2.男奴隷は火口に吊るされて死にたくない
この火山地域特有の貫頭衣を着、サンダルを履いてウエストに腰紐を結ぶと、レッドはようやく奴隷から旅行者風になる。
土産物屋で服を着せられ、そのまま食堂に連れて行かれる。メルが予約した席は個室で、卓上には既に温められた食器類が並んでいた。レッドは腹が減っていたのでさっさと席に着くが、メルは突っ立っている。
「どうしたんだ?」
とレッドが問うと、
「男性がお席を引いてくれませんと、座れないのです」
とメルが言ったので、彼は足で彼女の席を蹴った。
「あら、どうも」
嫌な顔ひとつせずメルが座ってしまったので、レッドは舌打ちをした。
(火口に入る前にこいつから逃げなければならない。またはお役放免願いたいが……)
何せ彼女には銃がある。買った奴隷を生かすも殺すも自由だ。また、彼女の頭のネジの吹き飛び具合から、何が引き金になって物事がどのように転ぶか予測が立たない。レッドが安全に逃走する方法を模索している内に、料理が運ばれて来る。彼は空腹には勝てず、ナイフとフォークですぐさま食事を始めた。
「まぁ!」
メルが感嘆の声を上げる。
「奴隷なのに、ナイフとフォークの使い方をご存知ですのね」
レッドはしまったと思いつつ、
「前に屋敷の使用人の小間使いやってた時、躾けられたんだ」
と言う。メルはキラキラした視線を送る。
「色々なお仕事をされたのですね?」
「まぁ仕事というか、強制労働というか……あんたが考えてるような生温い労働じゃないよ」
様々な思い出が蘇り、レッドは吐き気を食事と共に飲み込んだ。
「そんで?あんたが俺を買った理由を教えてくれよ。俺はあんたに何をすればいいんだ?」
メルはうーん、と虚空を見上げてからレッドに視線を戻した。
「簡単に言うと、護衛と採集です」
「護衛……採集……」
「はい。と、その前に、私の仕事のお話をさせていただいてよろしいかしら?」
「いいけど」
メルは今までにない真剣な眼差しを向けて来る。
「ありがとう。私は植物学者でして、世界を旅しています。旅の目的は、薬に使える草花や鉱石を採取してウォーリス王国に安全に持ち帰ること。そのためのお手伝いを、あなたにしていただきたいのです」
身を乗り出して熱弁するメルに、レッドはばっさりと言った。
「例えば、どんな?火口に立ち入ったりすることか?」
メルはそれを聞きぽかんと口を開けている。
「知ってるぜ、さっき……」
「レッドは勘が良いのですね!そうです、火山帯にはまだ未知の鉱石が沢山あります!良く知っていますね、レッド。デザートも注文しましょうか?」
「今の内に言っておく。俺、火口には絶対行かないからな!」
話を遮るのも一苦労だ。頭のおかしい女に捕まってしまった。
「そうですか?火口に何か嫌な思い出でも?」
らちがあかないので、レッドは話題を変える。
「俺、もう疲れたから食べたら早く休みたいんだけど」
するとメルは頷いて、
「そうでしたね!長旅でお疲れでしょう。私はもう少しお部屋でお仕事してますから、レッドは先に寝ていてくれて結構ですよ」
とにっこり笑った。ふとレッドの頭に疑問が湧いた。
「まさか、部屋一緒か?」
「そうですね、カーテンの間仕切りがありますが同部屋です」
こともなげにメルが言い、レッドは少し震えながら呟いた。
「嫌われれば、あるいは……」
「何か言いましたか、レッド」
「いや……こっちの話」
レッドは苦し紛れに笑ってみせた。メルも応えるようにニッコリと笑った。




