると、ウォルターはさも珍しそうにレッドを上から下まで眺めた。


「レッド。お前に聞きたいことがある」


 レッドは味のしない食事を飲み込むと、次の言葉を注意深く待った。ウォルターは自らの額に手をあてがい、力を込めるよう押し黙ると、ふと口を開いた。


「……お前はメルのことをどう思っているんだ?」


 レッドは余りにも漠然とした質問に拍子抜けした。彼は簡単に答える。


「好きだ」


 ウォルターは苦々しくレッドを眺め、目を閉じた。


「その言葉は、ちゃんとメルに伝えたのか?」


 レッドは怪訝な顔をし、しばらく考え込んだ。改めて問われると、特にそのようなことを面と向かって伝えた記憶はないように思う。


「……別に伝えてはいないが」


 レッドの返答に、ウォルターの食事の手が止まる。彼の手はかたかたと震えている。レッドは首をすくめた。


「貴様、今何と……」

「そんなこと口に出さなくても伝わるだろ?」

「いかんっ!」


 ウォルターがテーブルを力一杯叩き、クロスから食器類が一瞬浮き上がった。レッドは口を開けてウォルターを眺めた。


「お前……メルをそんな風に扱って許されると思うなよ!くそ……メルはこんな奴の何がいいんだ?到底理解出来ん!」


 レッドもその点に関してはウォルターに心の中で同意する。メルは基本的に愛情深い人間だとは思うが、王子への偏愛ぶりといい奴隷への執心ぶりといい、やはりどこか普通とズレている。


 レッドは最初のスープを平らげながら平然と答えた。


「やっぱり母親を亡くしたことが大きいんじゃないか?愛情を与えるところと貰うところに飢えてるんだ。叔父貴はこの調子だし、甘えるところがなかったんだろ」

「……貴様!何を急に知ったような口を」

「あんたの疑問に答えただけだ、ウォルター。俺の何が良かったのかという問いには俺自身にもよく分からないので答えようがないが、俺はメルの辛さは良く分かっているつもりだ。薬草園でのメルは、見ているこちらが辛いぐらいだった。だから俺は……」


 言いながら、レッドは口ごもる。これ以上何か言うのは気恥ずかしかった。ウォルターはレッドを見据えると、ふんと鼻を鳴らした。


「メルを甘やかしてやったとでも言うのか?」


 その人を馬鹿にしたような物言いに、レッドは苛ついて声を張った。


「そうだ。だってあの時は、ルイスが病に臥せっていたんだ。愛情の行く先をなくすかもしれない、メルにとっては人生の一大事だった。支えてやらなきゃ可哀想だろ。俺がそばにいて励ましてやらなきゃ、誰がやる。人を小馬鹿にする前に、何も出来なかった自分を省みたらどうなんだ?」


 するとウォルターは珍しく言葉に詰まった。レッドはおやと言いたげに目を見開く。二人の視線がぶつかって、急にその場が冷えた。


 食事が運ばれて来る。二人は再び黙って皿にとりかかったが、


「だから、あの子に伴侶をと思ったんだが」


 レッドはその言葉に顔を上げる。


「私は、幸せな結婚でもさせてやれば、気持ちが落ち着くのかと」

「そうか?その方法は随分と的外れだな。植物育てながら銃ぶっ放したり、奴隷引き連れて世界をうろついたりしてる女が、そんなもの望むわけないだろ」

「しかしメルは君を望んだ」

「……誤解があるみたいだから言っておくが、最初は本当に、俺はただ護衛として買われただけだぜ。トーイがメルに付いて行けなくて、逃げたのが全ての発端だからな」


 その瞬間、再びウォルターの目に光が戻る。


「……何!?トーイが?」


 レッドはしまったと思い、口を結んだ。このことについては、メルは特に報告していなかったらしい。ウォルターの背中に炎が揺らめいたように見え、レッドは慌てて取り繕った。


「あぁ、ほら、あいつも頑張ったんだよ途中まで……。話を元に戻そう。つまりウォルターの用意したメニューが的外れだっただけなんだ。で、偶然見つけた俺が性に合っただけ。本当にそれだけの話だ。難しく考えるなよウォルター」


 ウォルターは話をそらされ、不機嫌そうにレッドを睨んだ。レッドは愛想笑いをしてみせ、再び食事に取りかかる。ウォルターはしばらく手を止めてレッドを睨んでいたが、急に視線を落とすと、ぽつりと本音を漏らした。


「……考えるのが、馬鹿らしくなるな」


 レッドは彼を見据えた。ウォルターは自嘲気味に笑う。


「お前と話していると、考えるばかりのこっちが馬鹿みたいに思える。お前は複雑な話を、実に単純明快な所に落とし込むな」


 レッドはふーむと呟いた。


「そうか?ウォルターが話を複雑にしてるだけのように思うが」

「まあいい。何となくメルがお前を気に入った理由が分かった。ところでレッド。次に行く場所はどこだ?お前達で一度話し合え。それが終わったら私に報告しに来るように」


 気のせいか、今までぎらぎらしていたウォルターの瞳から力が少し抜けたような気がする。レッドは食事を再開し、ようやく味を感じられることに内心喜んでいた。

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