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第6章.二つの塔の島と恋

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47.ウォーリス軍艦の来襲

 レッドとツーはそれから忙しく測量の日々を送った。アーカングルの雇った測量士達は手分けをして、島の形を探った。地図は着々と出来、完成までそう時間はかからない様子だ。これだけの人数が集まれば、苦もない作業であった。


 この島の動植物は全てが原色で、目がちかちかする。熱帯の暑さに殺されぬよう、レッドはシャツを脱ぎ、木陰で涼んでいた。そこに、ツーがヤシの実のようなものを持ってやって来る。


「レッド、どうですか一杯」


 ツーは手際良くナイフでヤシの実を割り、半分をレッドに分け与えた。レッドは遠慮なく受け取り、実の中のジュースを口に含む。


 その時だった。遠くで、ドーンと大砲のような音が聞こえて来た。アーカングル隊は木陰から出て、音のする方を探る。


 海の向こうに、黒っぽい大きな船が見えた。こちらに近づいて来るようだ。それを見て、隊の誰かが叫んだ。


「軍艦だ!」


 レッドとツーは目を凝らす。はためく旗には、紫の盾に渡り鳥の紋章。大砲は明らかにこちらに向いている。


「ーーウォーリスの軍艦だ」


 ツーが呟いた。レッドは怪訝な顔でツーを振り返る。


「ウォーリスは内陸の国だぜ。軍艦なんかあるわけないだろ」


 ツーは目をすがめて首をやれやれと振った。


「……確かに内陸の国ですが、軍艦ぐらいはありますよ。河川を走らせて、外の海に出られる軍艦が」

「……そうなの?」

「余り知られてませんけどね。けど、なぜその軍艦がここに……」


 ドーンという音は尚も聞こえて来る。レッドは何か嫌な予感に怯えながら言う。


「これ、船に戻った方が良くねーか?」


 するとその言葉を待っていたかのように、辺りから大声が聞こえて来た。


「総員退避!アーカングルの調査船に戻れぇ!」

「大変だ……行きましょう、レッド」


 レッドは塔の方向を眺めた。まだあそこに、シャーマンの老人が残されている。


「ツーは先に行っててくれ。俺はじーさんを連れて来る」


 辺りはものものしい空気になって来ていた。威嚇の大砲が次々打ち鳴らされている。ツーは覚悟を決めた顔でレッドに言った。


「私も行きます」


 レッドは面食らったが「勝手にしろ」と呟いて、塔へと走って行った。ツーもその後を追う。


 二つの塔の麓に老人はいなかった。レッドとツーは辺りをぐるぐると徘徊し、全く同じタイミングで塔を見上げた。何やら頭上で音がする。二人は塔の内部を駆け上がり、頂上に立った。


 そこには無言で女神の樹を掘り返している老人がいた。


 鋤や鍬を駆使し、力任せに引き抜こうとしている。レッドとツーは慌てて老人を樹から引き剥がした。


「おっ、お前ら何するんな」

「じいさん、早く逃げるぞ!軍艦が来て、何かキナ臭いことになってるんだよ」

「早よこれ掘り返して逃げなならん。これを放り出したらアカンのや、わしの大事な女神なんや」

「分かったよ!ほら、ツーそれ持って」


 レッドは鍬、ツーは鋤でもって女神の樹の周囲を掘り返す。塔の一部ごとごっそりと引き剥がし、レッドは女神の樹を抱えた。


「アーカングル船に逃げろ!ほら、じーさんも一緒に行くんだよ!」


 三人は急いでアーカングルの調査船に戻ることにしたが、ウォーリスの砲台がいきなりその調査船を撃った。続けざまに水柱がそこかしこで立ち上がり、調査船は沖合へと逃げるように走り出した。三人は口を開けてその光景を眺めた。


