第十二章・第九話「近づく確信」
その夜、俺はクロウに今日の出来事を報告していた。
『羽鳥先輩に、兄がいたみたいです。何かあったようで、名前を出した瞬間、明らかに様子が変わりました』
既読がついてすぐ、返信が届く。
『それは、ちょっと無視できない情報だな。学校関係の伝手で、もう少し詳しく調べてみる』
『お願いします』
やり取りを終え、俺はスマホを机に置いた。窓の外では、夜の静けさが街を包み始めている。
(羽鳥先輩の兄――その人に、何があったんだ)
もし、あの様子の変化が、俺自身――あるいは「ラストクリアラー」という存在に関係しているのだとしたら。頭の中で、嫌な予感が、次第に大きな輪郭を帯び始めていた。考えれば考えるほど、胸の奥がざわつき、なかなか寝付けない夜を過ごした。
翌日、本条から連絡が入った。放課後、俺はすぐにカフェへと向かった。
「学校関係の伝手で、少し情報が取れた」
本条が重々しい口調で切り出す。テーブルの上には、簡潔にまとめられたメモが置かれていた。
「羽鳥には、七つ上の兄がいる。名前は羽鳥蓮。かつて、ゲーム時代にそれなりの実力者だったらしい」
「蓮さん、ですか」
「ああ。そして――あのサービス終了をきっかけに、仕事を辞め、今も自宅に引きこもってるという話だ」
その情報に、俺は思わず息を呑んだ。指先が、自然と冷たくなっていくのを感じる。
(まさか……)
「羽鳥の心に何があったのか、想像はつくだろう」
クロウの低い声が、静かに続いた。
「お前自身には、何の非もない。あのサービス終了も、お前が意図してやったことじゃない。だが――あいつにとっては、お前こそが、すべてを奪った元凶に見えてるのかもしれない」
その言葉が、重く胸にのしかかる。俺は、何も答えることができなかった。自分には落ち度がない――そう頭では分かっていても、誰かの人生がそれによって壊れてしまったという事実の重さは、簡単には受け止めきれるものではなかった。
「これから、どうすればいいんですか」
俺が絞り出すようにそう尋ねると、クロウはしばらく沈黙した後、静かに口を開いた。
「今はまだ、動くべき時じゃない。奴が本当に黒鴉と繋がってるのか、もう少し確実な証拠を掴むまでは、迂闊に接触するな」
「分かりました」
窓の外、夕暮れの空が、次第に紫色へと染まっていく。その色の変化を眺めながら、俺はただ、静かに拳を握りしめていた。
――羽鳥との関係は、もう後戻りできないところまで、近づきつつあった。
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