43.二つの塔の島へ
月夜は長い。メルはイリヤに尋ねた。
「この村に、リサという男はいたかしら?」
イリヤは
「いなかったわ」
と否定した。どうやらレッドはここの出身ではないらしい。
「恐らくだけど、ここ以外にも青い血の村は
あるはずよ。あの海の海流は複雑なの。流された実が、どこへ行けるかは運次第ね」
メルは月の光たなびく海面を見た。あの海のどこかに、二つの塔が……
「ねえイリヤ。二つの塔って知ってる?」
メルが尋ねると、イリヤは
「伝説のアレね。洞窟の壁画は見た?」
と問い返して来る。メルは「見たわ」と答えた。
「あれは二つの塔がある場所を示しているの。ここから船で二、三日かかる距離にあるそうよ。あの洞窟の中央が二つの塔の場所らしいから、予測してみて」
やはり、とメルは予想が当たって嬉しくなった。ごろんと寝そべり、星空を見上げる。神の椅子座がそこにあった。
船に乗ったら、計算してみよう。アーカングルの船員に直談判して、二つの塔のある新島へ。
そこで待っていれば、いつかレッドにも会えるかもーー
そのままメルは気絶するように眠ってしまった。
朝になり、メルは肩を揺すられて起こされた。はっと目を開けて見上げると、そこにはトーイがいた。
「何でこんな所で寝てるの、メルさん」
メルは潮風に吹かれながら、汗ばんだ額を袖で拭った。すぐそばに生えているイリヤは、もう何も語らない。
ミトはメルと青い花を交互に眺め、
「お姉ちゃん、イリヤとお話ししたの?」
と問う。メルが頷くと、ミトは意外なことを言った。
「じゃあ、お姉ちゃんも番人が出来るね」
また新しい単語が飛び出した。
「番人ってなあに?」
メルが尋ねると、ミトは青い海を見渡して答えた。
「実が取れたら、海に流すの。実の中に入っている赤ちゃんを、どんぶらこどんぶらこ……って海に流して、遠くに行ってもらうんだよ。何人かは割って、近くで育てるの。神の実がなるまで、そうやって暮らすの。神の実がなったら、番人は交代するんだよ」
コルト島の、古い習わしのようだ。村の中から、聖なる樹と女神の樹の世話係を選出するというのだろうか。
「でもね、ミト。私達、ここを離れなくてはならないの。二つの塔を目指すのよ」
するとミトは悲しそうに顔を歪ませた。メルはしゃがみ込み、慌ててミトに視線を合わせる。
「ミト……一緒に、来る?」
そばでトーイが少したじろいだのが分かる。しかしメルはこの幼女を放っておくことは出来なかった。
青い血の幼女。
男のレッドでさえ、一度奴隷になってしまったらあのような酷い人生を歩まざるを得なかったのだ。性別が女であるというだけで、もっと酷い人生を歩かされる危険があった。
「うん!私、またお兄ちゃんやお姉ちゃんに会いたい!」
メルは泣き笑いの表情でミトを抱き寄せる。そして体を離すと、手を繋いでイリヤの元へ向かった。
「イリヤさん。この子を預かります。必ずここに戻って来ます。その時までお別れです」
日光を浴びたイリヤは何も言わない。
「私、あなたに会えて良かった」
そう言うと、メルはイリヤに背を向けて歩き出した。イリヤは風にそよぎ、手を振るようにしなっている。
その日の夕方、三人は無事密林を降り、アーカングルの新島調査船に到着した。
メルはミトを伴って船長室に赴き、新島の可能性を訴えた。計算し終えた海図を広げ、まだ空白の海上にピンを打つ。
「ここから北西に進み、二、三日で着くそうです」
乗組員の視線が、幼いミトに集中する。島では天真爛漫だったミトも、沖では不安がってメルにしがみつく。メルはミトの肩を抱き寄せた。
「現地の人間が言うんだから、間違いなさそうだな。進路変更するか?」
船長の問いに、乗組員達は少しはにかんだ。船の長旅は体にこたえるので、実のところメルの出した意見は歓迎されていた。
「じゃあそっちに行くか……おい嬢ちゃん、そこに食い物はあるかね?」
するとミトは急に明るい顔になって答えた。
「いっぱいあるよ!魚も貝も取れるし、とにかく色んな花が咲いてるんだあ」
メルは驚いた。ミトはどうやら二つの塔の島へ行ったことがあるらしい。船長はほぅ、と頷いてにやけ顔でメルを眺めた。
「そういうわけか、植物学者。花で一攫千金狙ってやがるなァ?」
メルは困ったように笑ってはぐらかした。金の匂いを嗅ぎ取って、やにわに船内が活気づく。
「ようし、進路決定。船を出す準備だ!」
メルとミトは同じ船室で眠りについた。ミトにベッドを貸してやり、メルは床に布団を敷いて眠る。
メルは夢を見た。レッドと再び旅に出る夢ーー
一方、その頃レッドはーー