「調査船が……行ってしまった」


 ツーの声が震えている。レッドは周囲を見渡し、何事か考え込んでいる。しばらくすると止まった軍艦からボートが次々と降ろされ、兵士らしき人影がこちらに漕いで来るのが見えた。それを見て、老人がぽつりと呟いた。


「……隠れよう」

「隠れるって、どこに?」


 レッドが期待を込めて尋ねると、老人ははっきりとこう答えた。


「草陰に!」

「駄目じゃねーか!」


 ツーがくらくらとその場にしゃがみ込んだ。


「お、おしまいだ……アーカングル船を沈めようとした奴らが、私達を放っておくわけがない」

「おい、しっかりしろ、ツー!何としても生き延びるんだよ!いいな!?」


 老人はふらりと歩き出してしまう。レッドはターバンを引き延ばすと、背中に女神の樹を背負って体に巻き付ける。レッドとツーは慌てて老人の背中を追いかけた。




 三人はそれぞれに草陰に隠れた。樹をしょっているレッドは、這うようにして移動する。ボートを漕いで島へとやって来た兵士達は周囲を見渡して、危険がないか先に確認する作業をしているようだった。レッドが息を殺してその様子を見つめていると、砂浜の砂を蹴りながら、見覚えのある人影が歩いて来た。


 レッドは目を剥いた。


 ウォルターがいる。


 続いてその背後から、兵士が歩いて来てウォルターに色々と話しかけている。レッドは少しずつ近付いて、その方向に耳をすませた。


「原住民がいたら、どう致しましょう?」


 尋ねる男に、ウォルターは顔色ひとつ変えずに言う。


「皆殺しで構いませんよ。私達は何としても、神の実を探し出さなくてはならない。早いところ、秘匿せねばならないのですから」


 レッドはウォルターの言葉を心の中で反芻する。


ーー神の実。


 あの男も神の実を探しているらしい。なぜウォルターのような赤い血の人間が、神の実を探しているのだろう。彼もまた、ネマラート島の伝説を聞いたというのだろうか。可能性があるとしたら、メルから聞かなければ知り得ない情報ではないだろうか。


(だとしたら、なぜメルはこんな男に神の実の話をしてしまったんだ?)


 レッドは急に頭が冷え、腹が立って来た。やはりどんなに仲が悪くても姪と叔父だ。ひと月ぐらい過ごしただけの奴隷より、結び付きは強かろう。


(……っと。そんなこと考えてる場合じゃなかった)


 レッドは考えを振り払った。ウォルターの声がする。


「女神の樹を探し出しましょう。その樹に神の実がなるのです」


 幸いこの島にはまだ神の実はなっていない。女神の樹もレッドが背負っている。ウォルターの調査は徒労に終わるだろう。そこでレッドは再び思案した。


(見つからないように逃げればこちらの勝ちだ。けれどそのためには、どうするべきか……)


 測量を終え、土地勘もこちらの方が上回っている。レッドは周囲を見渡して考えた。


(まずは、兵士に見つからないようにボートに乗って……)


 そこまで考え、アーカングルの調査船は既に退避してしまったことを思い出す。


(打つ手なしか……)


 ウォーリスの軍艦に乗り、荷物の中にでも隠れるしかないのだろうか。その時だった。


 レッドの肩を、ツーが叩く。


 彼は、海の方を指差していた。


 もう一隻、船がやって来るのが見える。レッド達が乗って来たのとは別の、アーカングルの調査船だった。


 新たなアーカングル船の登場に気付いたのはレッド達だけではなかった。ウォルターも同様に沖合の船に気づき、兵士達に指示を出す。


「新たなアーカングルの調査船だ!砲撃手は再び軍艦に戻れ!」


 その一声で、兵士の半分ほどが再びボートに乗り込み軍艦へと舞い戻る。レッドは少しほっとした。これで殺される危険が半分に減った。


「くそっ……何なのだ、タイミングの悪い」


 ウォルターはそうひとりごち、忌々しそうに砂浜の砂を蹴っている。




 一方その頃、メルはーー

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